そうだ、伊豆にも行ったね。戸田(へだ)にも行ったし土肥(とい)にも行った。下田から遊覧船にも乗ったね。
雲が流れてきたのか、窓外の景色が少し陰った。
あれはどこの帰りだったっけね。凄い渋滞に巻き込まれたんだよね。

日も暮れた海岸線は車の列だった。
熱射の余韻の残る中を、CBナナハンは車列の横をすり抜けて走った。
「これー! 車だったら大変だったね!」
フルフェイスのヘルメットのせいで、こもった声が後ろから聞こえる。
「んだな!」
このまま順調に抜けられるだろうと思った、その時だった。車幅の大きいトレーラーが目の前に立ちふさがっていた。通り抜ける隙間はない。
「やられちまった」
「なに!」
「見ろよ」
体が左へ持っていかれる。
「おっきい!」
「うん。それは原因で、結果は抜けられないってことさ」
しばらくとろとろと走っていると、右手に坂道が現れた。何の確証もなかったけど、俺はウィンカーを出してその道へと入った。
とどまるは後退に等しい!
「近道!?」
「いや、わかんない!」
呆れたのか、君からの声は返ってこなかった。ただ、しがみつく力がぎゅっと強くなった。
「たくさん付いてきたよ!」君が声を大きくする。
「見えてるよ!」
ミラーには後ろに続く車が何台か見えた。
「やばいなあ……」
ナナハンの品川ナンバーを見たに違いない。車が付いてきてしまったのだ。その車に引き寄せられるように、車が続々と坂を上ってくる。このまま山の奥まで連れていかれそうな、胸を突くような急な上り坂だった。
これが近道じゃなかったとしたら……。
だって、愛車CBナナハンの前に車などはまったく走っていないのだ。それは自己責任、などとクールに割り切れない俺は、責任感につぶれそうだった。
坂を相当上り詰めたころ、視界が白く曇った。
「霧だ!」濃霧があたりを白く染め始めたのだ。ライトは濃霧ばかりを照らし、スラロームのように続く道が見えない。
フルフェイスのヘルメットも曇ってきた。
「美紀ちゃん! メットこすって! 前が見えない! やばいぞこれ!」
右手が伸びてきて、景色を見せた。でも、依然として前は見えない。
「二人羽織!」
事の重大さを知らぬかのように、君のはしゃいだ声がした。
いつだったか、君は言った。
あたしのために頑張る必要はないのよ。あたしはあたし、あっくんはあっくんだから。二人で一緒に、時々は交代で頑張ればいいのよ。
君はいつもそうだった。俺の肩の力を抜いてくれたんだ。
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