風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -126ページ目
我が身を燃やし尽くしたとき、後に残るのは何だろう。
灰なのだろうか。それとも、燃やし尽くせなかった何物かが放つ後悔なのだろうか。

朝日が東から昇るように、産声と共に希望は上り、輝きを増しながら南中に向かう。
そのまばゆい太陽も、やがては空を茜に染めて、夜が闇を連れてくる。

僕が時として呆然と立ちすくむのは、意味。
すべてのものの持つ、秘密の由来。

僕が生まれてきた意味は、僕にしか分からない。
けれどその僕が戸惑い揺れる。

この世の喧噪と、人々の焦燥と、力及ばぬ諦めと、そのすべてを受け止めて風に揺れる木の葉と。

昼寝をする猫が動かす気怠げな尻尾と、日差しを吸い込んだ暖かな毛並みと。
遠い夏の日の縁側。

生まれた家も育った家もすでにない。だから僕にはリセットする場所がない。

それでも僕は明日に向かって生きる。
誰の賞賛を受けずとも。



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情熱大陸「葉加瀬太郎」




夕陽

生きているといろんなことがある。
いろんな人に出会うし、さまざまな出来事に遭遇する。

心温まるひとときもあれば、怒りに震える日もある。
なにもかも投げ捨てて〝ふざけんな!〟と声を張り上げたい瞬間もある。
理不尽な仕打ちに反論すらできず、心が萎えてしまうことだってある。
ままならない現実に、立ち直れない日々は少なくはない。

そんなときは目線を変えてみたらどうだろう。
これは気分的な話じゃなくて、本当の目線の話。
首を動かしてちょっと違う方を見てみよう。
それから、「ああ、良かった。ああ、楽しかった」と口にしてみよう。
無理? 無理にでもやってみよう。

それから、お腹に力を入れて、「はぁ!」って笑ってみよう。
それで現実がぱっと変わるわけでもないけれど、気分は確かに変わる。
無理にでも笑うと楽しくなる。

それでも心の中心に居座る嫌なものは、無関心の領域にドラッグしよう。
くれぐれも忘れたい領域ではなく、無関心の領域に。
そして二度とクリックしないようにマウスを投げ捨てよう。

今という瞬間は、さっき終わったのだから、嫌なことは過去の自分に持って行ってもらおう。
目線を変えれば気分がきっと変わる。気分が変われば現実も変わるかも知れない。

君の心が痛まぬように。
誰とも、何ものとも争い戦うことなく、君らしくいられるようにと願ったりする夜もあるんだ。

僕はまだ人生を語るつもりはないよ。
昨日を懐かしむほど若くはないし、明日を恐れるほど老いてはいないからね。

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吉田拓郎「人生を語らず」

なぁ~~んて書いてて、実はそれほど読んでない僕 (;^_^A
僕の読書傾向というのはかなり偏っていて、自己啓発的なものやスピリチュアル系のものを集中的に読む時期もあれば、宗教系的な物に集中する時もあれば、主に小説を読む時期もある。
そして何も読まない期間も案外長い、と本読みの風上にも置けないタイプです。

今パソコンデスクの上には
「さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる」が読みかけで置いてあります。
いつ開くことやら (;^ω^A



今はというと、小説かな。でも、帰りの電車で10分程度読むだけだからほとんど進まない。
これで季節が暖かくなると、お休みの日に公園で開いたりするので、いくらかは読めるんだけどね σ(^_^;) 

今鞄の中には、本多孝好「WILL」が入ってる。
寂れた商店街にある葬儀屋が舞台。両親を事故で亡くし、そこを継いだ29歳になる森野という女性が主人公の小説です。
ずいぶん前から読み始めたのだけれど、とんと進んでいません。



この本、すごく気になるところがあって。

「○○○」と私は言った。

この一行がすごく多用されているところ。
「」で言葉は書かれているのだから、それに加えて〝私は言った〟はしつこいんじゃない? と感じる。

「そう」私はひとつ頷き、日差しの強い窓外に目をやった。

ぐらいの情景描写がほしい。
でも、その安定感は買って損のない作家さんですね。

今日書きたかったのはこれじゃなくて、

浦賀和宏「彼女は存在しない」


これはひどい。
タイトルからして多重人格物だと分かるのだけれど、あ、正確には解離性同一性障害ね。
文章がひどい。視点がふらつく。一ページ目から「は?」となった作品です。

せっかく買ったんだからと頑張ってはみたものの、三分の一、160ページで諦めました。
単行本の発刊時に話題にならなくて、文庫になって売れたらしい。まあ、どこかでおもしろくなるのだろうけど、ラストが良かったりするのだろうけど、会話も地の文もお粗末すぎる。

メフィスト賞受賞でデビューした作家さんのようだけど、そのメフィスト賞が何なのかを僕は知らない(;´▽`A``

そもそも小説家というのは、僕みたいに何の勉強もしてなくて、何の計画も、少しの筋書も立てずにキーボード任せに小説を書く素人とは違うのだから。

だって僕は、途中がどうなるか、結末がどうなるか、全く考えずに書くんですから。起承転結も何もありゃしません ε- (´ー`*) フッ
それに比べ、お金を取るのに、こんな「作家は存在しない」でしょヾ(▼ヘ▼;)

文庫で売れた本というと、貫井徳郎「慟哭」が思い浮かぶけど、あれはおもしろかった。かなり衝撃を受けた。
デビュー作だったのかな?




姫野カオルコの「ツ、イ、ラ、ク」も傑作だった。




雫井脩介の「虚貌」はがっかりだったけど、「クローズドノート」は期待しないで読んぶんおもしろかった。
ドキドキした「火の粉」に続く小説「犯人に告ぐ」は待ち望んで待ち望んで、本屋さんに並んだとたんに買った。

そうそう、恋愛小説「クローズドノート」は最後の数ページを僕に書き直しをさせてくれたら、もっと傑作になったと真剣に思っている。
人のふんどしで相撲を取ってみたいv(≧∇≦)v 




本屋さんの〝お勧め〟も、最近はだいぶ怪しくなってるし、解説の褒め言葉も信用ならない ┐( ̄ヘ ̄)┌

「彼女は存在しない」という小説は、読書量が多くはない僕にとって、定評のある作家さん以外は読まない方がいい、という教訓を得た本でした。

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明日は どんなだろうね
僕たちに どんな未来がやってくるんだろうか

学ぶことにも 少し飽きてきたし

うん? なぜかって?

どうも 同じことを学習させられてる気もしてね
まあそれは 不器用な僕が習得してないって証なんだろうけどさ

僕は少し飽きてきたし 疲れてきたな

ねえ君 明日はどんなだろうね
あったかいかな 冷たいかな

心穏やかに 日だまりにまるまる猫みたいに
のんびりと過ごしたいね

手と手を繋ぎ合ってさ



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猫



スガシカオ「アシンメトリー 」


人は生まれ、生き、そして死んでゆく。
今生で何を成し遂げたか、何をやり残したか。今は分からなくとも、きっと理解する。

影響を受けたものも、与えたものも、受けた被害も、与えた実害も、なぜそうであったのか、なぜその巡り合わせだったのか、その意味も、きっと飲み込むに違いない。

呼吸が止まれば人は死ぬ。心臓が停止すれば人はあの世へ旅立つ。それは肉体の死であって、魂の死ではない。死ぬことは、その魂が宿った肉体の役割が終わったということ。

呼吸に集中してみよう。吸う息と吐く息と。その静かなものに意識を集中してみよう。思考を止めて、無意識に我を生かすその営みに心をゆだねてみよう。

意識をしなくとも心臓は動き、肺に空気は送り込まれる。だからこそ、人は生きているのではなく、生かされているのだと考えよう。
生まれてきたことに理由があるし、死ぬことにもまた訳がある。

恨み言も愚痴も、過去も未来も手放したときに、まったく違う何かが、見えてくるに違いない。
できれば、ありがとう、と送ってください。地上に罪もなければ、あの世に罰もないのだから。

君が床に伏す耳元で聞かせた歌は、意識のなくなったお父さんの耳にも、きっと届きました。

できることなら、今年の桜を見せてあげたかったね。

電話で僕が伝えたように、お父さんには見えています。葬儀の場でも、上を見上げてください。

ご冥福をお祈りします。



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吉幾三「酔歌」

子供は好き? ブログネタ:子供は好き? 参加中


ずいぶんと以前にジェラートショップに指導に入っていたことがあって、ちっちゃい子を抱っこしたお母さんが迷っていました。
「気になるものがあったら仰ってくださいね」
そう言ってプラスティックスプーンでひとつすくってあげたのです。するとですね。そのちっちゃい男の子が、あ~んて口を開けたのです。可愛いこと可愛いこと。
でも、直接あげたりなんて失礼はしません。お母さんに、どうぞと差し上げたのですね。しかし、何の疑いもなく、あ~んて口を開ける子供を見たとき、僕はもう、いろんなことを考えてしまって、胸が熱くなったのです。

そうだそうだ、こんなこともありました。なんだか意地の悪そうなおばあちゃんと(;^ν^)孫とおぼしきちっちゃい女の子のご来店です。女の子はもう、目を皿のようにして見つめています。
その意地の悪そうなおばあちゃんが、「これ頂戴」と指定したのが、なんとチョコミントだったのです。
「お子様が召し上がるんですよね」
ふん、て感じで同意する意地の悪そうなおばあちゃん。
「これはミントですから違うものにした方がいいですよ。これだけはお勧めしません」
そう、なんじゃこりゃ! ( ゚Д゚);',*;',.;* というぐらいミントなのです。

「いいの!」何を余計なことを! と言わんばかりの口調。僕も折れてチョコミントをヘラでよそいました。そして椅子に座って嬉しそうにそれを口にしたちっちゃい女の子……案の定、うえって驚いた顔して食べるのをやめました。

「食べちゃいなさい」意地の悪そうなおばあちゃん(僕もしつこいね)は言います。いつもの僕だったら、違うものをよそってすぐに持って行くのですが、もうできませんでした。情けないことに、僕の心はすでに折れていたのです。
可哀想で可哀想で、僕の胸はつぶれました。( TДT)
何て不幸な女の子。ばあちゃん死んでまえ!

こんなこともありました。オレンジシャーベットを手に持ち椅子に上がるちっちゃい女の子。
あ、これはやばいぞ! 僕はハラハラと見つめていました。するとやっぱり、オレンジシャーベットがバシャッと床に。女の子は即座に大泣きです。

「オレンジシャーベットよそって! 大至急! それを持って行って。お代はいらないから」隣に立つ女の子に指示しました。
ちっちゃい子は何かをするとき、手に持っているものがおろそかになるのです。お父さん、そんなことぐらい気がつきなさい! (#`Д´)

それからお父さん、ありがとうぐらい言って行きなさい。分かる分からないは別にして、子供にもことの事情を説明して、ありがとう、と言わせなさい。
僕はありがとうと言われたいのではないのです。こどもに、ありがとう、という言葉を覚えてもらいたいのです。

ということで、生意気になる前の子供、大好きです。(*≧∀≦)o_彡☆


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ジェラート

「あいたい」って言える? ブログネタ:「あいたい」って言える? 参加中

私は言える 派!



どういうことなの?! いっつもいっつも忙しいって、忙しいのは分かるけどさ。
あたしはここまで出てきてるのよ!
すぐそこじゃない、それをどうして出てきてくれないのよ?!
そうじゃないわよ! すぐそばまで来てるって言ってるのよ!
すぐそこじゃないのよ! 何で会ってくれないのよ!
じゃあさ、じゃあさ、あたしはいったい何なのよ!
そんなこと言ってるんじゃないわよ!

女性は彼氏の仕事場のそばまで来ているのでしょうか。まあ、自宅の近くまで出てきていて、連絡とっても会えないというのはおかしな話ですからね。

でも、どう考えても、それ、駄目じゃないの? 僕は携帯電話を片手に歩き回る女性を見て思いました。
遊ばれたんでしょうかね。それとも女性の方が好みの男性にコブラツイストでもかけたんでしょうかね。でもまあ、やることやっちゃったんですね。
双方に責任がありますけれど、若い男なんて節穴ともやりかねませんからね (●′艸'●)フシアナ

そうそう、物の本によると、同じ相手と80回セックスすると飽きるそうですけれど、週に一回したとすると、2年持ちません ( ゚д゚)

ストーカーじみた恫喝を繰り返すそのお姿といえば、まあ、お綺麗とも可愛いともいえない女性でしたけれど、人は見た目じゃありません!
中身です。絶対、中身です。断固、中身……? (´^`;)
のしのしと歩き回るその女性が、僕は怖かったです。触らぬ神に畳鰯 (((;◔ᴗ◔;)))

僕は通じないギャグが大好きです o(≧▽≦)o
これが、たたみいわしね↓↓↓↓

たたみいわし

加藤諦三はこう書いていたよ。
〝女の美しさのすべてはその愛の始まりにおいてあれわれ、女の醜さのすべてはその愛の終わりにおいてあらわれる。愛がためされるのは、愛の始まりではなく、愛の終わりである。〟

えーと、お題は何でしたっけ? ふむふむ、「あいたい」って言える?
言えますけど、何か問題でも?

会いたいのに遠慮が募って会いたいと言えないのか、会いたいのに、会いたいと言えない雰囲気を振りまいているのか。ここ、大事よ。試験に出るからね +。゚(`-ω-*)bキラッ






「あいたい」って言える?
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揺れる木々は 風の囁(ささや)きを耳にする
ゆらゆらと ざわざわと その身を揺らし 耳を傾ける
それは風の どこか遠くへ まだ見ぬ未来へと 誘う声

葉擦れの音は 木々たちが起こす 戸惑いのざわめき
いつか そのうち きっと 必ず
しかとした答えは出ない

風はまた 一人で旅をする

見上げれば やがては消えゆく定めも知らず
黒雲は 目指す当てなく 空を流離(さすら)う
そぼ降る雨は たゆたう時に任せる雲の涙

風に心があるなら 雲に思いがあるなら
その声を 聞いてみたい

轍(わだち)のないところを 人は無意識に避ける
それは 歩くべき道ではないと 諦めるから

けれど 轍は誰かが 覚束ないその足で 作るもの
そうしてやがて 道となり 人の道しるべとなる

頼りなくとも 確かな轍を きっとその足で

賞賛も 労(ねぎら)いも 慰めも拒絶して
後に続く人に良かれと 彩りと微笑みを添えながら

翼は失われたのでも 生えていないでもなく
ただ 折りたたまれているにすぎないのだから

苦しみには必ず 意味がある

風が木々を揺らせた意思が
黒雲が雨を降らせたが意図が

きっとある

それが 生きる ということに違いないのだ



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─上昇する─

団地に戻った僕は、やるせない思いを抱いたまま通路を進んだ。もう子供の姿ではなかった。この世界の時間が順序よく進んでいたら、母は僕の帰りを待っているだろうし、妹はチョコを狙っている。そしてやがて、父の事故を知ることになる。

僕はため息をひとつつき、108号室の前を通り過ぎた。エレベーターのドアがなければ、僕はどこへ行けばいいのだろう。

祈る思いで上げた視線の先に、それはあった。
上りのボタンを押し、開いたドアから逃げ込むように乗り込んだ。首を出し、名残にもう一度通路の景色を眺めた。

1階のボタンを押すとエレベーターはゆっくりと上昇を始めた。ようやく元いた場所に戻れる。僕はふぅと息を吐いた。
ここは、かつての僕がいた場所だけれど、今の僕が存在すべき場所ではない。僕を待つ人がいて、僕が帰るべきところはこの上にある。

煙草を買わなくてはならない。美羽へのおみやげのぶどうのガムも。腕時計を見ると午後の9時を過ぎていた。家を出たのが8時半過ぎ。僕は0階に30分ほど滞在したことになる。帰ったらこの話を妻にしてあげよう。寝ぼけた? と小首をかしげられるだろうか。

そうだそうだ、郷里の母に電話して叔母の名前を訊いてみよう。それから、父はどんな人だったのかも詳しく訊いてみよう。母が愛した人だ、きっと喜んで話してくれるに違いない。そして夏になったら、何もない田舎の町に行って家族四人でお墓参りをしよう。

エレベーターのドアが開き足を踏み出そうとした僕は、ガラス戸にでもぶち当たったように動きを止めた。慌ててエレベーターの階層表示の辺りにしがみついた。
なんだこれは?!

そこには様々な機器が並び、点滴のスタンドが立ち、アームのようなものがにょきにょきと伸びていた。
半袖の手術衣の医師が複数いた。青い手術衣の医師もいた。手術ガウンの医師もいた。雰囲気としてはバラバラだった。ただ、皆一様に手術帽子とマスクを着用していた。
そんな景色を、正面からではなく頭上から見下ろしている。しがみついていたエレベーターはいつの間にか消えていた。

僕はそのベッドの上に、あたかも浮かんでいるかのようにそこを眺めていた。そしてそこが救急救命センターであり、横たわるのが僕であることを知るのにさほど時間はかからなかった。

やがて彼らの動きが止まり、一種呆然とした雰囲気が漂った。それは多分、僕の臨終だった。重篤な患者から遺体へと変わったそれは場所を移された。

妻が現れた。息子がきた。娘の美羽もきた。その横に、バレンタインチョコを盗み食いした僕の妹、明子がいた。時間が時間だ、郷里の母は後で知らされるのだろう。

妻が泣き崩れた。明子は、お兄ちゃんと、枕元に歩み寄り、ハンカチで目を覆った。息子はじっと立っていた。美羽は母親にしがみつき、その背中に顔を伏せて、小さな肩を震わせていた。

僕はまざまざと思い出していた。コンビニに向かう途中、赤信号を無視して突っ込んでくる車のヘッドライトを。

ああ、僕は美羽にぶどうのガムのお土産を渡すことなく、宿題に取り組む息子にお別れも告げずに命を落としたのか。
妻に、こんな僕と一緒に歩いてくれてありがとう、のお礼も言わずに、死んでしまったのか。

僕は眼下に呼びかけた。僕はここにいるよ、と。
けれど、何度呼びかけても反応はなかった。僕は悲しみに包まれた。人はやはり、一人で死んでゆくものなのだと分かった瞬間だった。この世の何ものにもたとえようのない孤独感だった。

僕はこのまま、ここにとどまり続けるのだろうか。そして、幾人もの死を見つめ続けるのだろうか。時が経ち、もしもこの病院が閉鎖されたら、僕はそこに現れる亡霊になるのだろうか。
やがて心霊スポットなどと呼ばれ、度胸試しにやってくる若者たちを暗い廃墟の病院で見つめ続けなければならないのだろうか。
それは嫌だ。
僕は発狂しそうになった。

己の意思表示が通じない闇の世界。

美味しい食べ物も、ささやかな遊興も、喜びも、楽しみも、人に助けられることも、人を助けることも、ありがとうを言うことも、言われることも、痛みを感じることも、安らぎを得ることも、微笑むことも、頬を涙が伝うこともない世界。

何もない、世界。

そのとき、かすかな気配を感じた。神経を集中して耳を澄ませた。

孝弘と呼ぶ声が聞こえた。

家族そろった公園。怪我をして負ぶわれた背中。そこで、この耳にしたそのままの父の声だった。それは、闇に差す一条の光だった。

「父さん」

再び孝弘と呼びかける、父とは異質の声がした。光がもうひとつ灯ったのだ。初めて耳にする柔らかな声の主が誰であるかを、僕はもう知っていた。

「孝子おばさん……」

─FIN─





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井上陽水「小春おばさん」



田舎町

─走れメロス─

団地の玄関をくぐり通路に入ると、急に薄暗くなる。それはまるで、夏の夕暮れに降る通り雨の空を思わせた。エレベーターのあった右方向へ通路を進む。

108の表示がふと目にとまる。強く心惹かれて立ち止まり、そのドアノブに触れた。ああ、うんと大きいイメージだったけど、こんなだったっけ。
視線を上げ、クリーム色に塗られた鉄製の古びたドアを撫でた。家族四人で暮らした家。母がおかえりと出迎えた家。そして、妹がやってきて僕の王座が奪われた家。

開けてみたい衝動に駆られたけれど、父が鍵をかけるところをこの目で見たのだ。施錠されていないわけはない。
家族が向かったのは、おそらく駅の近くにあったはずのスーパーだろう。だとするなら、まだまだ戻らない。

試しに回してみた。ちょっと引っかかりを感じる丸っこいそのドアノブに、僕の記憶は引き戻される。回す力を少し強めると、ゴンッとドアを震わす音がした。それは、開いた証拠。
呆気にとられた僕は、少し考えてから、引いてみようと決めた。これでは空き巣だとドキドキしながらも誘惑に負けたのだ。鼻先の空気が動き、やはりドアはすんなりと開いた。

「お帰り!」
女性の声に飛び上がりそうになった。とっさにドアを閉めて走り去ろうとした僕は、とんでもない事態に陥った。あろうことか母が顔を覗かせたのだ。血の気が失せた。部屋を間違えました、のいいわけですむだろうか。

「どうだった?」顔を出した母は不思議そうな顔ひとつせず尋ねてきた。
ここは、つい今しがたの公園の延長とは違う場所だ。いや、異なる時間と言うべきだろうか。前であるのか後ろであるかの推測はできないけれど、確実に季節が違っている。こぢんまりとしたダイニングには、ガスストーブが燃えているからだ。

「なに不思議そうな顔してるのよ、タカヒロ」
母の顔に、自分がその時代の中に子供として存在しているのに違いないと考えた。そうだ、確かに視線が低い。目の前の母は公園で見たときのように、まだ若い。

「お父……さんは?」自分の発した声は、明らかに子供のものだった。
「今日は土曜で半ドンだけど、なんだか寄り合いの集まりがあるって、帰りは夕方になるらしいわ」
母がエプロンで手をぬぐいながら玄関のスイッチを入れた。ベランダ以外に採光部はないから確かに暗い。

「で、どうだったのよ」母は意味ありげな顔で重ねて尋ねるが、どうだったのと訊かれても意味が分からない。
「何の話だっけ」僕は忘れたようにも、空とぼけているようにも見える表情を作った。
靴を脱ぐとき初めて自分がランドセルを背負っていることに気がついた。
「ははーその感じじゃダメだったのね、チョコ」
「おにいちゃん、おかえりー!」
片手にキティのぬいぐるみを抱えた妹が奥から顔を出した。
「おにいちゃん、チョコのおみやげは」
チョコ? おみやげ?

僕の背筋をざわざわとするものが這い上がる。そして、ひとつの可能性に行き当たる。
今日はバレンタイン・デーじゃないのか。

母が尋ねたのは、きっとバレンタインのチョコの話だ。そしてそれは、必然的にもうひとつの出来事に行き着く。
今日が父の命日ではないかということに。

大好きだったアヤコちゃんにチョコをもらった小学1年生の2月14日、父は死んだ。僕の心は一気に乱れた。
「アヤコちゃんのチョコの話?」
「決まってるじゃない」
「それなら、もらえたよ」
そう、僕はあの日、アヤコちゃんにイチゴのチョコをもらったのだ。それは結局、僕の目を盗んだ妹が全部食べてしまったのだけれど。

「今、何時だっけ」
「1時半よ」
「学校に忘れ物をしちゃった。取ってくる」
「おにいちゃんの、あわてんぼう」妹が鼻の付け根をくしゃりとさせた。

団地の玄関を出た僕はすぐさま走った。父が死んだ場所は分かっている。お葬式のあと三人で、父の好物だった豆大福と日本茶をお供えに行ったから。

父は事故で死んだ。寄り合いの席で、酒の飲めない父のコーラに冗談半分に、こっそりとウィスキーを注いだ人がいたのだ。少量とはいえ、下戸だった父にはダメージになったはずだ。具合が悪くなったと、寄り合いの席を途中で退席した父は車を運転し、交差点を曲がりきれずに民家のブロック塀に激突して死んだ。
僕はそこを目指して必死に走った。角にクリーニング屋のある交差点。僕が思い出せるのはおおよその方向とそのクリーニング屋だけ。

細い通りを走り抜け大通りに出た。事故が起きたのはこの通り沿いではない。真っ直ぐに走る。公園の横を通り左へ曲がる。遠い、思ったよりも遠い。僕の小さな体は、なかなかスピードが出ない。
車の少ない信号は無視して走り渡った。いくつかの角を曲がり自転車を避け、歩行者を追い越しまっしぐらに走った。息が切れる。肺が苦しい。
それでも僕は交差点を目指して走り続けた。どこだ、どこだ、どの道が一番近いんだ。あやふやな記憶と焦りも相まって、僕の頭は混乱していった。

そして僕は凍り付いた。生い茂るドングリの木が見える。また公園の近くに戻っている。力を奪われるように僕は立ち止まった。肺が苦しい。足が萎えて震える。思い出せ、思い出せ。あの交差点はどこだ。名前は何だ。

再び走り出した僕は、たばこ屋の角を曲がり八百屋の横の細い路地に走り込む。前にはおばあちゃんが犬を連れてゆっくりと歩いている。追い越せる幅はない。
おばあちゃん通して! おばあちゃんには聞こえない。僕はたたらを踏んだ。その横で民家の犬が吠える。その気配でおばあちゃんは横に避けた。
「あ、おばあちゃん、クリーニング屋さん、近くに、ない?」肩で息をしながら僕は訊いてみた。
「あ?」おばあちゃんは手のひらを耳に当てる。
「この近くに、クリーニング屋やさんは、ありませんか?」僕は声を大きくした。話すだけで息が上がる。
「ああ、ああ、どこだったっけねえ」と、首をかしげたおばあちゃんは人差し指をウロウロさせる。一瞬待ってみたが、らちが明かなかった。
「ありがとう、おばあちゃん」
「クリーニング屋さんでしょう?」
「大丈夫だから、おばあちゃん」
子犬を飛び越え僕は路地を走り抜ける。

右を見た。左を見た。
あった!
見えた。遙か先に緩いカーブを描く交差点の信号が見えた。その角にクリーニング屋の赤いテント。あれだ。間違いない。記憶の景色と合致する。
直線道路、三つ先の信号だ。距離はおよそ200メートル。僕は拳を握り、腕を強く振り、狭い歩道を避けて車道を走った。頬の肉がブルブルと上下左右に揺れる。足に残った最後の力を振り絞った。

父さん、父さん、車を止めろ! 体にアルコールが入ったことに早く気づけ! 呪いを解くように唸り続ける口の端からよだれが飛んだ。
父さん、父さん!

肺が苦しい。アゴが上がる。足がいうことをきかない。腿を上げろ、腕を振れ。あと100メートル。

長いじゃないか! 100メートルも走れない! 限界だ!

ダメだダメだ! 弱音を吐くな! 走れ、走れ、黒い風になれ!

もう少しだ。あと50メートル。空気が吸えない。息が苦しい。あとちょっと。間に合う、間に合う、間に合え!

そのときだった。右折をしてきた軽乗用車がスローモーションで民家のブロック塀に突き進んでいった。見開いた目に車の行く末が見えた気がした。周りから音が消えた。

あれだ。あれに父が乗っているのは間違いない。車は止まらない。なおも突き進む。そして、あえなく、ぐしゃりと激突した。ヘッドライトの破片が飛び散る様が見えた。

耳に音が戻ってくる。

車の急ブレーキ音と何台ものクラクションが鳴り響く。父の車はそこに当たってから、錐揉み状に回転した。

遅かった。間に合わなかった。僕は両手を膝に付き、肩で息をしながら交差点を見つめた。やがて力尽きて膝から崩れ落ちた。後ろからクラクションが鳴った。
轢きたきゃ轢け。僕は力なく、すてばちに呟き、頬にたまった唾を絞り出すように吐いた。それは長い糸を引いた。

救急車のサイレンの音がした。立ち上がった僕はその光景をボンヤリと眺めた。
父の無残な死に顔を見る勇気はない。

ごめんよ父さん。
事故の現場に背中を向けて、僕はうつむいて歩き出した。ぼやけた先に左右に踏み出される靴だけが、蜃気楼のように見えた。


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