涼風文庫堂の「文庫おでっせい」405 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<安部公房、

眉村卓、

有島武郎>

 

1222「 箱 男 」

安部公房
長編   平岡篤頼:解説  新潮文庫
 
 
ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、
都市を彷徨する箱男は、
覗き窓から何を見つめるのだろう。
 
一切の帰属を捨て去り、
存在証明を放棄することで彼が求め、
そして得たものは?
 
贋箱男との錯綜した関係、
看護婦との絶望的な愛。
 
輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)
 
読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、
実験的精神溢れる書下ろし長編。
 
                        <ウラスジ>
 
 
≪上野の浮浪者一掃 けさ取り締り 百八十人逮捕≫
 
という新聞の見出しで始まり、
 
これは箱男についての記録である。
ぼくは今、この記録を箱のなかで書きはじめている。
頭からかぶると、すっぽり、
ちょうど腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。
つまり、今のところ、箱男はこのぼく自身だということでもある。
箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけているというわけだ。
 
という独白めいたイントロダクションが入り、
 
≪箱の製法≫
材料
ダンボール空箱 一個
ビニール生地(半透明) 五十センチ角
ガムテープ(耐水性) 約八メートル
針金 約二メートル
切出し小刀(工具として)
(なお、街頭に出るための本格的身ごしらえには、
 他に使い古しのドンゴロス三枚、
 作業用ゴム長靴一足を用意すること)
 
ダンボールの空箱は、
縦、横、それぞれ一メートル、
高さ、一メートル三十前後のものであれば、
どんなものでも構わない――
 
と、箱男になるためのマニュアルが添えてあります。
 
箱男は増殖する。
 
単なる<覗き屋>の話じゃないか、
と中身を一気に形而下に貶めることがないように。
 
<余談>
実験小説、ここにあり。
 
写真なんかのコラージュも使ってありますが、
「文字」だけを駆使して突飛な試みをしていたりします。
 
たとえば次に挙げる部分――
 
 
いくら世間を拒み、
箱にもぐって世間から雲隠れしたからと言って、
もともと箱男は氵
 
(インク切れによる中断。
 小物容れから古鉛筆を探し出し、芯を削るのに、二分半経過。
 さいわいぼくはまだ殺されていない。
 その証拠に、ボールペンから鉛筆に変りはしたが、
 字体はそっくり前のままである。)
 
ところで、何を書きかけていたのだっけ。
たぶん「浮」の字の左半分だ。
「箱男は浮浪者とは違う」
とでも書くつもりだったのだろう。
 
 
「さんずい」。
ちょうどページの切れ目だったし、
最初、誤植かと思いました。
 
 
筒井康隆さんの『虚人たち』同様、
落着いて読み進めるべし。
 
 
 
 

1223「ねらわれた学園」

眉村卓
中編   豊田有恒  角川文庫
収録作品
 
1.ねらわれた学園
2.0ゼロからきた敵
 
 
もし、
人や物を自由に動かすことができたら――
 
誰しもが夢みる超能力。
 
しかしそれが普通の人間に与えられていないことが
どんなに幸福なことかは意外に知られていない……。
 
ある日、
おとなしかったはずの少女が突然、
生徒会の会長選挙に立候補、
鮮やかに当選してしまった。
 
だが会長になった彼女は、
魅惑の微笑と恐怖の超能力で
学校を支配しはじめた。
 
美しい顔に隠された彼女の真の正体は?
 
彼女の持つ謎の超能力とは?
 
平和な学園に訪れた戦慄の日々を描くスリラーの世界!
 
他に複製人間の恐怖を描いた
「0ゼロからきた敵」
を併録。
 
                        <ウラスジ>
 
 
書籍では
<SFベストセラーズ>鶴書房盛光社
 
『時をかける少女』 筒井康隆
『夕ばえ作戦』 光瀬龍
『なぞの転校生』 眉村卓
 
映像では1972年から始まった
<NHK 少年ドラマシリーズ>
 
『タイムトラベラー』(時をかける少女) 筒井康隆
『暁はただ銀色』 光瀬龍
『夕ばえ作戦』 光瀬龍
『まぼろしのペンフレンド』 眉村卓
『なぞの転校生』 眉村卓
『明日への追跡』 光瀬龍
『未来からの挑戦』(ねらわれた学園・地獄の才能) 眉村卓
 
<少年ドラマシリーズ>は、
まだまだたくさんありましたが、
とりあえず私が視聴していたものを挙げておきました。
 
これらSFジュブナイルの
テレビにおける映像化で、
SFがある程度、市民権を得た頃に、
”角川映画、学園SFに挑戦!” <帯スジ>
となったような案配で。
 
……調べてみると、
星新一・小松左京・筒井康隆
といった<御三家>の作品もドラマ化されていますが、
やはり数でいくと、眉村卓・光瀬龍のお二人が目立ちます。
 
まさに ”双璧” 。
 
<余談>
この手のSFドラマの先駆者はNHK,
というのが私の認識。
 
「時間よ~、止まれ!」
の ”ふしぎな少年”(手塚治虫)
の頃から。
1961年放映。
 
そうそう、主演は太田博之さんだった。
天才子役・中堅の祖。
 
とにかく、うっすらと覚えてます。
 
 
 
 
 

1224「一房の葡萄」

有島武郎
短編集   坂本浩:解説  角川文庫
収録作品
 
1.一房の葡萄
2.おぼれかけた兄妹
3.碁石を飲んだ八っちゃん
4.ぼくの帽子のお話
5.かたわ者
6.火事とポチ
7.真夏の夢
8.燕と王子
 
 
有島武郎の童話はここに収められた8篇がすべてである。
 
男手一つで愛児を育てあげる苦労を味わいつつ、
すでに学齢期に達した3人の子供に、
精神の糧を与えたいという父性愛的願望から書かれたものである。
 
「おぼれかけた兄妹」「碁石を飲んだ八っちゃん」
「ぼくの帽子のお話」「かたわ者」「火事とポチ」
「真夏の夢」「燕と王子」
を収む。
 
                        <ウラスジ>
 
それぞれの作品を
解説の坂本浩さんの文章を継ぎ接ぎして
披露いたします。
 
『一房の葡萄』
は盗みを取扱い、
『おぼれかけた兄妹』
『碁石を飲んだ八っちゃん』
は死の問題を取りあげ、
子供の世界に見られるエゴイズムや争いを徹底的に描いています。
『ぼくの帽子のお話』
は夢を描いたものですが、
そこには子供の孤独や寂寥がとらえられています。
『かたわ者』
は『燕と王子』を連想させるテーマを取り扱いながら、
人間の欺瞞が暴露されています。
最後の
『火事とポチ』
は、子供にとって恐ろしい火事を生き生きと描き、
しかもポチをしてついに死なせるところまで追求しています。
 
(文章は前後します)
 
『真夏の夢』
『燕と王子』
とは、
武郎がまだ本格的な作家生活にはいる以前に書かれたもので、
前者はストリンドベルヒの翻訳であり、
後者はオスカー・ワイルドの「幸福な王子」の翻案です。
 
 
<余談 1>
”一房の葡萄” って聞くと、
なぜか、
「負け惜しみを言う狐」
の話が脳裡をよぎります。
 
あれはイソップだっけ?
 
<余談 2>
ストリンドベルヒ【ストリンドベリ】 (スウェーデン)、
読んでない。
 
イプセン (ノルウェー)
ヤコブセン (デンマーク)
は読んだのに。
 
代表作の『令嬢ジュリー』はドっから出てるんだ?
 
 
北欧の劇作家三人衆。
 
 
 
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
 
 

◎「ねらわれた学園」

1981年 (日) 角川春樹事務所 東宝配給
製作:逸見稔/稲葉清治
製作総指揮:角川春樹
 
監督:大林宣彦
脚本:植木昌一郎
原案:葉村彰子
撮影:阪本善尚
音楽:松任谷正孝
主題歌:「守ってあげたい」 松任谷由実
原作:眉村卓
 
出演
薬師丸ひろ子
高柳良一
長谷川真砂美
峰岸徹
手塚真
三浦浩一
 
 
* まだ<尾道三部作>を手掛ける前の大林監督作。
* CM出身者らしいSFXは『HOUSE』で実証済み。
* でも峰岸徹の造詣は不細工だったなあ。
 
* 原案は、テレビ『大岡越前』でお馴染みの葉村彰子。
* これ、個人ではなくて、共同のペンネーム。
* 最近だとアニメ作品によくあるパターン。
 
* 主題歌はユーミン。
  第二次ブームの幕明けを告げるヒット。
* B面は『グレイス・スリックの肖像』。
* グレイス・スリックといい、
  フランソワーズ・アルディといい、
  ユーミンが名を挙げる女性シンガーは渋い。
 
* 主演は、”最後の映画女優” 薬師丸ひろ子さん。
 
* 共演の
  高柳良一さん
  は『時をかける少女』で
  ケン・ソゴルも演ってる。
* 若くして引退、角川書店に入社、という話。
 
 
* 松田優作との類似性を言われてたけど、
  今見ると又野誠治さんっぽいなあ。
* つまり、”ジーパン” じゃなくて、”ブルース” 。
 
* 長谷川真砂美さん。
 
 
* 私にとって、
  村地弘美さん
  と並ぶ、
  ”優等生役が似合う女優” 。
 
 
お二人とも芸能界をやめられたようで……。
 
いや、なつかしい……。