待ち遠しい桜の蕾も大きく膨らみ、近所の家の庭先には梅が咲いている。

自転車の前かごに乗りきらないAmazonの段ボールを紐で括(くく)り付けて、僕は彼女の部屋を訪ねた。
「なに? プレゼント!?」ドアを開けたとたん、嬉しそうに肩口で両手を広げた。
「うさぎに」
「なんだ」眉根にしわを寄せて、プイっと体を反転させた。
ひどくわかりやすい反応はいつものことだし、それがいいところでもある。
“ああ、そうだったんだ”などと、浮かべた笑顔が引き攣り気味だったりしたらいたたまれないから。
「なんだとか言うなよ。猫はね、段ボールが大好きなんだ。これぐらいおっきくなったら大喜びだよ」
背中を向けたまま項垂れて、肩をヒクヒクと上下させているのは、泣いているぞ、の表現だろうか。
それはとりあえず無視することにした。
Amazonの段ボールの中に小さな空っぽ段ボールを入れていた。それを開けるとさらに小さな空っぽ段ボールが入っている。
「マトリョーシカか!」しゃがみ込んで見ていた彼女はバネ仕掛けの人形みたいに立ち上がった。
段ボールを興味深そうに前足でフックしていたうさぎが、姿勢を低く飛びすさって彼女を見上げた。
それぞれの段ボールから自分へのサプライズプレゼントが出てくるのではないかと期待した彼女は、かなりおかんむりだったけれど、うさぎは喜んだ。
プレゼントはまだ先。彼女の誕生日は来週だから。
「怒らないの」
大小さまざまな段ボールで、うさぎはよく遊んだ。

翌週は、夜中に降っていた雨もきれいに上がり、行楽日和といったところだった。
ショルダーバッグに誕生日プレゼントを入れて、いつものように自転車に乗って彼女の部屋に向かった。近所の公園に数本ある梅で花見をしようと約束したのだ。
自転車を降りて駐輪スペースに向かったとき、違和感を感じた。立ち止まった僕は、それが何かを探すためにゆっくりと視線を動かした。
いや、探すまでもなかった。信じられない異変は目の前にあった。真新しかった建物が古びているのだ。
呆気にとられた僕は左右を見渡した。場所が違っているわけではないことを、周りの景色が教えていた。
白くてきれいな建物だった。
それがどうしたことだろう、雨が流れた跡なのか幾筋ものシミが浮き、全体が薄汚れているのだ。あの風見鶏もなくなっている。
僕は自転車を止めて通路を進んだ。レンガを敷き詰めたそこも、ところどころがひび割れ、色が変わり、経年劣化を示していた。ありえない状況に、耳の奥で鼓動がうるさく鳴り始めた。
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