アンジェラスの鐘
光の声
ジャンヌが初めて「声」を耳にしたのは13歳のころ。ひとりで中庭にいたときのことでした。すぐ隣にあるサン・レミ教会から聞こえてきた「声」に、彼女は恐怖を感じたといいます。
夏の正午とされていますので、お告げの祈りを知らせる鐘の音を、ジャンヌは記憶していたものと思われます。
カトリック教会では、「お告げの祈り」を朝昼夕と1日3回行います。それを知らせるためのお告げの鐘です。 マリアの「受胎告知」を記念して唱えるものです。
『受胎告知』ムリーリョ
《天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」》
<ルカの福音書 1章28節>
大天使ガブリエルが告げた突然の御(み)言葉に、マリアは驚き、戸惑いました。
「晩鐘」原題(アンジェラスの鐘)ジャン=フランソワ・ミレー
アンジェラスはラテン語で(エンジェル、天使)を指します。夕の平原に晩鐘が鳴り響き、それを合図に農民夫婦が祈りを捧げる場面です。
農婦の背中のはるか奥に教会が描かれています。
イエスの教えは日本人の想像をはるかに超えて、彼らの心に深く根ざしています。
「ジャンヌが声を聞いた自宅の庭」
3度目に遭遇したとき、威厳に満ちて光を伴うその声が、天の御遣い「大天使ガブリエル」が告げる神の言葉だと気がつきます。しかし、「私にはできません」とジャンヌは断ります。
農家に生まれて苗字すら持たない少女に、フランスを救うことなど、できるはずもないからです。
ジャンヌの決心
しかし、何度も届く神の声に、やがて心を決めます。聖母マリアがお告げを受けたことを、ジャンヌも知っていたからです。
『神の声を聞くジャンヌ』ルイ・モーリス・ブーテ・ド・モンヴェル
初めて「声」を聞いてからおよそ3年。ジャンヌは北にほど近い「ヴォークルール」へ向かいます。「声」に従うことを決めたのです。
「ヴォークルール城」には、「シャルル」に仕え、ドンレミ周辺を守る守備隊長「ロベール・ド・ボードリクール伯」がいることを、お告げで知っていたからです。
「ヴォークルール」の一帯は、イングランド・ブルゴーニュ同盟の勢力下にありました。
しかし「シャルル」率いる「アルマニャック派」に与して、たびたび襲いくる「ブルゴーニュ軍」の攻勢を退け続けていた要衝でした。
ジャンヌは、隣村に住む叔父「ラクサール」にお告げのことを話し協力を頼みました。
続きます。
─To be continued.─