涼風文庫堂の「文庫おでっせい」487 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<ケイン、

ハリディ、

プロンジーニ>

 

1465「郵便配達は

二度ベルを鳴らす」

ジェームズ・マラハン・ケイン
長編   田中西二郎:訳  新潮文庫
 
 
フランクがふらりと飛びこんだ
街道わきのサンドウィッチ食堂は、
ギリシャ人のおやじと若すぎる女房コーラがやっていた。
 
この店で働くことになった彼は、
やがてコーラと ”いい仲” になり、
ニック殺害のために完全犯罪を計画するが……。
 
本編は、ケインの処女作長編で、
本格的ハード・ボイルド作品として、
現代アメリカ文学の一傾向を代表する
名作のひとつに数えられている。
 
                        <ウラスジ>
 
◯ハードボイルドというよりも、
犯罪小説(クライム・ストーリー)。
 
◯この作品に「郵便配達員」は出てきません。
 
◯表題の意味するところについては諸説あるようですが―― 
◯私は ”念には念を入れる” 風なものと聞き及んでいます。
 
◯というのも、原題は、
 ”The Postman Always Rings Twice”
◯もともと初訳出の時は、
 『郵便配達はいつもベルを二度鳴らす』
 だったそうですが――
 
◯この田中西二郎さんの翻訳以降、
 ”いつも(Always)” 
 が無くなった表題が流布してしまったようです。
 
<本編>
ある意味完全犯罪は達成されるのですが、
その後の紆余曲折で最後は、
悲劇というよりも「<悲惨な>状況を招きます。
 
この
”モーテルにふらりと立ち寄った若い風来坊が、
そこの若妻といい仲になって――”
みたいなストーリーですが――。
 
こと映画に関しては、
アメリカのハードボイルド(or犯罪映画)というよりは、
フランスのフィルム・ノワールのような雰囲気を
漂わせているような気がします。
 
だからという訳じゃないんでしょうが、
真っ先に映画化されたのは戦前のフランス、
そしてこの後紹介するイタリア――
 
と、戦火の欧州が本家のアメリカを差し置いて
映画化を行なっています。
 
私も記憶は定かではありませんが、
似たようなシチュエーションのフランス映画を
観たような――。
 
ロベール・オッセンが出てたっけ。
 
フランスのフィルム・ノワールの作り手が大好きな、
ハドリー・チェイスあたりの原作をアレンジして――。
『めんどりの肉』?
 
 
 
 

1466「死の配当」

ブレット・ハリデイ
長編   丸本聰明:訳  早川文庫
 
 
私立探偵マイケル・シェーンのアパートを尋ねてきた
富豪令嬢フィリス・ブライトンはこんな話を始めた
――
彼女は病身の継父を静養のために
マイアミに連れてきていたが、
間もなくニューヨークに残っていた母が会いにくる。
 
その母を自分が殺すかもしれないから
監視してくれというのだ。
 
信じられないような話だ。
 
半信半疑のまま、
シェーンがブライトン家を訪ねると、
すでに母親は刺し殺されていた!
 
あの純真そうな令嬢が?
 
この怪事件の裏には必ず何かがある
……
陽光降り注ぐマイアミを舞台に、
ハードボイルド・ヒーロー、
赤毛のシェーン登場!
 
                        <ウラスジ>
 
 
マイケル・シェーンには個人的な思い入れがあります。
 
高校のころ、
なぜか大阪梅田の紀伊國屋で、
何でもいいから英語の原書のペーパーバックを
2冊買ったんですが、
そのなかの一冊が<マイケル・シェーンもの>でした。
(ちなみにもう一冊は『007/ドクター・ノオ』)。
 
選んだ理由としては
表紙がエロチックだったから。
(全裸にシーツをまとった女性がシェーンに縋りついている図)
 
ただし、
マイケル・シェーンものは性描写が少ないので有名。
 
看板に偽りあり。
 
で、題名は……
忘れてしまいました。
 
<本編>
<ウラスジ>のあと、
シェーンは結構な目に遭います。
 
四五口径のオートマチックが続けざまに四回、
オレンジ色の火を噴いた。
シェーンはよろめき、半ば通りのほうに向きかけたが、
そのまま崩れるようにコンクリートの歩道に倒れた。
 
シェーン、危うし。
 
このあと病院で、
救急車の付添夫にこう言われます。
 
「あなたは探偵のマイケル・シェーンさんでしょう?」
シェーンは頷いて見せた。
付添夫は気持のよい微笑をうかべた。
若い男だった。
かれは賞賛するようにいった。
「やつらにあなたを殺すことなんかできませんよ、ねえ?」
 
なぜか印象深いシーンとして残りました。
 
マイアミじゃ、有名人。
 
このあと、ラファエルの絵が登場し、
『血の収穫』もしくは『用心棒』的展開となり、
 
最後の一つ前の章で、
本格推理小説風の種明かしが行われ、
 
「これで、間違いなく配当はこっちの手に入るぞ」
といった表題につながる独言が放たれ、
 
のちに結婚する依頼人のフィリスと接吻して、
ハッピーエンド。
 
<余談>
このハリディというかマイケル・シェーンというか、
カーター・ブラウン並みとまでは行かないけれど、
ポケミスで20冊近く出ていたのに、
文庫だと、
 
『死の配当』
『死体が転がりこんできた』
 
の2冊のみ。
 
なんなんでしょう。
 
……とりあえずは
”死体が転がりこんで”  
くるのを待ちましょう。
 
 
 
 

1467「 誘 拐 」 

ー名無しの探偵シリーズー

ビル・プロンジーニ
長編   高見浩:訳  新潮文庫
 
 
主人公の私立探偵は、孤独な中年独身男。
 
パルプ・マガジンの収集が唯一の趣味で、
喫煙過多による性悪な咳の発作に苦しめられている。
 
男の子を誘拐された父親の依頼で、
犯人に身代金を届けに行くが、
事件は意外な発展を遂げ、謎は謎を呼ぶ……。
 
ネオ・ハードボイルド派の旗手が、
霧のサンフランシスコを舞台に
陰翳豊かに描く、注目のサスペンス――
 
”名無しの探偵オプ” シリーズ第一弾。
 
                        <ウラスジ>
 
久々に聞いた
”ネオ・ハードボイルド”
という響き。
 
なんでも言い出しっぺは小鷹信光さんのようですが、
小鷹さん自身、
『探偵物語』を書いていらっしゃいますからね……。
 
1970年前後から台頭してきた、新しめの私立探偵もの。
 
特徴とて挙げられているのは、
1.探偵のキャラクター付けの重視。
2.タフガイの衰退。マチズモ(男性優位主義)の終焉。
3.社会的問題の扱い方が、自分のフィルターを通すようになる。 
4.つまり、探偵の個人的問題を通して社会を描くようになる。
5.よって、探偵自身の事件へののめり込み具合が強くなる。
 
あと、
この名無しの探偵を別にすると、
やたら健康的になったような気がします。
 
ジョギングしたり、ジムに通ったり――。
 
で、一応
”ネオ・ハードボイルド”
とされていた作家とレギュラーの探偵を
何人か挙げておきます。
 
ビル・プロンジーニ 
(名無しの探偵) これ。
マイクル・Z・リューイン 
(アルバート・サムスン&パウダー警部補)
  *スピンオフのパウダー警部補のほうが食いつきがよろしい。
   家庭菜園みたいなのをやってたっけ
ロジャー・L・サイモン 
(モウゼズ・ワイン)ヤク中。
ロバート・B・パーカー 
(スペンサー)ファーストネームは謎。
ローレンス・ブロック 
(マット・スカダー)八百万。
 
<本編>
……というより、
最後の独白の部分に波線を引いている部分があって、
それを抜き書きして、お開きにします。
 
 
きみがおれをどう変えようと望んでも、
現在も、また将来も、
おれはおれでありつづけるだろうさ。
 
だからこそ、二者択一を迫られた場合、
たとえ君を愛していようときみを選ぶことはできんのだ。
 
おれはおれでしかない。
 
おれであることをやめたり、
別の人間に変ろうとすることなど、
できるはずがなかろうじゃないか。
 
 
恋人エリカに対しての物言い。
 
ちょっと泣き言っぽくもあります。
 
で……。
 
マクベインの『通り魔』のところで言った、
”泣きのミステリー”
の真髄がこのモノローグに集約されているのです。
 
<余談>
このセリフと真っ向から歯向かう物語(?)が
ウィリアム・メルヴィン・ケリーの
『聖パウロと猿たち』。
 

 

こっちは思いっ切り、

女に引っ張られ、自分を変えてしまいそうな感じ。

 

まあ、<名無しの探偵>の方は、

大人っちゃ大人ですねえ……。

 

<余談のおまけ>

ビル・プロンジーニの ”名無しの探偵” は、

コリン・ウィルコックスの ”ヘイスティング警部” と

『依頼人は三度襲われる』

(文春文庫/近日登場)

で共演しています。

 

で……。

 

舞台を日本に移して――

 

名無しの探偵を演じていたのが緒形拳さん。

ヘイスティング警部を演じていたのが菅原文太さん。

 

もし

『依頼人は三度襲われる』が

ドラマになってたら、映画並みの大スター共演に

なってたでしょうね。

 

 
 

【涼風映画堂の】

”読んでから見るか、見てから読むか”

 

 

◎「郵便配達は

二度ベルを鳴らす」

OSSESSIONE

1942年(伊)

製作:カミロ・パガーニ

 

監督:ルキノ・ヴィスコンティ

脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ジュゼッペ・デ・サンティス

    マリオ・アリカタ/ジャンニ・プッチーニ

撮影:アルド・トンティ/ドメニコ・スカラ

音楽:ジュゼッペ・ロサーティ

原作:ジェームズ・M・ケイン(クレジットなし)

出演

クララ・カラマイ

マッシモ・ジロッティ

フアン・デ・ランダ

ディア・クリスティーニ

エリオ・マルクッツオ

 

 

* 本来なら、ボブ・ラフェルソン監督、

  ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の

  1981年度作品を挙げるべきなんでしょうが――

 

 

* あいにく私の映画ノートには記載がなくて――

 

* ヴィスコンティの処女作というのもあって、

  この作品を選びました。

 

* ”クレジットなし” はイタリアの専売特許らしい。

* レオーネの『荒野の用心棒』と言い……。

 

* 年代からして、

  ロッセリーニの『無防備都市』

  デ・シーカの『自転車泥棒』

  とともに、

  ”ネオ・アリズモ” 

  の作品ってされてるが――。

* それは『揺れる大地』だろう?

 

* 舞台や設定は変わっても、作品の本質は変わらず。

* それを地で行く映像美。

 

* ヴィスコンティ。

 

* ベルトルッチが後継者になるのかなあ……。