恋って落ちる(堕ちる)もの。
繋がる時って1にも2にもタイミング。どっちかが「今まで」を突き破らないと進まない。
今はもう・・・新しい恋などカケラも必要がないのでタイミングも何もですけど。
昔の私の場合、私から好きにならないと恋には発展しない、さらに猪突猛進型。相手をもなぎ倒すくらいの勢いで突っ込んでいくからお相手は大変。
で、ずいぶん長ーく巻き込まれて、その犠牲になってらっしゃる方もいらっしゃる
脱線した、話を戻します。
「煙草吸う人嫌いなんです、って。煙草を止めろ、つまり君の好みに合わせろと?」
「はい」
咳き込みが気になっていたのも本当。
あろうことか煙草の銘柄がOさんと同じで、くゆらす香りが何とも・・・嫌だったのもある。
そしてもうひとつの本音。
その本音は・・・まだ自分では確固たるものとして固まってはいないんだけど
今思えば、若いというのは怖ろしい。
色々含めても法人のナンバー2。
そして歳の差が21もある相手に声高に言い放つことじゃない。年上だから受け入れられるという話でもないだろうし。
ただ、受け入れられる、と。どういうわけか確信があったのも確か。
そしてその暴言への答え
事務局長は笑みを浮かべ、スーツのポケットに入れていた煙草を取り出すと、くしゃっと握りしめた。
「なるほど。わざわざ法人云々まで言われたら止めないわけにはいきません、わかりました。わかりましたっと。こんなことが禁煙になるとはね、やられた」
ぽいとゴミ箱に投げ捨て、そしてメモを取り出しさらさらと何か書いて手渡された。
「何ですか?」
「自宅の電話番号」
!
「私は携帯を持たない主義でね。何かあったらいつでも。私しか出ない」
!!
「えっ、えと・・・じゃ」
「大丈夫。知ってます。・・・君の番号は私にも必要だから」
!!!
口角を上げた笑みは別の言葉を吐きそうにゆらぎ、それに眼鏡ごしの目が呼応する。
射抜かれる目の鋭さは先生のほうが強い。
肉食動物か鷹が狙いを定めるような、先生は時々そんな目をする。
その目にいつもかき乱され、その目は断片の記憶さえビーズ細工のように繋ぎ合わせて私の中に先生を落とし込む。消そうとしたって消せないように。
同じ眼鏡ごしでも私が知っている目じゃない。
日頃の、言葉の棘ほどには強くない目の光は蜘蛛の糸を巻き付けるように私を捕らえた。
他の職員は知らない。事務局長がこんな包み込むような目をすることを。
その目を逸らすことが出来ず、吸いこまれるように視線を合わせた。
踏み込む。
その感覚は過去に数回、先生との間で経験した。
まだ引き返せる止まれると思いながら、結局その道は一方通行で引き返せなくなる。
言い放っては見たものの、自分の中ではまだ恋情とは言えず
でも間違いなくそういう情動が来る、先生との時みたいに。
そんな感覚が身体を襲った。