涼風文庫堂の「文庫おでっせい」488 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

森村誠一、

清水一行、

西村寿行>

 

1468「野性の証明」

森村誠一
長編   高木彬光:解説  角川文庫
 
 
東北の寒村で戦慄すべき大量虐殺事件が発生!
 
辺地のため発見が遅れ、
三日後、一人だけ行方不明になっていた少女が
近くの村で発見された。
 
だが、事件の時のショックで記憶を喪失していた。
 
それから二年の歳月がすぎた。
 
F県羽代市に、どこから流れてきたのか、
十歳ぐらいの少女を連れた若い男が
保険の外務員として住みついた。
 
何か目的があって来たらしく、
彼はやがて羽代新報の若い婦人記者に
接近し始めた。
 
息もつかせぬサスペンス。
 
人間の心に潜伏する凄じい野性を追求した、
話題の証明シリーズ第三弾!
 
                        <ウラスジ>
 
まず初めに。
 
今回登場する三作品は、
いずれも映画化されています。
(しかも多分、観てしまっています)
 
よって(?)、
小説&映画が錯綜してしまう恐れがありますので、
なにとぞご容赦下さい。
 
<野性の証明>
発端となった大量虐殺の場面では、
本格推理小説の王道とも言える
犯行現場の「見取り図」が掲載されており、
これが荒唐無稽な予測の入り込む余地を
狭めています。
(ここんとこが、西村寿行・勝目梓・門田泰明と違うところ)
(自衛隊は関係してくるが、
殺戮を目的とした「特殊部隊」などの仕業ではない)
 
で、<ウラスジ>にあるように、
物語は進み、時代が変わって、
枝葉末節を取りこみながら、
真相に近づいていくさまは、
『人間の証明』と同様、
一気読みの予感を感じさせるものでした。
 
そして大団円は真相の解明と、伏線の回収。
 
最後の最後で明かされるそれらは、
『人間の証明』でもそうでしたが、
辻褄が合い過ぎだという評価もあったようですが、
それは著者の計算通りであったということでしょう。
 
間違った推理を結論づける刑事の感想など、
見事なまでにハマっています。
 
特に、
「味沢、使え!」
と、北野刑事が斧を渡した後の虐殺模様――
 
人格を疑われそうですが、
押さえきれないカタルシスを感じてしまって、
 
”殺すんだ。手を休めてはいけない。
一人も生かすな。みな殺しにしろ――!
 
作中の北野刑事のモノローグに呼応してしまいました。
 
虐殺(ジェノサイド)が始まった――
 
とは、のちに読むことになる、
夢枕獏さんの<キマイラ・シリーズ>で
お目にかかった ”合図” でしたが……。
 
今のゲームなんかの潮流のひとつ。
 
相手が悪人やゾンビのたぐいなら
大量殺戮も許されてしまうはず――
と、さしたる葛藤もなく、納得しています。
 
で……。
 
①「お父さん、怖いよ。何か来るよ。
大勢でお父さんを殺しに来るよ」
 
②「男はタフでなければ生きて行けない。
優しくなれなければ生きている資格がない」
 
テレビのCMでやたら流れていたこのセリフ――。
 
①薬師丸ひろ子さんの映画デビュー作。
 しかし、このセリフは映画あってこそのもの。
 原作とは違う、映画独自の世界から来るセリフか。
 
②このころ、このセリフが出て来る
 チャンドラーの『プレイバック』は
 文庫になっていなかったと記憶しています。
 
<余談>
『人間の証明』のジョー山中といい、
『野性の証明』(戦士の休息)の町田義人といい、
角川映画は良いシンガーを持ってくるなあ……。
 
 
 
 
 
 

1469「女教師」

清水一行
長編   武蔵野次郎:解説  角川文庫
 
 
土曜の午後の人けのない音楽室で、
ピアノの練習に没頭していた
西部中学の若い音楽教師 田路節子は、
突然、数人の男に襲われ、暴行された。
 
彼女は、
頭から黒のビニール袋をかぶせられて、
犯人たちの顔はわからなかったが、
その中の一人の声に聞き覚えがあった。
 
学校随一の不良生徒 江川秀雄である。
 
中学三年の生徒が暴行魔?
 
このスキャンダラスな事件解明の任に、
硬骨の生徒指導教諭 影山が当った。
 
だが、表沙汰にしたくない
学校上層部の態度に妨げられて
真相究明は難航した。
 
そして今度は、
渦中の生徒 江川が、
修学旅行先で誘拐されるという事件が起きた!
 
純粋であるべき教育の現場が内包する諸問題を
鋭く抉った傑作長編推理。
 
                        <ウラスジ>
 
<ウラスジ>の続きは、こう。
 
第四章 当事者
 
所沢西部中学校教諭 小林史郎の死体は、
同中学三年生が修学旅行から帰った翌朝、
つまり五月三十一日の午前六時ごろ、
たまたま通りかかった新聞配達の少年が発見して、
近くの派出所に知らせた。
 
<本編>
ここに至って(やっと)殺人事件が発生。
(不謹慎)
学校の治外法権性が奪われることになります。
 
ここから犯人追求と、
その前のレイプ事件とのつながりが
徐々に明らかになってゆきます。
 
ミステリー要素を織り交ぜながら、
石川達三の『人間の壁』
(日教組のカンパで映画化もされた、女教師の物語)
にもあった、
さまざまな教師像を提示してゆきます。
 
 
 
 
 

1470「君よ憤怒の河を渉れ」

西村寿行
長編   荒井修:解説  徳間文庫
 
 
「この人がうちに入った強盗です!」
 
新宿の交番で未知の女性からそういわれて指さされたとき、
東京地検のエリート検事 杜丘冬人の人生が崩れた。
 
一転、
他人の眼を逃れ、闇を奔り、
ある時は北海道で熊と闘い、
新宿の繁華街をサラブレッドで走りぬける
逃亡生活が始まった。
 
彼を駆りたてているのは
自分を罠に陥れたものに対する
滾るような憤怒――
 
それだけだった。
 
西村寿行の記念碑的出世作。
 
                        <ウラスジ>
 
怒れる逃亡検事 降臨。
 
<ウラスジ>をみても窺い知れる、
シュワちゃん演じるところの
『トゥルーライズ』みたいな文言。
 
……字面だけ捕らえると、
”ドタバタ劇” とも誤解されかねません。
 
『脱走と追跡のサンバ』
 
誤解を恐れずに言うと、
のちに週刊プレイボーイで取り上げられた、
”漫画のような小説”
の走りだったかもしれません。
 
(その記事の中で主に取り上げられた作家は、
夢枕獏さん、菊地秀行さんあたりでしたが)
 
”ハードロマン”
の象徴でもあり、
そのトップに君臨する足掛かりともなった作品。 
 
この少々長めの題名の付け方も、
これが最初ぐらいか。
 
 
 
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
 
今回は三作とも。
 
◎「野性の証明」 1978年
製作:角川春樹
監督:佐藤純彌
脚本:高田宏治
撮影:姫田真佐久
音楽:大野雄二  主題歌:町田義人「戦士の休息」
原作:森村誠一
出演
高倉健
中野良子
薬師丸ひろ子
夏木勲
舘ひろし
 
* 監督・主演男優・主演女優が、
  2年前の『君よ憤怒の河を渉れ』と同じ。
* 夏木(夏八木)勲はこの好演で
  『白昼の死角』の主演をゲットしたらしい。
 
 
 
◎「女教師」 1977年
製作:岡田裕
監督:田中登
脚本:中島丈博
撮影:前田米造
音楽:中村栄
原作:清水一行
出演
永島暎子
宮井えりな
江沢萌子
古尾谷雅
砂塚英夫
樹木希林
蟹江敬三
 
* 永島暎子。
* 目頭(眉頭)のほくろが印象的。
* にっかつロマンポルノから出発した、
  のちに一般映画やテレビドラマにシフトしていった
  ”カリスマ女優” 。
* 古尾谷雅人。
* これがデビュー作。
* しかし、このタッパと雰囲気で
  ”中学生” って大いに無理がある。
* 『ヒポクラテスたち』でブレイク。
* 2003年に縊死。享年45歳。
 
 
 
 
 
◎「君よ憤怒の河を渉れ」 1976年
製作:永田雅一
監督:佐藤純彌
脚本:田坂啓/佐藤純彌
撮影:小林節雄
音楽:青山八郎
原作:西村寿行
出演
高倉健
中野良子
原田芳雄
池部良
西村晃
 
* 監督・主演男優・主演女優が、
  2年後の『野性の証明』と同じ。
* 原田芳雄が良い。
* 倍賞美津子が色っぽい。
 
1470冊、終了。