―雨と子犬―
「いえ、特にファンってわけでもないんですけど」僕は言い訳がましく、おじさんの顔とポスターを交互に見た。
「薬師丸ひろ子、いいよねー」おじさんは顔をくしゅりとさせた。
「さっきの、とろんとした目は何だったんですか?」
「ああ、くしゃみが出そうだったんだよ。寒くて風邪を引いちゃったかも」
「そう、ですか……」
「布団はひとつしかないのでコタツでいいですか」コタツの横には万年床が敷いてある。
「充分充分。コタツで寝るの大好きだから」
「ウィスキー飲みますか? ビールと行きたいとこだけど、お金がなくて」
僕の言葉に、おじさんは分かる分かるといわんばかりに頷いている。
「ぼんぼんとは違って家が貧乏ですからアルバイトで細々と食いつないでいます。ウォークマンを買ったからますますお金がなくて」僕は笑った。

「そんな人のウィスキーを飲んじゃっていいのかなあ」
「いいですよ! トリスですけど」
「乾杯」不揃いのグラスを軽く合わせた。
「家はすぐそばなんですか?」チーカマにかぶりつきながら僕は尋ねた。
「うん、このちょっと先なんだ」おじさんは肩越しに人差し指を後ろに向けた。
「家には誰もいないんですか?」
「うん、実家に帰っていてね」おじさんはコクコクと頷いた。仕草が年齢に似合わずかわいらしい人だ。

「寂しい週末ですね」
「いやいや、せいせいしてるよ」両手を肩口でパッと広げた。
「そんなもんですか」
「うん、しょんなもんらよ」さきいかを口にくわえたまま笑った。
サントリートリスCM「雨と子犬」
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