ご褒美は? | 水底の月

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恋の時は30年になりました 

「で、何?ご褒美は」

 

あらかたの案件が終わった時だった。

 

 

「え?」

 

 

「私はご希望の、何のお願いを叶えたらいいんでしょうか?3か月でというところを2か月で持ってきたというところから、私にいいえを言わさないこれでもかのダメ押しとお見受けしますが。」

 

 

もったいぶった言い回し、嫌味をわざと絡めたような丁寧語。
でもそんな言葉の数々は、実は本音がそうではなかったということをもう理解していたから。

目が笑ってるんだから、もう少し普通に言えばいいのに。そんな言い方したって怖くないのに。

 

 

 

あえて、直球。

 

 

「いいですか」

 

 

「どうぞ。約束ですからね」

 

 

 

 

私は息を吸い込み事務局長をじっと見て伝えた。

 

 

 

 

 

「では。煙草を吸うのを今日以降、一切止めていただけますか」

 

 

 

「・・・煙草?」

 

 

事務局長の細い目がまんまるに見開かれた。

 

 

 

健康増進法が制定されるよりも前の話。

その頃、喫煙は今よりもずっと日常茶飯事、普通に診察室やナースステーションに煙草の匂いがするような、控室の壁がヤニっぽいなんていうこともまだまだ当たり前の時代だった。

 

 

 

「何で?」

 

 

「ご自分でお気づきではありません?夕方から夜にかけて咳き込む回数が多くなることに。私、事務局長さんのお仕事で最近は夕方から夜動くことが多いですけど、昼間よりも夜のほうが頻回ですよね、咳。喫煙で気管支に負担がかかっているのではと思いますが」

 

 

「べ、別に咳くらい。大したことではありません」

 

 

「3か月から2か月に縮めて受験したのもその理由です。早く治していただきたいと」

 

 

「そんなそんな。日本たばこ産業の方のお仕事を奪ってはいけませんよ、いけません」

 

事務局長は、苦笑いを浮かべた。

 

 

「こちらに移ってから咳の度合があがったと仰ってましたよね。・・・法人をひっぱっていこうとする方が身体を壊してはやるべきことが頓挫するのではないでしょうか。ご自分は法人の道しるべ、肩の上に何百人の人間の生活がかかっていると仰いました。・・・それに」

 

 

 

 

一呼吸おいて続けた。

 

 

 

 

 

 

「私、煙草吸う人嫌いなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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