卵を割り、箸で卵をときながら
フライパンが熱くなるのを
ひたすらまつ。
「もうそろそろかな?」
店主の仲居は溶いた卵を
フライパンへ流し込む。
“ジュー”と音が店内に響き渡る。
珠理奈は働きながらこの音を
聞くのが大好きなのである。
食べなくてもその効果音で
食べた気になれるからである。
仲居が作っているのは
お昼のサービスランチで
本日はオムレツであった。
オムレツの横には
キャベツとイタリアンスパゲッティ
が添えられており、
色彩が鮮やかなランチである。
「マスター・・・今日のお昼
私もサービスランチほしいなぁ」
そう言ったのは、講義のない日は
お昼時もバイトに入っている齋藤飛鳥だ。
「耳をすませて、音を聞いてごらん・・
オムレツのまろやかさが味覚として
伝わってくるよ!飛鳥」
「そんな特殊能力は珠理奈さんしか
もってませんよ」
話しかけてきた珠理奈に対して
飛鳥は言った。
忙しいランチタイムが終わり
店内がすいた頃、飛鳥は帰宅する。
帰り際、飛鳥は珠理奈に
話しかける
「珠理奈さん・・・実は今日、
好きな人に告白しに行くんです。」
「そっか、がんばれ!」
不安そうな顔の李苑に珠理奈は
元気づける。
「はい!たとえ木っ端微塵になろうと
自分の気持ちを伝えてきます。」
飛鳥はそう言って
外へ出て行った。
「飛鳥は強いですね。
私も見習わないと・・・」
それを聞いていた珠理奈の後ろに
立っていた仲居が
「おまえも十分過ぎるほど強いよ!
自分の気持ちを押さえて、
相手のことを
思いやっているんだから。
俺には真似できないよ・・・」
そう言って、再び調理場へ入って行ったのだ。