事例がたくさんありすぎて字数制限オーバーになったので、
このパートは記事を2つに分けて公開致します。
②公共物(ハード)を介してシビックプライドを醸成する

このパートでは、
「周囲の環境を変えることで利他的な行動も生まれるのではないか」という仮説のもと、
2つ目の解決の方向性として、
ある象徴的な公共物(ハード・モノ)を介してシビックプライドを醸成することで、
市民同士の仲間意識と誇りが芽生えて各々が居場所を獲得する
という可能性を探っていきます。
シビックプライド。
そういうカタカナ語を使うとなんだか専門用語っぽく聞こえてしまいますが、
例えば、地元のサッカーチームのサポーター。
Jリーグやプレミアリーグなど、試合会場には必ずといっていいほど、
チームカラーを身に纏った熱狂的なファンたちが声を枯らして応援しています。
地元に根付いたひとつの公共的な物を介在させて、
様々な人々が集まり、初めて会う相手であっても同胞意識を持つ。
そのチームの一員であることに誇りを持ち、
毎週末行くスタジアムが、そこに集まる人だかりの中が、自分の居場所になる。
サッカーチームを公共物とみなすのは少々強引ですが、こうした、
街のひとつのシンボルを通して市民のプライドをかたちづくる、というのが、
シビックプライドにあたります。
しかし、「ある街に住む」ことを私たちが考えるとき、実際に頭をよぎるのは、
大都市や職場へのアクセスの良さや、地価の高さ、コンビニやTUTAYAの位置ばかり。
街との関係の稀薄さが、そこに住む人との関係の希薄さを生み、
そしてそれは、孤立する人を増やしていると思います。
だとしたら。
街のシンボルとなる公共物を行政のものではなく、市民のものと捉え直すことで、
市民が自分たちで街を創り、連帯感と誇りを持って、自らの居場所を獲得していく。
そんな方法はないでしょうか。
以下では、そんな疑問に応える素晴らしい事例を紹介していきます。
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自尊心を芽生えさせ、くすぐり、育てる①
『I amsterdam』
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アムステルダム市の中心にある広場「ミュージアム・プレーン」にある、
「I amsterdam」という、ちょっとダジャレじみた立体のロゴ。

この文字が、アムステルダムに住む市民、そして訪れる観光客に、大きな影響を与えています。
「I amsterdam」は、
アムステルダムをプロモートする目的ではじまったキャンペーンです。
このシンプルでとても覚えやすい言葉をコアにして、
市民を巻き込んだキャンペーンが次々に行われています。

amsterdam cardはこの街の市民の証。

amsterdam T-shirtはお土産にもぴったり。
もともとアムステルダムは歴史と文化のある街でしたが、
世界中の都市が栄える中、近年は世界における相対的なポジションが下がりつつありました。
このことに危機感を覚え、市民へのインタビュー調査を行ったところ、
「クリエイティビティ」「イノベーション」「商業精神」
を市民は大切にしていることがわかりました。
そこで、この3つの価値を柱に据えて立案されたのが、
この「I amsterdam」キャンペーン。
「I am」は一番最初に覚える英語でありながら、
自分自身を名乗るのに欠かせない表現。
「I♡NY」のようにシンプルで力強く、誰もが気軽に真似して使うことができます。
このキャンペーンを広めるために、
まず、有名な写真家に自由に市民を撮影してもらい、
そこに「I amsterdam」というロゴを添えるだけのシンプルな写真集を考案。

写真集。
写真展を名目に市長が街中を練り歩き、
よその人には名刺がわりに本を配りました。
すると、市民は徐々に、
「自分たちはクリエイティブでイノベーティブな市民なのではないか」
という自意識が芽生え始めます。
結果、アムステルダムにおいて撮影されたどの写真・グッズであっても、
自分たちで「I amsterdam」というロゴを添えるだけで、
統一感のある、立派な広告や商品として成立する構造になっていきました。
きちんとした調査をもとに価値を規定し、
誇りをくすぐり「その気」にさせる。
とても秀逸なキャンペーンだと思います。
そしてこのキャンペーンにおいては、何より、
立体ロゴとして「I amsterdam」のオブジェがあることがポイントだと思います。

広場の立体ロゴは、公共物としても市民に愛されている。
広告のコピーだけ紙面やCMで踊っていても、どこか説得力がない。
「実物」というファクトをつくってしまうことの強さ。
「文字を大きくするだけでオブジェとして遊びたくなるモノになる」という気づき。
とてもシンプルで力強いアイデアだと思います。
また、観光客にとってはこのロゴの前で写真を撮るのが定番となっているそうで、
そうした外からの熱い視線というのも、市民の誇りを醸成するひとつのポイント。
こうした街で暮らす人たちの幸福度は、やはり高いのではないかと思ってしまいます。
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自尊心を芽生えさせ、くすぐり、育てる②
『ベネッセアートサイト直島』
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http://matome.naver.jp/odai/2133661104038461501より抜粋。
「I amsterdam」と同様、
"市民のクリエイティビティをくすぐって誇りを取り戻す"という意味では、
日本でも面白い事例があります。
それが香川県直島町でベネッセが取り組む、
ベネッセアートサイト直島です。

広い空間にぽつんとある、大理石の球体。(GANZっぽい。笑)
http://matome.naver.jp/odai/2133661104038461501より抜粋。

かの有名なアーティスト・草間彌生さんの作品。
http://matome.naver.jp/odai/2133661104038461501より抜粋。
ベネッセがもともと直島文化村で行ってきたアート活動が、
次第に街中にも舞台をうつし、今となっては街のいたるところにアート作品が。
さらに面白いのは、外からアーティストを招き、
直島や美術館を見て、作品の展示場所を選んでもらっていること。
つまり、街ごとアトリエとしてアーティストに解放してしまうという視点。
結果、安藤忠雄さんや草間彌生さんといった著名な方々をはじめ、
優れた作品の数々が街に点在しているという面白いことになっています。

何を読んでいるんだろう。
http://matome.naver.jp/odai/2133661104038461501より抜粋。

海の駅の横の公園にある謎の椅子。
http://matome.naver.jp/odai/2133661104038461501より抜粋。
これらの取り組みによって国内外から観光客を集めることになったそうですが、
それ以上に面白いと思ったのは、
市民たちが自分たちもアーティストだと勘違いして街に作品をつくりはじめた
ということです。

普通の民家でも、思い思いの展示がなされている。
http://toyoinfonet.co.jp/blog/より抜粋。
作品と呼ぶにはあんまりかもしれませんが、重要なことはそこではなく、
「市民たちがアイデンティティを持ち、プライドを抱きはじめている」ということが、
とても素晴らしいと思います。
「I amsterdam」でもそうでしたが、それぞれの事例において、
「クリエイティビティ」というひとつのアイデンティティに気づかせ、育て、
シビックプライドとして醸成する。
そのヒントは、
アイデンティティを象徴する実物をつくってしまう
ということの力強さにあると思います。
そしてそれを単発で終わらせるのではなく、
最初だけ質の高いもの次々に打ち出し実現していければ、
それに追いつくように市民が育ち、自走化していく。
「I amsterdam」では写真とコピーで、
「ベネッセアートサイト直島」では外部のアーティストの力を借りて、
それぞれ実現させました。
大きな初期投資が可能な場合には、特に参考になる事例かと思います。
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外部の視点を取り入れる①
『探られる島「家島」』
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http://studio-l.org/projects/q_shima.htmlより抜粋。
さて、ここからは山崎亮さんの事例が続きます。
一つ目は、兵庫県姫路市の離島・家島で行われた、
「探られる島」というプロジェクト。
外部からアーティストではなく、大学生を呼んだ事例です。
とある離島で、産業衰退、人口減少、高齢化...
こういった話はよく耳にしますが、
家島も例外ではありませんでした。
これに対し、もっと観光資源を発信して活性化しようと、
島民たちの手で桜の名所、美しい海辺、由緒正しき神社などを広報しますが、
さっぱりうまくいきません。
どれも島に住む人たちにとっては素晴らしいものですが、
しかし、残念ながら島の外の人たちにとっては、
どれもどこかにはありそうな、ありふれた観光資源。
わざわざ遠く離れた離島に行く理由にはなりませんでした。
「内側の人たちが見つけられないのなら、むしろ外の人たちに見つけてもらえばいいのではないか」
そんな視点から山崎さんが考案したのが、
「大学生などの若者を募って外部の視点で家島の魅力を探り、その魅力を冊子にまとめて島の内外に発信していく」というプロジェクトでした。

島に上陸する大学生。
http://studio-l.org/projects/q_shima.htmlより抜粋。
まず、学生たちは大阪で4日間の事前ワークショップを受けた後、
家島で2泊3日のフィールドワークを行います。

漁師による公開調理を見学する様子。
http://studio-l.org/projects/q_shima.htmlより抜粋。
第一回目に行った際には、フィールドワークをする中で、
"家の外なのに、ソファがどかっと置いてある"
"外に出された冷蔵庫の中に、農具がしまってある"
といった、「家の外までも、家の中のように活用している」
という家島の島民ならではの生活習慣を、学生たちは目の当たりにしました。
「家の外にいるのに、まるで中にいるような島だ。」
これらのファクトをこの感覚に翻訳したのは誰なのかはわかりませんが、
とても素晴らしいと思います。
結果、第一回目は「家島におじゃまします」というタイトルで、
港に一歩上陸した瞬間から靴を脱いであがりたくなるような、
そんな島であることを伝える報告書にまとめて島民に発表したそうです。

島民への発表会。
http://studio-l.org/projects/q_shima.htmlより抜粋。
こうした取り組みはたった一回で終わってしまっては効果は薄いですが、
計5年間続けたそうです。
その結果、島を訪れた学生たちは家島に愛着を持つようになることで、
「100万人が1回訪れるのではなく、1万人が100回訪れたい」島になりつつあります。
また、それだけでなく、
こうした新鮮な視点から学生たちの提案を聞くなかで、
島民たちが活気づき、自分たちでNPO法人をつくって特産品づくりを始めているそうです。

特産品「のりっこ」
http://studio-l.org/projects/45.htmlより抜粋。
「ベネッセアートサイト直島」にも共通してみられましたが、
"外部から継続的な影響を受けることで、内部が活性化する"というのは、
ある種の普遍性を帯びたシビックプライドの醸成方法かもしれません。
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外部の視点を取り入れる②
『笠岡諸島子ども総合振興計画』
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笠岡諸島は、岡山県笠岡市の沖に位置し、
高島、白石島、北木島、飛島、真鍋島、六島の7つの島からなります。
少子高齢化し、若者はどんどん外へと出て行ってしまう。
だから笠岡諸島の未来を語る必要があるし、バラバラの笠岡諸島が一丸となれるものを見つけたい。
そんな思いから考案され、はじまったのが、
「笠岡諸島子ども総合振興計画」。
各島から計13名の中高生たちが集まり、
まとめた未来への提言を諸島の役場で発表する試みです。

各島から集まった子どもたちが、未来について議論。
http://studio-l.org/projects/100.htmlより抜粋。
当初、大人たちだけで未来について議論して決めていく予定でしたが、
思った以上に各島の大人たちがまとまらない。
「できない理由」ばかり並べる。
そこで、
「子どもたちの目線で10年後の未来のための提案書をつくり、大人が実行しなければ『島には戻らない!』」
とすれば、大人たちは本当に意識を変えて行動するのではないか。
そう考え、実際に多くの大人たちを巻き込んで発表が行われました。

子どもたちが考えた提案の一部。
http://studio-l.org/projects/100.htmlより抜粋。

子どもたちの提案書に目を落とす大人たち。
http://studio-l.org/projects/100.htmlより抜粋。

子どもから大人へ、提案書が手渡される。
http://studio-l.org/projects/100.htmlより抜粋。
この提案書には、前書きとして、
子どもたちから大人へのお手紙がついています。
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拝啓
10年後、笠岡諸島に暮らすあなたへ
10年後の笠原諸島には、変わらず美しい海と砂浜がありますか?
10年後、変わらずたくさんの魚はやってきていますか?
10年後、変わらず観光客のひとたちは来てくれていますか?
・・・(中略)・・・
10年後、私たちの母校はありますか?
10年後、私たちは、どうしたら笠原諸島が楽しく、
素敵な島になるか考えました。
10年後、私たちが、笠岡諸島に帰ることができますように。
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子どもたちの疑問に、思いに、願いに、
心を鷲掴みにされてしまいます。
このパートでは、
「外部の視点を取り入れる」ということをひとつのポイントとして挙げていますが、
「内部にいながらおろそかにしていた、子どもの存在」というのも、
ある意味「外部」になってしまっているのではないでしょうか。
きちんとしたコーディネーターがつき、デザイナーがいるというだけで、
提案書にまとめて報告する、というシンプルなアイデアも、とても力強く感じられます。
子どもが大人を焚き付ける、という構図をつくることは、
市民が誇りを取り戻すひとつの方法になるかもしれません。
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②公共物(ハード)を介してシビックプライドを醸成する
まとめ①
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②公共物(ハード)を介してシビックプライドを醸成する
という方法論のまとめ①です。
「自尊心を芽生えさせ、くすぐり、育てる」
『I amsterdam』『ベネッセアートサイト直島』でみたように、
そこに住む人たちが、「かっこいい」「お洒落」「芸術的」といった、
市民の誇りをくすぐるような見え方をかたちづくること。
それは、
大きなオブジェを街に置くことかもしれないし、
市民の写真集を発売することなのかもしれないし、
共通のスローガンを開発することなのかもしれない。
いずれにせよ、目に見えるものできちんと誇りを表現し、
それが単発ではなく継続的に、同時多発的に行われることが重要だと思います。
「外部の視点を取り入れる」
『探られる島「家島」』『笠岡諸島子ども総合振興計画』でみたように、
内部の人たちだけでは考えが凝り固まり、意見もまとまらない地域では、
外部の人たちを参画させて、新しい視点を取り込むことが効果的かもしれません。
それは、
高齢者たちばかりであれば若者たちを連れてきたり、
大人たちばかりであれば子どもたちの目線で物事を語ってみたり、
内部にいながら外部者のように扱ってきた別の市民の参加を促したりすることなのかもしれません。
仲間はずれにしてきた仲間たちを見つけ出し、彼らの話に真摯に耳を傾けさせる
といった、場をコーディネートする存在の力量が問われる手法だと思います。
以上が後編②-1.のまとめです。
まだまだ他の事例と方法論を紹介して参りますので、
ご関心のおありの方は、次の記事:後編②-2.をご覧いただけますと幸いです。
thank you.
















