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福岡の内科外科院長のブログ

福岡の内科外科院長のブログです。医療の事はもちろん、日々のクリニックでの出来事など投稿します。

皆様、こんにちは。消化器内科外科の院長です。

胃カメラ・大腸カメラをはじめ、おなかの痛みや痔などの消化器系疾患を専門としています。今回もお腹の不安が少しでも和らぐ情報をお届けしていきます。

 

冬は食中毒と縁がないと思われがちですが、実はカレーが原因の食中毒は寒い季節にも起きています。特に「一晩寝かせたカレー」の危険性は、専門医としても見過ごせない問題です。ここでは、胃腸内科外科の視点から「冬のカレー食中毒」とNG保存法、そして正しい予防策を詳しく解説します。

 

 

1.カレーで問題になる「ウェルシュ菌」とは

 

 

冬は気温が低いため、鍋を常温に放置しても大丈夫だと思われがちです。しかし、カレーやシチューなどの煮込み料理は冷めにくく、鍋の中心部が「細菌が増えやすい温度帯」に長時間とどまりやすい特徴があります。

 

その結果、「ウェルシュ菌」という細菌が一気に増殖し、食中毒を起こすことがあります。ウェルシュ菌は土や家畜の腸内など自然界に広く存在し、肉や野菜を通じてカレーの中に入り込むことが知られています。冬でも、保存方法を誤れば夏と同じ、あるいはそれ以上にリスクが高まるのです。

 

ウェルシュ菌は、酸素の少ない場所を好む「嫌気性」の細菌で、大量調理されたカレーやシチュー、煮物の中心部で増えやすいとされています。この菌は「芽胞(がほう)」という硬い殻のような状態で熱に強く、100度で1時間加熱しても生き残ることがあります。

 

カレーがゆっくり冷めていく過程で、温度が40〜50度前後になると、この芽胞が目を覚まし、短時間で爆発的に増殖します。その後、汚染されたカレーを食べると、腸の中で毒素(エンテロトキシン)が作られ、腹痛や下痢を引き起こします。潜伏期間はおよそ6〜18時間、多くは半日以内に症状が現れると報告されています。

 

 

 

2.冬にやりがちな「NG保存法」

 

 

冬のカレーで食中毒を招きやすいNG行動には、いくつかの典型パターンがあります。

 

まず危険なのが、「コンロの上に鍋のまま一晩放置する」パターンです。大量のカレーは鍋の中心部が冷めにくく、室温が低い冬ほど外側と内側の温度差が大きくなります。外側が冷えているので安心してしまいますが、内部はウェルシュ菌が増えやすい40〜50度のまま長時間保たれていることがあります。

 

次に、「翌日、しっかり温め直せば大丈夫」と考えることも危険です。再加熱で一部の細菌は死滅しても、芽胞は残りやすく、すでに産生されている毒素は加熱では壊れません。つまり、「ぐつぐつ煮込んだから安全」とは言い切れないのが、ウェルシュ菌による食中毒の怖いところです。

 

さらに、「大きな鍋のまま冷蔵庫に入れる」のもNG保存法のひとつです。鍋全体が冷えるまでに時間がかかるため、やはり細菌が増えやすい温度帯を長く通過してしまいます。冷蔵庫の中でも、中心部がなかなか10度以下にならないことがあり、安心できません。

 

 

3.食中毒が疑われる症状と受診の目安

 

ウェルシュ菌による食中毒は、主に腹痛と下痢が特徴です。激しい嘔吐を伴うことは比較的少なく、大量の水様便が何度も出るケースがよく見られます。発熱はあっても軽度から中等度で、症状は1〜2日でおさまることが多いとされています。

 

ただし、高齢者や基礎疾患のある人、体力が落ちている人では重症化するおそれもあり、脱水には十分な注意が必要です。

- 強い腹痛が続く 

- トイレから出られないほどの下痢 

- めまい、口の渇き、尿が極端に少ない 

 

といった症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。胃腸内科・消化器内科では症状や経過を確認し、必要に応じて点滴などで脱水を補正しながら経過を見ます。

 

 

 

4.冬のカレーを安全に楽しむためのポイント

 

 

カレーそのものが危険なのではなく、「大量調理」と「保存のしかた」に問題があるケースがほとんどです。冬でも安心してカレーを楽しむために、次のポイントを押さえておきましょう。

 

まず、「常温で一晩置かない」ことが大前提です。調理後はできるだけ早く冷却し、2時間以内を目安に20度以下、6時間以内に10度以下まで温度を下げるのが望ましいとされています。家庭では、カレーを浅い容器に小分けしてから冷蔵庫に入れることで、冷えやすくなります。

 

次に、「食べる分だけ鍋に戻して温める」ことも大切です。大鍋からそのまま加熱して何度も冷ましたり温めたりするほど、菌が増えやすい時間帯が長くなります。一度冷蔵したカレーは、しっかり中心まで温まるように加熱し、その日のうちに食べ切ることを基本にしましょう。

 

 

 

 

5.専門医からのメッセージ:冬こそ「保存」を甘く見ない

 

 

胃腸内科外科の外来でも、「冬なのにカレーで食中毒になった」と驚かれる方が少なくありません。多くの場合、「寒いから大丈夫だと思った」「ずっと煮込んだから安心だと思った」という思い込みが背景にあります。

 

しかし、ウェルシュ菌は「加熱しても生き残り、ゆっくり冷める過程で増える」という、カレーと相性の悪い特性を持った細菌です。冬だからこそ鍋を出しっぱなしにしやすく、仕事や家事で忙しい大人ほど保存の一手間を省きがちです。

 

「作りたてはしっかり火を通す」「常温放置しない」「浅い容器に小分けして冷やす」——この3つを守るだけでも、冬のカレーによる食中毒リスクはぐっと下げられます。もし食後に腹痛や下痢が出たときは、「疲れかな」と決めつけず、食中毒の可能性を念頭において、早めに水分補給と受診を検討してください。