男はたぶん僕の幼馴染だ。
その男が部屋の隅に胡坐をかき、携帯電話を耳に当てたまま背中を丸めた。辺りを憚(はばか)るように声を潜め、うん、うん、と小さく頷いている。
どう見ても、これは良くない知らせだ。
男が背中を向けた事がさらに心をザワザワとさせ、僕は息をひそめ耳を澄ます。男はずいぶんと長い間話を聞いている。
ゆっくりと振り向いた男が、遠慮がちに携帯を差し出す。俯き加減に何も言わないことが悪い知らせの証。
僕の中でじわじわと恐怖が湧き上がってくる。
いつ、何処でバレたのだ。
「誰?」男に問いかけた声はかすれて届かない。
意識が遠のくような浮遊感の中、携帯を耳に当てる。
僕が人殺しだということが、ついに警察にバレたのか……。
女の声がした。
「嘘つき!」
EGO - RAPPINN / 色彩のブルース
時々夢で僕を苛(さいな)むのは、僕が人を殺した、というありもしないことだ。
目覚めても、怯えている。
僕は人を殺した、取り返しのつかないことをしてしまった、ということに。
意識がはっきりしてくると、それは夢だとわかる。
過去生では、誰かに殺されたり、誰かを殺したりしたこともあっただろう。
僕はこんな夢を時々見る。
それほど過去生の恐れを引きずっているのだろうか。
待てよ……僕は過去生ではなく今生の過去に、人を殺していないと言い切れるだろうか。
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