じゅりれなよ永遠に -4ページ目

じゅりれなよ永遠に

じゅりれな・坂道小説書いてます。

後に残されたのは、静寂と、友梨奈、

そして腕の中の彩だけだった。

 

友梨奈はゆっくりと屈み、

彩の亡骸をそっと抱き上げた。

 

驚くほど軽く、そして冷たい。

 

その小さな体に、どれほどの想いと絶望が

詰まっていたのだろうか。

 

夜明け前の薄明かりの中、

友梨奈は彩を抱いたまま、

あてもなく歩き始めた。

 

アスファルトの硬い感触が、

足の裏から伝わってくる。

 

かつて玲奈に言われた言葉が、

再び脳裏をよぎる。

 

(あなたは一人でも多くの人間を救いなさい――)

 

しかし、自分は彩を救えなかった。

 

それどころか、この手を血で汚し続けている。

 

腕の中の彩の顔は、苦悶もなく、

ただ眠っているように穏やかだった。

 

その純粋な魂は、もうこの穢れた世界にはない。

 

(彩…もし、生まれ変わることがあるのなら…

その時は、普通の人間を愛して欲しい)

 

友梨奈の胸の奥から、

言葉にならない想いが込み上げてくる。

 

それはほんのわずかな

希望にも似た祈りだった。

 

 

自分のようではない、清らかな存在が、

このどうしようもない世界に

何かをもたらしてくれるかもしれない、

という淡い願い。

 

やがて、友梨奈は、海を見下ろす

小高い丘の上に辿り着いた。

 

朝日が昇り始め、

空と海を茜色に染め上げている。

 

まるで、彩の短い生涯を悼むかのように、

世界は息をのむほど美しかった。

 

 友梨奈は、彩の亡骸を、

海が一番よく見える場所にそっと横たえた。

 

そして、その傍らに静かに膝をつき、

冷たくなった彩の手にそっと触れる。

 

言葉はなかった。

 

ただ、昇り始めた太陽に向かって、

そして、腕の中で

永遠の眠りについた少女に向かって、

友梨奈は深く頭を垂れ、

静かに黙祷を捧げた。

 

風が、友梨奈の髪を優しく撫でていく。

 

それはまるで、

彩の魂が、友梨奈に最後の別れを

告げているかのようだった。

 

彩の亡骸を弔った翌日、

ニュースは小さな扱いで、

身元不明の女性の死体が海

に打ち上げられたことを報じていた。

 

写真も名前もなかったが、

友梨奈にはそれが

一ノ瀬美空の最期だとわかった。

 

おそらく、口封じのために

 

「レッドドッグ」に始末されたのだろう。

 

あの自己中心的で浅はかな女も、

巨大な悪意の前ではあまりにも無力だった。