玲奈の疑問に友梨奈は、
一瞬だけ視線を逸らした。
そして、再び玲奈を見つめ、静かに語り始めた。
「…それは、誤算でした。
計画にはなかったことですが…
和ちゃんとの関係が、
予想外に深くなってしまった」
友梨奈の声に、
わずかながら緩和が生まれたように聞こえた。
それは、感情の色が混じり始めたサインなのだろうか。
「和ちゃんは、純粋で、脆弱で…
そして、非常に魅力的。あんな状況で、
孤独を抱えながら
ひとりにするには危険だと思った」
友梨奈の言葉に、玲奈は驚愕した。
友梨奈が、和の身が危険だと思った?
それはどういう意味だ?
「まさか…『黒い霧』が、
和さんに報復するのを恐れがあった・・・?」
玲奈が問い詰めると、友梨奈は静かに頷いた。
「可能性は十分にある。
井上知子は組織の幹部だった。
裏切り者の娘を、
組織が生かしておくとは考えにくい」
友梨奈の言葉に、玲奈は息を呑んだ。
そうだ。なぜ今まで気づかなかったのか。
友梨奈は、和を利用しただけでなく、
和を守ろうともしていたのだ。
冷たい任務遂行の裏側に、
何か理解しがたい感情が隠されていたのだ。
「だから、あなたは…」
「ええ、私が和ちゃんのそばにいれば、
組織も簡単には
手出しできないだろうと考えたんです。
公安がマークしている人間に手を出せば、
組織にもリスクがある」
友梨奈は、淡々と説明する。
しかし、その言葉の奥には、
和を守りたいという何かが
隠されているように感じられた。
「…では、あなたは
これからも和さんとつき合ってくれるのね?」
玲奈は、確認するように尋ねた。
それが、今日、
友梨奈を呼び出した本当の理由だった。