回想 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

知れば、判れば、不安は少なくなる


どの公式を使って解けばいいのかが解ったら

初めての問題でも解法が見えてくる



昔、雅治に対峙する時

(恋する相手との関わりを「対峙する」なんていうのもどうかとも思うけど)


それは、見たこともない難しい数学のテキストを与えられた時の感覚に似ていて。

別冊解答の無いそれを、とにかく解かなくてはいけないような。

解いても解いても、合っているかすらわからない



好きでも、何か好きとは遠く

別の人に感じたかつての好きとも全く違い


わからない中で不可思議な方向にベクトルを振り回し、それにまた不安になり


止めたらいいのに、離れたらいいのに

止められず離れられず



肌を許されても

心はなかなか許してもらえないもどかしさ

見抜けぬ解らぬ

雅治の心は、一体どこを向いている?


だから、肌を欲しがり

欲しがられるままに抱かれ、抱きあい

許されぬ心をその肌の中に探し

そこに、言えぬ雅治の思いがあるなど知りもせず




長い時は

私に、様々を教えた


時が長かったから


絡んだ思いもほどけて、今に至るわけで





私が雅治を解らなかったように


雅治もまた、

どうしたって私が離れていかないという何故かの確信を持ちながらも、それに至る私の心が解らず。

どうして私が自分にこんなに傾倒してくるのか、好かれることに懐疑もあり(おそらく)

それにどこまで自らの本音で向き合ったらいいか、解らないがゆえに自己開示に至れず


フランクな人見知りは、

深く深く誰かを知り抜くなんてことに慣れてなかった、だろうしね




解らぬ同士が、答え合わせをせぬまま

だけど好きだと思う上澄みだけを味わいすすりあい


やがて、降ってわいた病。

雅治の得た病が、動かぬ時を動かした




もう、今は

雅治の声ひとつ気配ひとつ

私を、不安にさせることはなくなっていて


私は

雅治の、放つ気配の中で好きなように振る舞い

雅治の「愛している」をそのまま受け止め

雅治の、探すように追う目に、視線を絡ませる





コンコン・・・



2度目に、雅治が私の部屋を訪れる

音もなくドアを開け、雅治は入ってきて



ファンデーションも、柔軟剤の香りもしない

肌に香るのは、同じボディソープの香り



小さく、笑みを交わした


ただ強く引き寄せられ、腕に抱かれ



待ってた、何より

その、本当に落ち着く場所に還っていく







 

 

 

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