じゅりれなよ永遠に -4ページ目

じゅりれなよ永遠に

じゅりれな・坂道小説書いてます。

講義の終わりを告げるチャイムが鳴り、

学生たちが一斉に席を立つ。

 

今日は川崎桜のサークル活動がない日で、

珍しく和、咲月、桜の3人で

一緒に帰ることになった。

 

キャンパスを抜け、駅へと向かう道すがら、

桜がふと口を開いた。

 

「そういえばさ、和の彼女の遠藤さくらさんって、

どんな人なの?」

 

悪戯っぽく笑う桜の問いに、

和は少し照れたように、

でも嬉しさを隠せないといった表情で話し始めた。

 

「1コ上の先輩なんだ。

すごく内気な人なんだけど

笑うとすっごく可愛いの。私が告白したんだよ。

高校2年の時、さくらさんの卒業式に」

 

 誇らしげに語る和の横顔を、

咲月は直視できなかった。

 

自分の知らない和の物語。

 

その一つ一つが、胸に小さな棘のように刺さっていく。

 

「へえー!情熱的じゃん!

いいなあ、ラブラブだね」

 

 桜が茶化すように言うと、

咲月も必死に笑顔を作って頷いた。

 

「うん、ほんと、いいなあって思う」

と、かろうじて声を絞り出す。

 

やがて、いつもの駅前に着く。

 

和は少しそわそわしながら、

スマートフォンを確認した。

 

「私、ここでさくらさんと待ち合わせしてるから。

じゃあね」

 

「はーい、お幸せにー!」

と桜がひらひらと手を振る。

 

和は「もう、やめてよー」と笑いながら、

二人に背を向けた。

 

和の姿が喫茶店の方へ向かうのを見送った直後、

桜が咲月の腕を掴んで悪戯っぽく囁いた。

 

「ねえ、さっちゃん。和の彼女、見てみたくない?

ちょっとだけ、あとつけよ!」

 

「え、でも…」

 

 戸惑う咲月を、

桜は「いいからいいから!」と

強引に引っ張っていく。

 

咲月は仕方なく、その後に続いた。

 

和は、駅前のレトロな喫茶店「ポエム」の

中へと入っていった。

 

窓際の席に座り、一人で本を読んでいる。

 

咲月と桜は、通りの向かい側の柱の陰から、

固唾をのんでその様子を窺っていた。

 

20分ほど経っただろうか。

 

一人の女性が店に入ってきて、

和の座るテーブルへと向かった。

 

すらりとしていて、色素の薄い髪がよく似合う、

儚げな雰囲気の人だった。

 

「あれが…遠藤さくらさん…」

咲月の呟きに、桜も「うわ…」と息をのむ。

 

 遠藤さくらは、和に気づくと、

はにかむように小さく微笑んだ。

 

それに応える和の笑顔は、

咲月が今まで見たこともないほど、

柔らかく、幸せに満ち溢れていた。

 

「むちゃくちゃ、可愛い人だね…。

和も隅に置けないなあ。いい彼女さん捕まえたね」

 

 桜はすっかり満足した様子で頷くと、

「さて、ミッション完了!じゃ、私たちも帰ろっか!」

と咲月の背中を叩いた。

 

咲月は、心ここにあらずといった状態で

桜の後に続く。

 

二人は駅の改札を抜け、

ホームへと向かう階段の前で別れた。

 

「じゃあね、さっちゃん!また明日!」

 

「…うん、また明日」

 

逆方向の電車に乗るため一人になった咲月は、

ホームのベンチに力なく座り込んだ。

 

 さっき見た光景が、

まぶたの裏に焼き付いて離れない。

 

 自分以外の誰かに向けられた、

和のあの特別な笑顔。

 

そして、その笑顔を引き出している、

可憐で素敵な人。

 

和の幸せを、はっきりと目で見てしまった。

 

それは、決して自分の入り込む隙間のない、

完璧な世界だった。

 

電車の到着を知らせるアナウンスが、遠くに聞こえる。

 

咲月はただ、胸の深い痛みと共に、その場にうずくまっていた。