おそらく、子供というのは大人ほどお風呂が好きではない。
だからこそ、じょうろや水鉄砲やアヒル隊長を持ち込んで何とか気を紛らわせようとするのだ。
お風呂に入った子供が、
「はあぁ~~ふぅ~~ッ」などと恍惚のため息を漏らしたら、将来がちょっと不安になる。そんなじじむさい子供、想像するだに恐ろしい。
人は何歳ぐらいを境にお風呂好きになるのだろう……。

それはさておき、僕らが若い頃は、町内に一件ぐらいは銭湯があった。ということは、ちょっと歩けばいつもと違う銭湯にも行けたのだ。
銭湯にはあこがれの番台がある。
〝番台に座ってみたい!〟
男たるもの、誰だって一度は切望するあの番台だ。

その番台でおばちゃんにお金を払い、滑(すべ)らかなお尻を見せながら服を脱ぎサッシを開けて湯気の立ちこめる風呂場へ向かうと、その湯船には必ずといっていいほど、じいちゃんが入っていた。
熱い湯船の向こう側に陣取り、まるで銭湯の主みたいに辺りを睥睨(へいげい)している。
早く出て欲しいけどなかなか出ない。湯船にはぶっとい蛇口がついているからといって、じいちゃんがいる限り水でぬるくすることはできないのだ。
僕はそろりそろりと入った。それはお風呂の熱いを通り越して、痛点を刺激した。
じいちゃんはそろそろ煮えている。
あの頃の銭湯は100円ぐらいだったと思う。けれど、どんどんと値上がりしていった。
いわゆる第四次中東戦争を機にしたオイルショックと呼ばれる現象だ。天井知らずの物価は狂乱物価と呼ばれた。
銭湯の値段も4~5年で倍になったはずだ。もちろん、その他諸々の物価も。
原油価格と直接関係のないトイレットペーパーや洗剤の買い占めが起こったのもこの頃だ。
テレビのニュースでもよくやっていた。開店と同時にトイレットペーパー売り場へ走り、争うようにそれを手に取る人たちを。
まあ、それも再びさておき、僕は洗面器に石けんとシャンプーとリンスとひげ剃りとタオルを入れて銭湯に通った。風呂場には必ずケロリンの黄色い洗面器が積んであった。
映画テルマエロマエより

「あのさ」休み時間のことだった。僕らの前でそいつは眉を険しくして声を潜めた。
「なに?」
「面白い話?」
「深刻な話?」
「怖い話?」
「ちんちんにさ」
ずざざざっ!
まるでそんな音が地を震わせそうな勢いでみんなが引いた。
もう、のけぞるように引いた。
「お、お前、病気もらったな!」
「エンガチョ!」
エンガチョ男は、両手の親指と人差し指で作った輪っかを結びつけ、祈祷師のごとくに胸の辺りで振る。
「違うって、違うんだよ」
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