ウルフルズ『ONE MIND』 | 佐藤良成オフィシャルブログ「佐藤良成のCD原人」Powered by Ameba

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同時代の日本の音楽を聴かずに育ったミュージシャンが、ふと人の作品を聴いてみると、そこは宝の山だった! 音楽シーンの知識ゼロ。チャートの知識もゼロ。ナタリーも音楽雑誌も読まない、J-POP的には原始人と言っていい男が綴る、CDレビューブログ!

ワーナー
【初回限定盤】WPCL-11844/5 ¥3,500+税 ※ベストアルバム付
【通常盤】WPCL-11846 ¥2,800+税
2014年5月21日発売


言葉には意味があり、意味があるから言葉を選んで使うわけです。意味のない音の羅列を他人に向って発することは、あまりありません。何を言っているのか聞き取れないということはありますが、大抵の場合、本人は何らかのメッセージを持って発言しているつもりだったりします。

しかし言葉は音でもあります。そして歌においては、言葉はメッセージである前に、まず音だと思います。歌詞の意味を一々追わなくても音楽を楽しむことはできるのですから、音楽においてはメッセージよりも音の方が優位だと俺は思っています。一昔前に流行ったスキャットマン・ジョンのヒット曲を思い出してもらえば、わかりやすいかと思います。

言葉が音なら、歌詞は音の連続です。どんな音を選ぶかで、歌がどんな風に聴こえるかが変わります。はっきりした音もあれば、くぐもって聴こえづらい音もあります。母音の中だと「あ」が一番口が開くのでオープンな響きになりますし、子音では「カ行」「タ行」「ラ行」や、その濁音版の「ガ行」「ダ行」は、舌の動きと相まって打楽器のような弾ける勢いのある音になります。口をすぼめた「う段」や、子音の「な行」はその逆で、その両者を合わせた「ぬ」や、口を閉じて発音する「ん」などは、聴こえづらいくぐもった音になります。

ウルフルズって、からっとして明るい曲が多いなと思って歌詞を見てみたら、サビなどの大事な箇所では、前述の「カ行」「タ行」、濁音、そして「あ段」のオンパレードでした。「ガッツだぜ」「バンザイ」などはまさにその代表例ですが、個人的に一番好きな『借金大王』にはびっくりしました。

サビの「貸した金 返せよ」で、抜けて聴こえてくる音は「か」だと思います。試しにその「か」の音を抜き出してみると、「かッッかッかッ」という歯切れの良いパターンが現れます。文字だとわかりづらいですが、リズム&ブルースでよく使われるリズムパターンです。そして、それとよく似たベースラインが追っかけるように続くので、さらにご機嫌に聴こえます。

しかも、「貸した金 返」までは、高さも長さも同じ音が連なっているだけの実にシンプルなメロディーです。要所要所に「か」を置いていくだけで、ここまで効果的で印象的になっているのです。

ちなみにこのウルフルズの新作、初回限定ボーナスディスクとして、この『借金大王』も収録された10曲入りのベスト盤がついてきます。同じ日にニューアルバムを発売したこちらからすると、こんな強豪と競わなくてはならないのは、はなはだ辛いものがあります。