新高山登レ1208「8」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

    ─立ちはだかる荒波─

東の空が白み始めたころ、6隻の空母は風上に進路を向けて一斉に速力を上げた。

日本海軍の全正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」の6隻だ。
まさに日本海軍の総力に近い陣容だった。

冬の北太平洋は荒い。それを承知の上で、米軍も演習などでは使わない海域だからこそ選ばれたルートだった。

空母艦上では試運転の青白い光や、航空機の燃料系統に用いられる液圧を高める装置(ブースター)を吹かす大きな音が鳴り響いた。よく晴れた日曜日の朝だった。


海軍機を満載して航行する空母「蒼龍」

「この荒れはひどいな、大丈夫か」草鹿は源田に問いかけた。空母は上に下に右に左に大きく揺れている。

「そうですな」源田も表情を険しくした。
「爆撃隊だけにするか。重い魚雷を抱えた雷撃の発艦は、この揺れでは厳しいだろう」

予想以上に海が荒れ、草鹿と源田は雷撃隊の発艦を危ぶんで爆撃隊のみの発進を検討していた。

南雲は言葉をはさまない。水雷(機雷・魚雷・爆雷)戦術においては第一人者と誰もが認めるが、飛行機はまったくの専門外だ。

源田実は白波の立つ海原を見つめた。ここまで来て発艦を取りやめるということがどういうことか、源田には痛いほどわかった。

97艦攻は要だ。それを飛ばさないということは、真珠湾攻撃の成否を左右することだ。それよりなにより、なんと説明すれば搭乗員たちは納得するのだろうか。いや、金輪際納得などすまい。

彼らにとって飛行機は、武士の刀に等しいのだから。戦いを目の前にしてそれを抜くなと言えるだろうか。仮に自分がそう命令されておいそれと引き下がれるだろうか。


真珠湾に向かう97式艦上攻撃機(実写)

「なあみんな!」
男の大声に雷撃隊は振り返った。赤城の甲板上は風が強く荒波のために休みなく揺れている。

「飛べんかもしらんぞ」
「なに!? 中止か!?」
「いや、そうじゃない。雷撃を飛ばすかどうか、南雲長官と草鹿参謀長と源田航空参謀がそれについて話し合っているそうだ」

「この時化具合でか」
「だろうな。なにしろ魚雷は800キロあるからな。一歩発艦を誤れば海の藻屑だ」

「ここまで来て飛ばんとはありえん! 俺たちはこの日のために血のにじむような努力をしてきたんだ」

「それに、雷撃を抜いたら真珠湾攻撃の効果は半減以下だ。俺たちの97艦攻が飛ばずして真珠湾攻撃の完結はない」

「どうすればいいんだ」

「少なくとも源田さんがいる。雷撃は専門外だが海軍屈指の飛行機乗りだ。俺たちの気持ちはわかっているはず」

「結果が出るのを指をくわえてみているのか」

「上が飛ばさないと決めてから、誰かそれを覆せるのか? 決まる前に何かすべきじゃないのか?」

「我が胸の 燃ゆる思ひにくらぶれば」腕組みをした男が空を見上げた。

筑前(現在の福岡県)の勤王志士・平野國臣(ひらのくにおみ)の歌だ。

「烟(けむり)はうすし 櫻島山」違う男が続けた。

「そうだ。あの桜島だって俺たちの訓練を見届けてくれたではないか」

そう、彼らは錦江湾で一日たりとも休まず、今日の攻撃のための訓練を積んできたのだ。

「決定する前に、直訴しよう」
一人の男の声に雷撃機搭乗員は赤城の艦橋に向けて走り出した。


空母赤城

「長官!」声に驚いて振り向くと雷撃機搭乗員たちだった。
「飛ばせてください!」
どこで聞きつけてきたのか、みな血相を変えている。

「お前たち、わかっているだろうがこのローリングだ。魚雷をかかえたまま、みごと発艦できるか」南雲は隊員たちに聞いた。
「やれます!」

南雲は源田を見た。意をくんだ源田はゆっくりと隊員に向き直り、ひとりひとりの目を見つめる。隊員たちも源田の目を懇願の表情で見つめ返す。船は大きく揺れる。

逡巡の時間が過ぎ、やがて源田が南雲を見た。その目は、飛ばせましょうと言っていた。
南雲は小さく頷いた。

「参謀長、いいではないか、出してやろう」
飛行機は飛行機乗りに任せよう。それが一番確実だ。海軍航空隊の最高の人員である彼らは見事に飛んで見せるだろう。

空母『赤城』艦上では「第一波攻撃隊発艦セヨ」と命令が下された。


「翔鶴」から発艦する97式艦上攻撃機

空母翔鶴からは97式艦上攻撃機が真珠湾に向けて飛び立った。

搭載した91式改2型航空魚雷の重量はおよそ800キロ、その重量のため飛行甲板の末端から落下気味に飛び出すことになる。そこからエンジンをフル回転させてじりじりと上昇してゆく。


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