テデスキ・トラックス・バンド→スライ&ザ・ファミリーストーン | なるべく猟奇に走るなWHO'S WHO

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「基本の音」って感じがします。ファンクを志向するミュージシャンたちは、スライ&ザ・ファミリーストーン

絶対に参照せずにはおれないはずなので。 あっ俺もやってみたい、という音なんですよね多分。乱暴に言ってしまうと

「ファンクの父」ジェイムズ・ブラウンのそれは、タイトでスタイリッシュな唯一無二の音であり、パーラメント

ファンカデリック一派のは、なんというか複雑でずぶずぶで「ぐじゃあ」としている。スライはというと、そのちょうど

中間って感じでしょうか。バンドっぽかったりするし。その革新的なサウンドはもちろんなんですが、スライ・ストーン

の 絶大なカリスマ性もあっての「定番化」ではなかったか、とも思います。僕はいちおう、初期のも後期(それにしても

スライがまだ存命なのが信じられない)のもすべて聴いてるはずですなんが、「定番」としてのアルバムはといえば、

以下の3枚にとどめを刺します。コアなファンでもない限り、異論のある方はいないのではないかと。というかこの3枚

だけ聴けば、あとはもうよろし。


スーパーヒットとなった4作目「スタンド!」は、こないだ久々に聴いて

みたら「おおー、意外とポップじゃん」と思いました。ファンクというか、

ブラックロック、と言っていいかもです。よく、彼らはソウルとロックを

繋いだのだ、なんて言われ方もされますが、これを聴いていると、彼らは

後に生まれた呼称である「ミクスチャーロック」のまさに元祖と思えます。

タイトル曲であるとか"You Can Make It If You Try"といった

メッセージ性の強いナンバー、さらには"Everyday People"

また、ウッドストックフェスティバルの歴史的名演でハイライトとなった

"I Want to Take You Higher"などもうキャッチーな名曲が

目白押し。ただ、そうかと思って油断してると、JBの名曲のインストカバー

「セックスマシーン」なんか原曲がまったくわかんないアレンジで

延々グネグネと演奏するのとか、なぜ奴はここにこれを入れたのだろう、なんて思いましたが、まあこういうところも

天才たる所以ということで(単に尺を埋めるためかも)。


次の「暴動」は、もともとマルチ奏者であるスライが、オーバーダブを

繰り返し、ほとんどひとりで造りあげたもの。スライが真に革新的だった

のは、このときだったのではないか、とあらためて聴いてみて思いました。

リズムボックスのかなり早い時期での使用ということも特筆すべきでしょう。

ベトナム戦争ドン詰まりの時代を反映してか全体に暗いというか内省的で

ダウナーな雰囲気です。発表当時ファンが困惑した、というのがなんとなく

納得できてしまう「深い」作品ではないかと。これのレコーディングの途中

ラリー・グラハム辞めたんだよなあ・・・後年のPファンクに通じる

部分も感じられたりして。深読みしなければパーソナルな曲なんであろう

「ファミリー・アフェア」みたいのがあるかと思えばラストナンバー

である「サンキュー」の重~いリメイクみたいなのもあり。なんかこう

彼の話になると必ず付いてまわることになってる、ドラッグの影響みたいのもあるのかしら。


ドラッグといえば、さらに次作の、ジャケットも強烈な「フレッシュ」は、

前2作と比較すると、やや地味めながら、一転して明るくクールなファンク

ですが、このころドラッグ依存による死亡説まで出ていたこともあったんで

「なんだ、スライ全然いけるじゃん」と、ファンはひとまず胸をなでおろした

ことでした。しかしこのときのスライは、もうすでに崩壊寸前だったとかで、

そう考えるとこれは、ロウソクの燃え尽きる直前の輝きみたいなものだった

のでしょうか。とにかくすっばらしい演奏であり、もし3枚のうちどれか1枚を

選べと言われたら、僕は迷わずこれを採ります。

ベストトラックはというと、なんといっても1曲目、アルバムのテーマ曲たる

「イン・タイム」でしょうこれは。大正解であった新加入の白人ドラマー

大正義アンディ・ニューマークによるちょっと信じがたいハイハット

のキレ!もうカッコ良すぎて悶絶しました。また、スライのボーカルも好調で

「おおっ、すげえ」てくらいソウルフルに歌い上げられる「ケ・セラ・セラ」みたいな「ソウルミュージック・リスペクト」な

ナンバーもあったりなど、全体にロック色は希薄です。ルーズで、ややモコモコしてますが、ここにはまさに、ファンクの

ひとつの成熟が提示されている、と僕は考えます。いずれにしても、スライはこの作品をもって「終わった」のであり、

この後ドラッグで完全にダメになり、でまた復活してみたりを繰り返すことになります。しかし、そのたびファンの期待を

裏切り続けるというか、こっちもあきらめモードになり・・・とはいえ、もちろん彼を責める気はない。これも天才の典型的

宿命パターンなわけで、「今度こそは」つってニューアルバムを買うやつがアホなの。合掌・・・って殺しちゃいかんね。


さて次回は、マーヴィン・ゲイ・ミーツ・プリンスって話もありますが、実はスライの正当な音楽的嫡子であり、

現代に息づくモコモコファンクのカリスマ・・・