「木の陰はだめ。隠れられるのは10数えるまで!」
南中に昇る太陽。地面を切り取る濃い影。吹き過ぎる風。ざわざわササーッと葉ずれの音。
声を合図に、全員が散り散りに逃げ始める。
風に前髪を跳ね上げながら、鬼役のアキラが獲物の影にぐんぐんと近づいていく。狙っているのは、どうやら一番足の遅いやつ。
「あっくん、踏んだ!」アキラが高らかに宣言しながら走り過ぎる。
「あぁ~捕まっちゃったぁ」立ち止まったあっくんは、かわいそうなぐらい情けない顔になる。
「あっくんが鬼だ! 逃げろ!」アキラが再び走り出す。
あっくんの足は遅い。ウロウロ、オロオロするばかり。まるで出番のタイミングを失った幽霊みたいだ。
「あっくんの女走りー!」
「やだ、みんな待って」
「鬼を待つバカが居るかよ!」
あっかんべーをする者、突き出した自分のお尻を叩く者。立ち止まり、余裕しゃくしゃくで鼻をほじる者。
「あっくんは一生鬼だ!」
「やだ、やだ」あっくんはもたもたと走る。今にも泣き出しそうな顔。額には大粒の汗。
一人の少年が立ち止まる。
「あっくん踏め。俺の影」少年が手招きをする。
「ありがとヒロ君」たいして走ってもいないのに、あっくんはもうヨレヨレになっている。
あっくんがヒロ君の影法師をトンと踏む。ヒロ君があっくんの肩をよしよしと撫で叩く。
「うっしゃー! 行くぞお前ら!」
ヒロ君が右腕を上げて勢い良く走り出す。
「やべえ! ヒロシが鬼だ!」
全員本気で走り出す。
遠い夏の日の影踏み。
ポチポチッとクリックお願いします。

短編小説 ブログランキングへ
にほんブログ村
影踏み/一青窈





