朝 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

月曜日の朝は、浸み込むような冷たい雨が降っていた

 

あちらのお天気はどうだろう、そう思いTVに視線を投げると「今日は全国的に雨です」と、いつもの番組のアナウンサーが告げている

 

入院の荷物が濡れなければいいけど・・・

まあでも、キャスターバッグだろうから濡れてもそう困らないか

駐車場から、院内へもそう濡れずに入れるし

 

朝早めの入院、と聞いていた。
雅治のことだから、もう病院に向かっているのかもしれない。受付にはまだだいぶ時間があるだろうけど

 

そんなことを思いながらフライパンを握り、卵液を流し込む。

 

 

「お母さん、今日は目玉焼きとパンにする。ハムチーズのやつ」

 

「はいはい、卵焼きの後ね。牛乳はそこにあるから、勝手に飲んで」

 

「僕は飲み物だけでいいよ、いつもの」

 

「了解、スムージーね。お弁当、今日はスープタイプにしておく?しっかり食べる時間がとれないんでしょ、今日は」

 

「うん、それでいい」

 

 

「ママー! アタシのヨーグルトは?刻んだバナナも入れてねー」

 

 

3つのコンロと、オーブントースター、レンジ、それぞれがフルに動いている。

いつもの喧騒に身を沈めて、でも今朝はここに居ない別の人の気配を心に置いている

 

 

いつものバタバタの中で3人を送り出した。

さあ、私も。駐車場までの雨の中を走る。


寒い。


糸のような霧雨がコートに小さな水滴になって染み込んでくる。



「マフラーはよくするよ、寒がりだからね」


些細なひと言を聞いて、今まであまりしたことのなかったマフラーを巻くようになった。

霧雨の中でも風を通さない暖かさを知る。そしてその暖かさは、記憶の温もりに重なる

 

そろそろ、雅治は病院に着くころかもしれない

 

 

いってらっしゃい、いよいよ今日になりましたね

 

 

走り出す前に送ったLINEに、一つ目の信号で返信が返ってくる

 

 

もう入院受付の待合にいるよ

 

 

隣にいらっしゃるでしょう?

いま、返事はいいですから

 

 

帰ったよ このご時世だからね。

もう僕ひとりだから、何も問題ない



ひとり!?


 

まだ受付が開く前の時間

思わず、胸がギュッとなる。気持ちがザワついた


・・・私だったら


いや、そこは私が出るところじゃない





お部屋は個室になさったんですか?


信号が赤に変わるたびにLINEを打つ



そう、少しグレードのいい部屋になったよ



今日の予定は?なにか検査がありますか?



入院時に必要な検査はこの間済ませてあるから。

今日はとりあえず、部屋に慣れるのと、持ってきた仕事でもしようかな



無理しないで。ゆっくりなさって

入院なんだから



復帰してから仕事がやたらと溜まっているのもね





そんなやり取りは、私が職場に着くまで続いた

 

 

 

 

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