群馬イノベーションワードが第10回を迎えた。

10年前に田中仁さんからこの話を伺った時に、とてもワクワクしたと同時にそのようなチャレンジャーを本当にここの前橋・群馬が生み出すことができるだろうか?と感じたことは率直な思い出として伝えたいと思う。

 

そして私と同様にこのことについてこの10年を振り返ったアーカイブの中で当初から審査委員長を務めていただいている #國領二郎慶應大学慶応技術大学教授 のメッセージの中にも「数年で有力な候補が出尽くしてしりつぼみになるのではないか?」という杞憂が語られていた。私ばかりではなかったのだろう。

 

一方國領氏のサイバー文明論にはこのような記述がある

【働く人間も企業も流動しながらどんどん全体システムを進化させていく。様々な要素が組み合わさって思いもよらなかった現象を引き起こすことを創発という。サイバー文明の根本的な原動力は創発の生み出す価値だと言っていい】

 

この10年は社会に対するチャレンジをする若者達が確実にこの地域に存在するということを象徴しているし、彼らが価値を「創発」しながら作り上げているのだ。

 

 

画面に大きく写された、グラフがGIA(群馬イノベーションアワード)の果たしてきた役割を示している。

 

もっとも私が賛意と謝辞を送らなくてはいけないのは #田中仁 #ジンズホールディングスCEO を最初の導火線とするチャーターメンバーの皆様たちだ。 #コシダカホールディングス #腰高博 #相模屋食料株式会社 #鳥越淳司 #オープンハウス #荒井正昭 #セガサミーホールディングス #里見治紀 の各代表の方々、そして61社の特別協賛、パートナー企業の皆さんや16社の金融機関の皆さんのチャレンジに立ち上がってくれた彼らのチャレンジがなければ群馬の地でのイノベーションの芽吹きは止まってしまったのではないだろうか。アワードに応募され、さらにイノベーションスクールで磨かれ、企業を立ち上げた若者が、今度はパートナー企業として支援する立場になっている姿も、このGIAの意味を増している。

 

なぜここまで これだけの善意が集まってきたのか?それは #イノベーションハブ をここに作ることが未来への日本の礎になると人材育成につながると考えて下さったからだろう。

そして、彼ら自身もイノベーションを起こしてきた実践者、先輩として その必要性を痛感してくださっていたからに違いない。イノベーションを起こしてきた人こそイノベーションの力を知っているのだ。

 

私たちは確実に前進をしてきた。たくさんの課題を解決してきた。 しかし一方で解決するべき課題は次々に我々の眼前に現れている。

 

 

最もイノベーションから遠い存在が我々の行政組織である。

それはピータードラッカーが言ったように継続すること、ホメオスタシスの機能、 変わらないことを美徳とするような感覚が行政組織のDNAに刻み込まれてきたからに違いない。しかし我々はビジネスマインドだけで市民サービスを提供してはいない。そこに行政が目指すべき変革の方向がある。現在はビジネスの変革以上に社会変革の必要性に迫られている。そのことを最も痛感しているのも暮らしの矢面に立っている市役所なのではないか?我々こそ変革をしなければならない。その目標は「共に助け合う」という公助の仕組みのイノベーションだ。

 

あの #まえばしブックフェス で私たちが目指したのは,まさに「公助の仕組み」だったんだろうと思う。お金で本を売り買いするのではなく ただ交換しあう。提供した本が誰かに幸せをプレゼントできるんだ。その喜びだけが報酬だ。 今まで僕達を支配してきた貨幣によって結び付けられてきた価値を「幸せ」という新しい価値で結ぶ。まさに #めぶくID はこの”ジョイン”という出会いを創造する。 この言葉は #福田尚久 さん

 

だから想像する。十回のイノベーションアワードでさまざまな観点から社会の課題を解決しようとするビジネスマインドに出会った。しかし、この先はビジネスマインドの成功物語だけではない。アワードの形もまた変化していくだろう。

 

私見ではあるが、次なる変革は社会課題の根本にあるヒエラルキーの変更を生み出す新しいイノベーションだ。そのイノベーターのモチベーションも変化するだろう。ビジネスマインドの先にある公助マインドのイノベーションは多分、イノベーターには金銭に替えられる利益を生み出さないはずだ。グラミン銀行のユヌス氏がその貸付金利から自己の富を得ているのでしょうか?社会全体の利益につながるという思想が必要なんだ。それは革命に近い。ある意味、私は市役所という組織を通して、この革命に取り組んでいるともいえる。

 

何故なら私たちは「税と分配の機能」を唯一持ち得ている組織だからだ。独占から共有への幸福。納税をする人たちが納税をすることへの幸せを感じてもらえる社会を作ることです。それはもっとも困難な革命=新しい文化の創造なのだ。

 

このイノベーションアワードの審査委員長を長く務める國領二郎慶應大学教授が著した #サイバー文明論 の中にその未来が記されているように思う。教授はこう書いている

 

【明治維新の時に単に蒸気船や電信を受け入れただけでなく政治体制から法律芸術言語に至るまで作り直したように今回も仕組みを全面的に再構築しないといけないのではないか。それは結局のところ新しい文明を構築するということではないか…】P3

 

【筆者が経営学者として重視している変化は情報技術の発展に伴って人や物、すべてのトレーサビリティが高まる現象だ。近代工業が生み出した 大量生産品の排他的所有権を匿名の大衆に市場で販売するモデルから、モノやサービスから得られる便益の利用権を登録された継続ユーザーのニーズに合わせて付与するモデルへと移行させる原動力となっている…個人の交換をベースとした市場経済に代わって個人が社会に貢献し社会から受け取る 「持ち寄り経済圏」が台頭し その経済メカニズムに適合したガバナンスメカニズムの構築が重要になる】P4

 

【これを社会に貢献し社会から報いられる経済と表現することができるだろう。市場経済においては個人が持つものより強く望む人と交換する事で渡す側も受け取る側もより満足感を高めるというメカニズムで経済活動を成立していた。しかしその市場取引をよりスムーズに大量に行うことによって人々の満足が理論的最大に近づいているという考えのもとで市場取引の制度が整えられていった。…これに対して社会に貢献し社会から報いられる経済のモデルでは持ち寄ることで価値を高める。財産を皆で社会に供出し、それを使うことに最大の価値を見出す人が使うことを許容しながら、その対価を社会から受け取っていくことになる】P154

 

【トレーサビリティによる知徳報恩経済… このように考えていくと「持ち寄り経済」においてトレーサビリティが重要なのは誰が差し出した(貢献した)資産によって誰が受益したかについて細かく追跡することで「社会に貢献し社会から報いられる」モデルをより精度高く運営することが可能となるからだ】P157

 

誰かの社会貢献へ報恩する仕組みを国領教授が「文明を作るなおす」と書かれているのだ。文明とは幸せの形を再定義するものであるとメッセージだ。

 

※かつて松下幸之助氏が 無税国家論を主張したことを仄聞してことがある。

『企業がその努力によって剰余金を積み立て、企業体質を強めていくように、国家予算の単年度制を廃止し、経営努力により、予算の何パーセントかの余剰を生み出し、積み立てていく。そして、その積み立てた資金を運用し、金利収入によって国家を運営する。そのような国家のダム式経営によって、無税国家、収益分配国家を目指そう。』

 

国家も企業も社会の幸せ創造機能であると龍も思う。が残念ながら私たちはその夢は遠い。

https://konosuke-matsushita.com/proposals/nation/muzeikokka.php