この衝撃的な言葉と出会ったのは、私がまだ40歳になったばかりの頃でした。
当時はまだインターネットが普及していなかったので、アマゾンで古本を検索して購入するなんて事は出来ませんでした。
大阪の中央図書館で読んでいた時の感動を、今でもはっきりと覚えています。
この言葉は、ヘンリー・ミラーの最高傑作と言われる「暗い春」に収められているエッセイのタイトルです。
エッセイの内容は、彼が作家として修行している貧乏時代に水彩画を始めて夢中になって描いていると、ふと自分でもびっくりする程の傑作が出来てしまった。
その時の様子を、心理学、芸術論、宗教論などに言及しながら、文学的にまとめた不思議なエッセイなのです。
ヘンリー・ミラーは世界的に有名な大作家なのですが、当時は新潮社の全集が絶版になっていて、彼の作品は「北回帰線」しか本屋に出回っていなかったのです。
おそらく日本では、性の作家と呼ばれた彼の作品が猥褻だと誤解されていたのと、少し哲学的で難解なので、大衆にはあまり受け入れられなかったのかも知れません。
猥褻な小説なんてまったくの誤解で、人間の人生そのものを正直に見つめ続けて、ついには禅の大家のような心境にまで達した、希有な作家です。
とくに晩年のエッセイ集が素晴らしく、「梯子の下の微笑み」などは作家というよりも賢者や聖者に近い作品です。
今は全集が揃って来ましたので、本屋さんでも手に入ると思いますので、ぜひ読んでみて下さい。
「私には天使の透かしが入っている」
この言葉だけで、彼の天才が証明されています。