「素晴らしい作品をありがとうございます」 劇場の出口で私は、神田裕司監督の手を握っていた。 出演していないし私は、この作品に全く関与していないのですが―――、縁あって「Reason of life」と言う映画の0号試写と言われる試写を昨日観た。 0号試写と言うのは、劇場公開版と同じモノになるかわかりません。 0号は、フィルムを編集して音も入れ取りあえず繋いで完成させて有るのですが、試写をして気付いたところを直したり調整をしたりする為の文字通り試写、試しの写し、上映です。 通常初号と言われるのが一発目の試写になるのですが、その現場現場の在り方として初号試写のその手前に0号試写と言うものをやったりします。 上映前に監督が、 「―――え~、言い訳をしたら30分以上かかりますので止めておきます」 と軽くジャブを放つ。 この作品は、2年前にクランクアップしていたそうなのですが、紆余曲折を経てようやくの0号試写。 台湾出身で現在ハリウッドに本拠地を置くコリン・チョウさんという俳優を主役に迎えての日本のタクシー会社を舞台にした作品です。 監督が、 「コリン・チョウさんが出演していた”マトリックス”なんかと同じ予算がもらえれば、この映画を1万本くらい作れるんですけど―――」 と2発目のジャブ。 上映開始。 ―――終映。 「あなたでしたか―っ!」 その打ち上げの席で私は、声を上げた。 以前、フェイスブック上でこの作品の音楽監督が挙げた写真と記事を私の知り合いの誰かがシェアしていたため見たのですよ、その記事を、私は―――。 (今、フェイスブックでその記事を探し出してきたので無断で載せてしまいます。江藤さ~んお借りしま~す) 「本日も映画音楽、 ヴァイオリン収録中です! しかも先日レコーディングした曲の録り直しです。 音楽監督がOK出しているのに、コリンチョウの名演技と自分の呼吸が合ってないんだそうで、まさかの妻から逆リテイクを食らってしまいました。笑 しかも本人のたっての希望でコリンチョウの芝居をリアルタイムで見ながら弾きたいんだそうで(楽譜は見ないのかい…?) 本日はレコーディングブースに小型映像モニタを仕込んでのレコーディングです。 (なんか昔のハリウッドみたい)」 ―――私は、巡り巡って来たこの記事を見て密かに感動していた。 そして、私の目の前に座るその女性、その女性が、音楽監督の妻でありヴァイオリン奏者のその人だったのです。 「あなたですか!自らとり直しを志願して録音に臨んだヴァイオリニスト奥さまは!」 試写中、私は、 (あ、これか―――、ここか!) フェイスブック記事に書かれていたシーンが、そこであることは、誰にでも一発でわかったと思うが、私にも当然分かった。 タクシーを転がすコリン・チョウの横顔を長いこと捉えた後、停車したタクシーでのコリン・チョウの芝居にかぶさるヴァイオリンの響。 小野映画史に残る名場面。 (名場面とはこのようにして作られる―――) 演技だけじゃない、映像だけじゃない、音楽だけじゃない、そのすべてが監督の演出によってかみ合って初めて生まれる名場面―――まさに映画、まさに総合芸術。 その名場面が生れ落ちるその時に触れることが出来たような・・・・そんな気にさせてくれた喜び。 試写中ヴァイオリンの音を聞きながら、私はそんな感情に包まれていた。 「会社の皆を食わせるためにお金のためにしてきた仕事もあります。でも今回は違います。関われることの喜びが大きいです。あ、おカネももちろん欲しいですけど、それだけじゃないんですよね~」 打ち上げの席で語る江藤音楽監督のその言葉が、私にはとても心地良かった。 監督と話しているとき、ポスト・プロデューサーの中井さんが、 「小野さんどうでした」 と声をかけてきた。 「―――あのシーンとか、どうですか」 「見事だと思います。あの流れは見事でした」 「あの演技とヴァイオリンと音と―――」 「見事だと思います。私はそう思いました。素晴らしいシーンだと思います。セリフの回想からの・・・・心が震えました」 劇場公開版で作品はどのように完成するのか楽しみですが、すでに0号試写の時点で私は、 「素晴らしい作品をありがとうございます」 と思わず監督に握手を求めていた。 「Reason of life」 公開時期、未定。 |