振出しに戻る | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

「おう、あんちゃん、もう行くか」じいさんが二の腕を掻きながら、ちょっと気恥ずかしそうにふんふんと頷いた。
「はい、あてどもない旅に再び」

ああ、船は追っ付け来るよ。夕焼けの広がる水平線を差した指は節くれている。

「この国に賭けるものなんてないって、あんちゃん、ゆんべ言ったっけか」
「はい、おこがましくも言いました」

「まあ、このご時世、そんな気持ちになっちまうのもわからなくはねえけどさ……ああ、こんな風体の俺が説教しても説得力はないわな。うまく言えねえけど、まあ、賭けるものはそのうち見つかるさ」

煙草を取り出したじいさんは、左手の親指の爪に吸い口をトントンと叩きつけた。

「だけどな、どんな状況になっても諦めて放棄しちゃなんねえ。俺なんて、賭けて賭けて賭けまくって。頑張って頑張って歯あ食いしばって、最後に賭けたのが、どうしようもないサイコロさ」

じいさんがふう、と吐き出したハイライトの煙が風に吹かれて渦を巻く。



「まだ若けえよあんちゃん。無気力になるのは早すぎる。もがきが足んねえかもな。あんたまだ振出しに戻っちゃいないだろ。人生ってさ、嫌になるぐらい振出しに戻ることがあるのさ。あんたはまだまだ旅の始めだ。振出しに戻ったってすぐに追いつく。ほれ、吸うか」

差し出されたハイライトを受け取ると、火のついたライターが差し出された。じいさんの手は火が消えないように優しくこの手を包み込んだ。

「人生なんて、あてどもない旅と同じさ。ま、元気でやりなよ。ほら、これやるからさ」
「いいんですか」



「いいさ。サイコロのふたつやみっつ。それより諦めんなよ。俺みたいになっちまうぞ。それからな、俺は正直者じゃない。人生の敗残兵さ」
「そんなことないですよ」

「おおありだ。過去を悔やむことも、明日を夢見ることもなく、今日サイコロを振る大馬鹿野郎だ。でもな、こんな生き方もあるんだって、こんな俺だって許されるんだって、いつか気がついたのさ。
だって俺、普通に頑張ったんだから。うん、俺にも女房子供がいてさ、普通に働いていたんだ。
道が分からなくなったら、それ振りな。明日の道を丁半(ちょうはん)で決めてみるのもたまにはいいさ。達者で生きなよ、にいちゃん。できればまっすぐに」


落陽/吉田拓郎



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