イヤリングをつけた耳たぶに、指先で少しブルガリをつける。あとは、手首と首筋の脈打つところに少し。
ベッドの脇の姿見の前で回ってみる。ワンピースがふわりと揺れて、フレグランスがほのかに舞い散る。思わず笑みが出た。休日の昼間からデートなんてめったにないことだから。
デパートに寄ってみよう。似合う服があったら買ってあげる。
それから、食事をしよう。溶けるような恋も。彼は笑った。
バッグを腕にかけ戸締りを確認しているところで、スマホが鳴り出した。彼からだ。
「あぁ、あたし。今ね、出るところ」喜びで声が少し上ずる。
「え? あぁ、そうなの。──うん、うん。そう、そうなんだ」
「うん、いいのよ気にしなくて。仕事が大事だから。──うん、うん」
「あたし? うーん、せっかく着替えちゃったから友達でも誘って食事にでも行こうかな。──いいのよ、いいのよ、気にしないで。うん、うん。いいんだって、そんなに謝らなくても。はい、またね。うん」
休日の昼間に電話して、スケジュールの空いている友人などいるはずもない。
イヤリングをはずし、ワンピースを脱ぎ捨て、パンストを脱ぐ。
それを一掴みにして壁に投げつける。
ぱさっと音を立てたそれは、壁を這うように、すっとベッドに落ちた。
それはまるで、何も抵抗することなく捩(ねじ)れて折れた、私の心を見るようだった。
またスマホが鳴る。
期待した私は急いで手にとる。ごめんごめん、冗談だよって。
でも、そんなはずはない。お父さん、早く! スマホの向こうから聞こえた声が耳から離れないのだから。
彼の下の娘さんだろう。幼稚園の年長さんらしい。
電話は母からだった。
「なに?」ついぶっきらぼうになる。
「帰ってこんと?」
「なにが?」
「休みになったら、帰ってこんと?」
「そんなに休みばっかり取ってるわけじゃないのよ!」
「あぁ、ごめんね、忙しかったと?」
ふと、母の姿が浮かんだ。今も農作業に出る母の後姿が。心がささくれたからって、私はなんて口の利き方をしたんだ。
「あぁ、そうだね。うーん、夏? 夏が無理だったら、冬には必ず帰るから」
「そう? じゃあ、楽しみに待っとーよ」
「ごめんね母さん」
「うん、紗枝ちゃんな、なに謝っとーと?」
「こんな娘で、ごめんね」
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なんだかご無沙汰しています。
うっかり者の僕は、電気を止められてしまったのです。
ブログを書いたということは復旧したんだね!
いえ、土日は動いてくれないのです。
本日はネットカフェからお送りしました。
もう少ししたら帰って寝ます。真っ暗な部屋で(;´▽`A``