風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -129ページ目

世界で一番好きな曲 ブログネタ:世界で一番好きな曲 参加中
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世界で一番好きな曲?

な……なんて稚拙で、なんてあり得ない質問なんだ!
だって、君はそう思わないかい? おかしいと思わないかい?
肝心要(かんじんかなめ)の「今!」が抜けているじゃないか。

しつこいけど、君はそう思わないかい?

だってだって、たとえば、世界で一番好きな人。
それは刻々と変わってきたはずだ。
君だってそうだろうし、僕だってそうだ。

君が世界で一番好きな人、君が世界で一番好きな曲、10年後も変わってなければ、僕が表彰状をあげよう。それにはもれなく、僕が付いてくる。もちろん、おまけで( ´艸`)


夜の静寂(しじま)が辺りを覆い、煙草の煙とともにふぅっと吐くため息も、灯りを紫に染めて空気に紛れる。
耳を澄ませても、人生を込めたような僕のため息に、伽藍(がらん)とした部屋は何の化学反応も起こさない。
それは天空に浮く魔法の絨毯にしがみつくかのような孤独と、不安と、ちょっぴりの高揚感をもたらす。

僕の前髪は、否応なしに風を受けて立つ。

そんな夜は、ボルドーワインのような、程よいボリュームと口当たりのソフトなフルボディのワインが似合う。
今宵はセギュール侯爵の愛した、カロン・セギュールでも飲みながら、「今宵!」しつこいけど「今宵!」世界で一番大好きなこの曲を。


GROVER WASHINGTON jr.「WINELIGHT」


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激しいだけが愛じゃなくて、求めるだけが愛じゃなくて、
ふと触れる指先から伝わる、穏やかな温もりもまた、愛。

強いだけが愛じゃなくて、要求を飲み込むだけが愛じゃなくて、
幼子のいたずらを、ふと笑って、諦め顔で頷くのもまた、愛。

渇望だけが愛の証じゃなくて、渇(かわ)きを埋めあうだけが愛の証明じゃなくて、
埋められぬ渇きと愛おしさを知るのもまた、愛。

僕たちが見ている光景はすべて過去のもの。
1メートル前に存在する君は10億分の1秒前の君。
空を飛ぶ飛行機は10万分の1秒前の姿。
太陽は8分前の太陽。
望遠鏡から眺めるアンドロメダ銀河は230万年前の姿。

君と1メートル離れていたら、1メートルの時差が生じる。

さ、手をつなごう、頬を寄せよう、時差が生じないようにぎゅっとぎゅっと。
君が枯れないように。そして僕の存在が、水を湧出(ゆうしゅつ)する力があることを、忘れないように。

君に力がみなぎったら、僕たちは誰かに、水をあげよう。
枯れないように。どうぞ花が咲きますようにと。


                                               *これは一部、量子力学の話でもあります。


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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」


ダウン・タウン・ブギ・ウギ・バンド「身も心も」

─しあわせの黄色いハンカチ─

「あれが絵画館だよ」二人は横断歩道の真ん中で立ち止まった。
「うわぁ、素敵ですね」飯田優子は、はしゃいだ声を上げた。
「これって、遠近法で絵画館が遠くに見えるようになってるんだってさ」
銀杏並木の中心を貫く車道の向うに、聖徳記念絵画館が建っている。確かにそれは実際よりも遠くに見える。

横断歩道を渡り終え、右に折れて銀杏並木に入る。二人は黄色いじゅうたんを踏んで歩いた。
「それにしても、きれいだね」見上げると一面、黄金(こがね)色にさざめく海が広がっている。

『もし、まだ1人暮らしで俺を待っててくれるなら…黄色いハンカチをぶら下げておいてくれ。それが目印だ。もしそれが下がってなかったら、俺はそのまま引き返して、2度と夕張には現れない』

それはまるで、高倉健演じる刑務所帰りの勇作が出した葉書に応えて、賞千恵子演じる光枝が粗末な長屋に掲げた、幸福(しあわせ)の黄色いハンカチにも見えた。

「ここは初めてです。まさに銀杏並木って感じですね」飯田優子も私に倣(なら)うようにあごをあげた。
「それはよかった。どこなら行ったことがあるの?」
「代々木公園とかならあります。お弁当を持って」
「誰と……行ったの?」
「友達と」
ふぅん
「友達と、お弁当を持って?」
「ええ」
ふぅん

「代々木公園のイチョウって、どうなんだっけ」
「イチョウだけじゃないからこれほど圧倒的じゃないですけど、それなりにきれいですよ。あちこち座れるところもあるし」
「今度行ってみようか。お弁当を持って」
「お弁当にこだわりますね」
「いや、そういうわけでもないんだけど」
「坂上さんが作るんですよね?」飯田さんが三日月に微笑む目を向けた。
「は?」
「さぞかし美味しいんでしょうねぇ……って冗談です」

「でも、おにぎりぐらいなら作れるよ。俵型の味付け海苔を巻いたやつ」
「いえ、そのおにぎりは遠慮します。あたしこう見えてもお料理は好きなんですよ、得意とまでは言いませんけど。お弁当のおかずは何が好きですか」

「すごくしょっぱい塩じゃけに、お味噌汁に、あとは……味付け海苔!」
「は?」飯田さんは、珍しい生き物でも見る目でこちらを見た。
「お弁当にお味噌汁を要求しますか」
「いやいや、もちろんお弁当にお味噌汁はいらないよ」
「でも、食がジジくさいですね。まだ二十代なのに」
「僕は小学生の頃、教頭先生というあだ名だった」
「それ、嬉しいですか?」

銀杏並木はどこまでも続くかと思えたが、終わりが見えた。半分は歩行者天国になっている道路を渡り、二人は反対側の並木を青山通りに向けて折り返した。

「これって枯れて落ちたんだよね」私は黄色く染まった歩道を指差す。二人の不揃いの歩調を繰り出す足元が見える。
「そう、ですね」
「青い葉っぱが枯れて、そして落ちた」
「ええ」飯田さんは立ち止まり、パンプスの先でイチョウの一枚を触った。

「たとえばさ、こうやってさ、なんと言うか、これって枯れたんだよね」
「はい。世間一般的には、枯れたと」
「あそこに青い葉っぱでくっついてたものが枯れて落ちたんだよね」私はイチョウの木の上を指さした。
「そう、ですね。念を押すまでもなく」
「人間もいつかこうなっちゃうんだよね」
「真っ黄色になって、人様の足元に横たわるかどうかは分かりませんけど」飯田さんは再び足下に視線を落とした。

「もしもだけど……」私が歩き出すと、飯田さんも歩いた。
「はい」
「まあ、もしもなんだけど、人生っていうのはさ、なんていうかいつか枯れて終わるわけで……」
「はあ」
「まあ、人というのもいつかこうなるわけで。こうやってさ落ちちゃうわけで」
「ええ、さっき言ってましたね。落ちちゃうかどうかは分かりませんけど」
どうもうまく言葉がつなげない。

「そのさあ、一緒に枯れたりなんてしたりしてさ、なんと言うか……」
「ほお」飯田さんは落ち葉を舞わせる風を避けるようにマフラーをぎゅっとした。
「そういうのもいいんじゃないかなあって。まあ、飯田さんがよければだけど」
「なるほど」
「まあ、もちろん、無理にとは言わないけど」
「ふぅむ」
「まあ、飯田さん次第だけど」

「あたしに下駄を預ける前に、坂上さんもうひと押ししてみませんか」首をかしげ、一本指を立てた。
「え?」
「もっとはっきり言ってみませんか」
「今、言ったつもりだけど……」
「表現が、かなりあいまいです」
曖昧、あいまい、曖昧、飯田さんはコクコクと頷きながら口にした。

私は一つ息を吸った。「じゃあさ」
私を見つめるその瞳がキラキラと輝いた。
「一緒にいよう。枯れて落ちちゃうまで」
「いいとも、いいとも!」
銀杏並木に飯田さんの拍手が鳴り響いた。

「落ちちゃうかどうかは、わかりませんけど」

夢から覚めてもなお、懐かしいシーンは暖かく、かつ懺悔を求めるかのように強く、胸を締め付けた。



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-幸福の黄色いハンカチ

─御本尊─

本尊と経文と数珠に教祖の書いた一冊の本、仏壇は一番小型のものを持ち帰ることにした。それにしても、20万円近くはかかった。
本尊の開眼法要は教祖が済ませたということで、そのまま安置してくださいということだった。
かいげんほうよう? 説明を聞くと、要は単なる作り物の曼荼羅と仏像を尊い仏様にすることらしい。
磯崎さんは、よかったわねえと胸の前で小さく手を叩いた。
来るときと同じように、柴田さんの運転する車に乗り込んだ。この人は教祖夫人だろうか。気になっていたが訊けずじまいだった。

「坂上さんも感じたでしょうが、教祖様はそれはそれは素晴らしいお方です。愛に溢れていらっしゃいます」磯崎さんはうっとりとした口調になった。
「地上にユートピアを建設されるのです。そしてわたしたちの魂は、高みへ高みへと昇って行くのです」
「高みへ、ですか」
「そうです。教祖様は高次の霊とコンタクトがとれるのよ」
「高次の霊?」
「天上界でも最高位の存在です」す、凄い。私はわけもなく興奮した。
「それに信者さんも全国に大勢いらっしゃるの」
「全国規模なんですか」
「そうですよぉ」今さら何をと言わんばかりに、磯崎さんは誇らしげに笑った。

「年に2回は全国からその信者さんたちが集まるの。一週間泊まり込みで勤行三昧なのよ。教祖様のお話もあるの。それを何回にも分けてやるのよ」
「柴田さん、どれぐらいやるんでしたっけ」磯崎さんは運転席に前にのめりになる。
「春と秋、一回にだいたい3か月はかかるわね」柴田さんが口を開く。「だから、年に半分は研修をしているようなものだわ」

「坂上さんも同志になったわ。あ、さっそく教祖様に御祓(おはら)いをしてもらったほうがいいわね」磯崎さんは喜びを隠しきれない様子で何度も頷いた。
「仏教、ですよね」
「ええ」磯崎さんは何? とでも言いたげな顔を向けた。
御祓いは神道とかではなかったろうか。
「教祖様はあらゆる宗教を研鑽されたお方です」私の疑問を察したらしい柴田さんが口を挟んだ。「神道やキリスト教を含め、あらゆるものをです」
「そうそう、そう仰ってたわ」磯崎さんが激しく同意した。
「そして、悟りの境地に入られたのです」

「お金はかかるんでしょうか」問題はそこだ。
「もちろんタダというわけにはいかないわ。みんなやってもらいたがるものだし、順番待ちなのよ」
「高いんでしょうか? いくらぐらいなんでしょう」運転席を気にして小声を出した。
「金額は決まってないのよ。志でいいのよ」磯崎さんは気にする様子もなく大きな声を出して自分の胸に手を当てた。

「そうなんですか」
「お金がない方には無料でおやりになったこともあるのよねえ」磯崎さんは運転席に再び前のめりになった。
「それは特殊な例ですね。お仕事をされている方で、全くお金がない方というのはいらっしゃらないものです」
「でも、全財産を差し上げた方もいらっしゃるわ。ねえ、柴田さん」
「全財産をですか」
「でも、それで命が助かれば安いものだわよね」磯崎さんは真顔になった。

「50万ぐらいが相場ですね。もちろん上限はありません。料金ではなく、お布施ですので」柴田さんがニュース原稿でも読み上げるように口にした。
「50万、ですか……その、なんというか払う金額によって違ってきたりはするんでしょうか、効果というか」
「金額によって変わるのはおかしいと思いませんか?」柴田さんはちょっとムッとしたようだった。
「すみません、下世話なことを」
「あくまでお布施です。でも、高ければ、教祖様も念入りになさるかもしれませんね。坂上さんもしっかり信心して、功徳を積んでください」
おいおいおいおい、私はぼったくりバーにでも座らされている気分になった。しかし、最高位の霊とコンタクトをとれる人などそうそういるはずもない、それに命には代えられない。

家に帰り、お経のCDを聞いた。経文を広げブツブツと読み上げたが、なかなかついていけなかった。



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-仏壇
どちらかといえば、僕は運命論者に近いかもしれない。たぶんそうだろう。いや、間違いなくそうだろう。
流れにあまり逆らわないし、人の寿命はあらかじめ決まっている、と思っているから。

だから、人から何を言われようと、心からの忠告を受けようと、酒もタバコもやめない。だって、僕の寿命は決まっているんだから。
かといっていたずらな厭世(えんせい)観を持っているわけでもない。

それでも、もしも、僕の、あるいは二人の、「意志」を打ち砕こうとする、「定め」というものが存在するのなら、僕は抗(あらが)ってみたい。

それで現実が変わることはなかったとしても、そう、たとえそれが運命であろうとも、僕は運命論者の端くれとして、いや、そうだからこそ、それでもなお僕は、こうしたいのだと、精いっぱいの抵抗を示したい。

力及ばずとも、運命に、風穴を、開けてみたい。

それが君に示せる、僕の精いっぱいの誠意だと思うから。



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-黄昏

来生たかお「Goodbye Day」

「何してますか?」
「何もしてない」
「おやおやぁ~また悩んでますね」
「おまえには関係ない」
「関係あるから出てきたのよ、わざわざ。わざわざ、わざわざ」
妖精は耳のあたりを、恩着せがましくフワフワと飛んだ。

「生きているといろんなことがあるものよ」妖精は目の前にふわりと舞った。
「今度はもうダメだ」僕はうつむいた。
「不安という魔物が顔を覗かせるときがあるわね。根拠はあるの?」
「ある。あるから悩んでる」
「よく考えてみて。その不安には、なぜだか根拠がなかったりする。あるいはその根拠と思われるモノがまったくの的外れだったりすることもある」
「僕の言ったことが聞こえなかった? 根拠はあるんだ」僕は頭をガシガシと
掻いた。
「だから悩んでるの?」
「決まってる」
ふぅん。

「生きる上で、悩むことほど益体(やくたい)のないものはないわ」妖精はキッパリと頷いた。
「益体のない、とまで言う? 役に立たないとまで」僕は目の前の妖精を見た。
「言う」
「みんな悩んで大きくなるんだ」
「ならないわ」
「なる」
「ならないわよ。ほら、横にある手鏡をとってみて」それそれ、と指を指す。
「いやだ!」
「じゃあ、後でいいからやってみて。鏡に向かって微笑むのよ」僕はそれを手に取った。

「今やるなら、いやだなんて言わない! どお?」両手を腰に回して鏡をのぞき込む妖精。
「かわいい」
「そうね、男の割にはかわいい笑顔ね」振り向いてコクコクと頷いた。
「微笑むことは何より大事よ。外にもそれを見せるのよ。やがて笑える時が来るわ。うれしいから微笑むんじゃなくて、楽しいから笑うんじゃなくて、微笑むからうれしくて、笑うから楽しくなるのよ」

「上手じょずぅ~○○君はすごいねぇ、偉いねぇ」妖精はその小さな手をパチパチと叩いた。
「何を言ってるの」
「たとえばあなたは、そう言われて育ってない可能性が高いかもね。三つ子の魂百まで。もう一度自分を育て直そう。自己否定する自分を認めて解放してあげようか」
「それで問題は解決する?」
「しない」
「じゃあ、意味ないじゃん」
「あるわよ」チッチッチと人差し指を横に振る。

「解決すべき問題なんてないと気がつくだけで十分なんだから。それから何事にも過剰に反応しないことが大事よ。自分を否定しないこと。それと同時に、相手も否定しないこと。愚痴は一番良くないわ」

「愚痴なんて言ってない」
「言ってたわ。さっきブツブツと口にしてた。どうすりゃいいんだ、とか、どうせダメなんだとか、おまえには関係ないとか、ちくしょうとか」
知らぬ間に独り言を口にしていたのか。

「そんなときってロクなことを思い出さないものだし、ロクでもない思いばかりが駆け巡る。それは障害という火種に、悩むという油を注ぐようなもの。負の連鎖、負のスパイラルに陥るばかり」
「僕はそんなにポジティブな人間じゃない」そう、僕はきわめてネガティブな人間かもしれない。
「知ってるわ」否定してくれよ。
「だけどね、今と比べて驚くほど沈み込んでいた時期もあったわよね、どん底という時期がね」
あった、確かにあった。もう二度と立ち直れないかと思った時期が、確かにあった。
「それを考えれば、それさえ乗り越えたんだから、今なんて簡単に思えてきたりするはずよ」

そうは思えなかったけど、僕はもう、何も答えなかった。妖精の言うことはたいてい正しいと知っていたから。

「悩むことで解決する問題なんてないのよ。苦しいときほど、何事もなかったかのように淡々と過ごす方がいいわ。一年後に解決しそうな悩みなら、一年後に悩みなさい。3日経っても解決しそうにないものなら、一週間後に悩んでみようかと思いなさい。そして再び悩みそうになったら、馬鹿らしいと考えなさい。あなたを苦しめるものが他者だとしたら、ゆるしなさい」

「その悩みや考え事に実体などなくて、心の不安定さが呼び込んでいるんだからね。そうね、そんなときは、スポーツに熱中したり、そうそう、あなたバスケットボールをしてたわね、そんなに体が小さいのに」
「余計なお世話」
「あとは、好きな物を食べたり、何も考えずに体を動かしたりしてごらんなさい。ほら、掃除でも始めたら」

妖精に促されるまま、僕はのろのろと立ち上がった。

「のろのろしない! シャキシャキ、シャキシャキ」

Addicted To You 僕は妖精に病みつきかも。



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宇多田ヒカル「Addicted To You」

─ごう─

正直、気のりはしなかったのだが、
「今度親しい人たちと集まりがあるんですよ、趣味の集まりとでもいうのかしら。ぜひいらしてください」
再びにこやかにゴミを奪おうとする磯崎さんに誘われて、休日同行することになった。

出前一丁溺死事件! の共犯者であるところの柴田さんがハンドルを握る、国産の軽乗用車に乗り込んだ。車内はやはり粉っぽい匂いがした。私は少し窓を開けた。

「どちらへ向かうのですか」の質問に、「総本山です」という思いもよらない柴田さんの声が返ってきた。それですべてを理解した。宗教の勧誘だったのだと。
厄介なものに捕まったものだが、走り出した車から今さら降りるわけにもいかない。小さくため息をつきシートに背を預けた。隣に座る磯崎さんは素知らぬふりで車窓を眺めていた。

妻が死んだ事故の状況。その朝のこと。問われるままに答えたが、それはやがて問わず語りになっていった。

着いた場所は、どこかのお山の中腹に立つ荘厳なお寺でも、ひなびた神社でもなく、郊外にある古びた建物だった。一軒家でもなく、ビルでもなく、かといって総本山という呼び名にふさわしい感じでもなく、たとえれば、かつてどこかの企業が研修所として建てたものを買い取ったというか、そんな雰囲気を漂わせた建物だった。生活感はなかったから住まいではなく、そのためだけに所有しているのだろう。

「ごうです」向かい合い正座をするなりいきなり口を開いた人物は、私と同じ50台と思われる白髪交じりの小太りの男だった。年季の入った作務衣(さむえ)を羽織り、左手にはその姿に似つかわしくないごついロレックスの腕時計。右手には数珠をつかんでいた。
「はい?」郷ひろみのごうにしてはイントネーションが違っていたため、私は言葉に詰まった。

「業、すなわちカルマです」なるほどその業だったのか。あぁぁ……。私は間の抜けた声を出した。
「奥様の事故の原因はあなたにあります。ご存知でしょうがすべての出来事には原因があります。原因があって結果が生まれるのです。因果の法則です」
こちらを見つめるその眼光は鋭く、人を飲み込むような強さがあった。私は小さく、はいと頷いた。

「今日のあなたは昨日のあなたが作りました。明日のあなたは今日のあなたが作ります。今現在のあなたは、過去のあなたが作ったのです。すべての結果には起因となるものが存在するのです」

「私が、妻を殺したと」
「私は責めません。ただ、もしもその朝、あなたが……坂上さんでしたね? 奥様が出された朝食を素直に食べてお出かけされていれば、今頃お元気でしょう」
「そう……なんですか」
こちらをじっと見つめた男は、小さく頷いた。

「よく考えてみてください。ほんのちょっとした狂いが、取り返しのつかない結果を生むのです。もしも坂上さんが普通に食事をして、いつもの時間にお出かけになったら、奥様がお買い物に家を出る時間だって違ってきたはずです。一分でいいのです。人間は一分間にどれぐらい歩くと思いますか」
私が答えに窮するのをあらかじめ承知していたかように、その男は再び頷いた。

「普通の人でも7、80メートルは進むのです。買い物袋を下げた奥様がゆっくり歩いても、60メートル近くは進むでしょう。それを考えればたったの10秒でもよかったのです。だとするなら、事故に遭うこともなかったはずです」
「はあ、それは確かに……」
あの朝の、ビーフシチューに対する私に怒りに、妻が狼狽する光景が目に浮かんだ。

「このままでは坂上さん、あなたの命も危ない」
「え! ど、どういうことですか!?」
「因果応報です。良いことには良いことが、悪いことには悪いことが、巡り巡って自分の身に降りかかるのです。あなたはその悪い流れに乗ってしまったのです。結果として、奥様を死に追いやってしまったのですから」

「どうすればいいのですか!」
「お望みとあらばその流れは、私が断ち切って差し上げましょう。これはもって生まれた霊性の上に、さらに厳しい修業を積んだものでなければできないことです」
隣の部屋からは、集団で唱えるお経のような声が聞こえてくる。徐々に徐々に熱気と熱狂を帯びてきている。
「ぜひお願いします」



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-紅葉

─ ヨキナ困惑 ─

「それは聞いていませんでした。しかし……それは」ヨキナは困惑を表した。
「いえ、私ははっきりと言ったつもりなのですが」
「で、承諾が出たのですか?」ヨキナはかなり困っていた。
「承諾というか、課題をこなしなさいと」
「課題をこなしなさい……ふむ、課題ですか。では、すべての望みを受け入れられたわけではないのですね」
「そう、なの、かもしれません」
「なるほど。ところで誰とお会いになりましたか」
「ミ……ミシ……ミシュ?……」
ヨキナの笑ったような気配がした。
「ミシュアですか?」
「ああ、確か」
「しばらくお待ちください」ヨキナは天を仰ぎ見た。

私は宇宙船と思われる乗り物の窓辺へ寄った。大きな地球が圧倒的な存在感で迫っている。これが本当に目に見えているのか、それとも夢なのか、分からぬまましばらくその景色に見とれていた。

ふと気が付くとヨキナが背後に立っていた。
「太陽があるのにどうしてこんなにも暗いのですか」
「不思議ですか?」ヨキナは他愛のないものに興味を示した子供に対する、老いた教師のように、ふっと笑った。
「はい」
「あなた方の目に物が見えるというのは、光が当たってそれが反射して目に届くからです。宇宙空間はほとんど何もない真空……何もないと言っても実際は人類が検知していないもので満ちているのですが、要するに太陽の光を反射する物がないからです。ですから光はまっすぐに通過して行くのです」
「通過して、いく?……」

「ええ。目に戻ってくる光がないので、宇宙空間は黒く見えるのですよ。もしもその宇宙空間にあなたの手を出したら、太陽の光を反射してちゃんと目に映りますよ」
「そう、なんですか。面白いですね」
「面白いついで言いますと、虹を思い出せばわかると思いますが、太陽の光で一番波長が短いのが紫色で一番長いのが赤です。地球の大気層には塵やほこり、水蒸気などがあります。
光がそれにぶつかり屈折し散らばるのですが、中でも波長の短い藍色や紫色、青色が反射しやすいのです。直進力が弱いとも言えますが。ですから空は青く見えるのですよ」
「へぇ……そうなんですか。ああ、つまらない質問をしてしまいました、すみません。ところでどうでしたか?」
「手違いでしたね。あなたはここへ来る必要はなかったようです。すぐに戻します」
「だ、ダメなんですか!?」
「ダメではなく、ミシュアの言ったとおりです。それとひとつ、ミシュアからヒントです。あなたは何をしますか、ということでした」
「何をしますか?」
「はい」
「私が、ですか」
「はい」



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-青空




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─出前一丁溺死─

インスタントラーメンとスーパーで買った出来合いの酢豚を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。見上げた壁掛け時計は午後の8時を過ぎていた。
玄関に向かいドアスコープを覗き込むと、通路のライトに照らされた二つの人影が見える。インターフォンではないところをみると同じマンションの人だ。

しかし、どう見ても2階に住む顔なじみの老夫婦ではない。先だっての磯崎さんの顔が浮かんだが、急用でなければ非常識な時間だ。インスタントラーメンが伸びるのが気になったが、居留守を使うわけにもいかないだろう。
ふと、流しに溜まった無様な食器類を思ったが、中に招じ入れることもないだろう。脱ぎ散らかした革靴を整えてドアを押し開けた。

「あ、どうも、夜分にすみませぇん」やはりそうだった。
「いえ、これね、多めに作ったからどうかしらと思って」その手には大きめのタッパがあった。
「あ、わざわざありがとうございます」
「おでんですのよ。田舎育ちだからお口に合うかどうかわかりませんけど」
これが女同士なら、どちらのご出身なんですか、などと話が弾みそうだが、そんな気にはなれない。

それに、妻の作ってくれたものより美味しいおでんなんて存在するのだろうか。甘味と醤油は控えめで、出汁と塩味のきいた、私好みのおでんが。
まあ、ないだろう。人様のおでんを前にそう思った。それになにより、このタッパは返しにいかなければならないのだろうな。そう考えるとそれもまた気が重かったが、精いっぱいの笑顔を作った。

「いえいえ、助かります」
受け取ろうとするタッパは引かれた。そのまま磯崎さんは、腕でドアを支えて三和土(たたき)に足を踏み入れてきた。
「今日はね、お知り合いを紹介しようかと思ってお連れしてきたの」
隣に立つ、押し出しの強そうな40台とおぼしき女性が微笑んで腰を折った。まさか後妻にという話だろうか。妻と親しかったというだけで、そこまで面倒を見てくれるというのだろうか。
「こちら、柴田さん」香水だろうか化粧品だろうか、鼻につく粉っぽい匂いのする人だった。
「坂上です」私も頭を下げた。

30分ほどの滞在は、結局何のための訪問だったのか分からずじまいだった。帰りがけ、流しが目に入った磯崎さんが、あらあらと口にした。余計なお世話な気がした。

この方のご主人がね、などと言うから、再婚の話ではなかった。それはそうだ、まだ忌も明けぬうちにそんな話もないもんだ。
どうぞどうぞとは言うものの、インスタントラーメンはスープを吸ってすっかり伸び切り、酢豚は冷えてしまった。二人の訪問を、私はひどく迷惑に感じた。

妻なら「非常識よね」と、きっと同意してくれる。
「だよなあ……出前一丁溺死事件!」私は誰にともなく声を上げ、自棄(やけ)気味にどんぶりの淵を箸で叩いた。


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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-出前一丁

─燃えるごみは火曜と金曜─

押入れを開け、チェストの取っ手を忙(せわ)しなく引き、几帳面に調えられた中身引っ掻き回した。その行為は妻の痕跡を消し去ってしまうようでためらったが、時間がなかった。
こうやって焦っていると絶対見つからないような気がしてくるもので、事実、私の人生でその予想はたいてい当たった。

やがて壁掛け時計に目をやって、ため息をひとつ吐(つ)きその作業を中止した。
昨夜からの冷え込みが強く手袋とマフラーを探していたのだが、自分の家なのにそんなものひとつ見つけ出せないとは。それも自分のものを。
私は膨らませた頬で深い息を吐いた。
探し物はあきらめて、帰りに安いものでも買おうと決めて玄関に向かった。振り返ったが、声は、姿は、追ってはこない。

左手に鞄、右手にゴミ袋を提げてエントランスを出た時だった。
「大変でしたね」
中年の女性が私の持つゴミ袋を奪うように手に取り、マンションの横手にあるごみ置き場に向かった。
「あ、ああ、すみません。そんなこと」ゴミ袋に手を伸ばすと、「いえ、いいんですよ。どうせあたしも捨てに行くところですから」とスーパーの袋に入ったゴミを持ち上げ、ウインクに失敗したような瞬きをした。
「どうもすみません」はて、このご婦人は通夜や告別式に来てくれた人だろうか。記憶を探ったとて分かるはずもなかった。
ゴミの量は以前より増えた。容量としてはたいしたことはないのだろうが、スーパーの総菜などのパックゴミの嵩(かさ)が増すからだ。

「色々とご丁寧にありがとうございました。それにゴミまで持たせてしまって」今さら通夜と告別式のことは訊けない。言外にお礼を匂わせ頭を下げた。
「おさみしいでしょう。気が張っている時期を過ぎると色々と大変ですからね。あたしは奥さんと親しくしてさせてもらってたんですよ」
「ああ、そうでしたか。それはありがとうございました」
「お困りのことがあったらいつでも仰ってくださいね。3階に住んでます。302の磯崎と申します」

302号室の磯崎さんか。妻からその名前を聞いたことはなかった。四十九日の忌が明けていないから香典返しはまだだが、その名前に覚えはなかった。それに、どうも、外で待っていたようなタイミングだった。



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あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-香典袋