<森村誠一、
飛鳥高、
都筑道夫>
1000.「高層の死角」 乱歩賞受賞作
森村誠一
長編 中島河太郎:解説 角川文庫
二度のコールサインに部屋から全く反応がない。
今までにこんなことはなかった。
異常を感じたルームメードが合鍵を使って室内に入った瞬間、
彼女は悲鳴をあげてその場に立ち尽くした。
そこには、胸部から噴き出した鮮血で
ベッドをまっ赤に染めた老社長の変死体が!
業界が注目する、画期的な外資との業務提携の直前、
大ホテルの社長が密室状態の専用室で何者かに殺害された。
利害関係か、怨恨か?
ただちに警視庁捜査一課による綿密な捜査が開始された。
しかし、現場には凶器も犯人の遺留品もなく、
事件は最初から暗礁に乗り上げてしまった……。
第15回江戸川乱歩賞に輝く不朽の傑作長編推理!
<ウラスジ>
まずは、わたくし的事情から。
乱歩賞作品はベルトコンベア式
(まあ、副賞(?)が講談社からの書籍出版ですから)
に講談社文庫で読むことが多かったし、
に講談社文庫で読むことが多かったし、
ここ何十年かはずっと講談社文庫の独り舞台でした。
それでも回が若いころは、
西村京太郎、佐賀潜(ともに春陽文庫)、
といった例外がありました。
一番新しいのでは 『浅草エノケン一座の嵐』 (角川文庫)かな。
で、『高層の死角』 は乱歩賞作品なので、
当然、講談社文庫からも出ていました(すでに)。
しかし、そこはスルーして、
勢いづきつつあった(刊行数も多かった)
角川文庫での登場を待つことにしました。
森村作品は、講談社文庫ではなく、
角川文庫で統一収集する、
ということに決めていたからです。
この流れは
和久俊三さんの 『仮面法廷』 を手に入れた手順とおなじです。
(和久作品も角川文庫で集めていました)
なんたって角川はメディアミックスですので。
ただ、24冊目だったので結構時間がかかったかも。
<本編>
またまた丸写しで。
【高層の死角】
昭和四四年、第一五回江戸川乱歩賞受賞作。
ホテル業界に身を置いたことのある森村誠一が、
熟知したホテルを舞台に、密室構成の容易なホテルの部屋と、
ルームキー、
フロアパスキー、
グランドマスターキー、
フロントスペアキー
の四つの鍵を自在に動かして、
密室トリックと精妙なアリバイ崩しを作り上げた、
本格推理の力作である。
<二上洋一:世界の推理小説・総解説より>
<余談>
大谷羊太郎さんのことを調べているうちに、
森村誠一さんとの共通点があるとの文言に出合いました。
いわく、
社会派推理小説全盛の時代にあって、
<トリック>主体の謎解きものを多く発表していたのが
森村誠一、斎藤栄、大谷羊太郎、
の三氏である、と。
この三人に共通するのは、
社会派からは否定された、
”レギュラーの探偵(刑事)役を
持って(作って)しまったこと” 。
棟居刑事、タロット日美子、八木沢警部補――等々。
二時間ドラマでも準レギュラーの面々。
これが逆に、息の長さにつながったのかも。
1001.「細い赤い糸」
日本推理作家協会賞受賞作
飛鳥高
長編 中島河太郎:解説 講談社文庫
次々と不可解な連続殺人事件が起こり、
被害者のいずれも、鈍器で殴殺されたと推定される。
第一犯行現場の唯一の遺留品は「細い赤い糸」。
被害者の頭部に付着していた。
被害者同志、何の面識もなく犯行動機がつかめない。
ただ、手口の類似が同一犯人の犯行を裏付ける。
「細い赤い糸」に秘められた殺人の謎を追う本格推理長編。
日本推理作家協会賞受賞。
<ウラスジ>
四つの事件。
第一章 谷間の人達
第一は水道公団の汚職に検挙の手がのびたので、
脛に傷もつ職員が係長を自殺に装わせて殺し、
火の手をくいとめようとする。
ところが係長がほんとに自殺したので、
自分が疑われるのを恐れ、逃げる途中殺される。
第二章 暗い青春
第二の事件は二人の若者が映画館の売上金を奪い、
その分け前を争って衝突事故をひき起こしたあとで、
一人が殺されている。
第三章 歪んだ情事
第三は恋人が重役の娘との縁談に気乗りしている様子なので、
重役に手を引かせようと、その素行調査を
秘密探偵社に頼んだ女子社員が殺害される。
第四章 蟷螂の斧
第四は病院の医師間の勢力争いが、患者の手当で表面に出て、
副院長が殺される。
以上四つの事件は人物がからまりあっていないし、
まったく別々に起こる。
<中島河太郎:解説を編集>
最後の最後に犯人が分かり、関連が明らかにされます。
このプロット、解説でも触れていましたが、
ウールリッチ(アイリッシュ)の 『黒衣の花嫁』
などの先例がある、
という部分を目にして、すぐさま
小説ではなく、映画の方を思い浮かべてしまいました。
犯人と解ったジャンヌ・モローが、
最後の一人を殺すために仕組んだ罠。
ラストシーンは、
被害者の断末魔と、
それに覆いかぶさるメンデルスゾーンの 『結婚行進曲』 ――。
ハープシコード(チェンバロ)の不協和音にも聞こえる音楽が、
映画が終った後も耳にこびりついていました。
でもこれ、
ウールリッチの本編でやるべきだったな……。
トリュフォー作品だし。
1002.「やぶにらみの時計」
都筑道夫
長編 海渡英祐:解説 中公文庫
ある朝、泥酔からめざめた彼は、
妻だという見も知らぬ女から
他人の名前でよばれて愕然とした。
本当の自分を探し求めて巷を彷徨する
自分でなくなってしまった男の恐怖と焦燥を、
皮肉な笑いのなかに描破した著者の代表的長篇推理小説。
<ウラスジ>
都筑道夫さんと言うと、
トリックというよりも、”仕掛け” って言葉が
ピッタリくる気がします。
現にこの作品も、一ページ目からどことなく怪しい……。
目蓋がこわばっている。
寝たりない証拠だろう。
で始まる物語は、段落を変えると、
きみの目蓋は、たしかに重い。
けれど、盤陀づけされてしまったわけではない。――
と、二人称を使って進んでいくことがわかります。
二人称を使ったのは、
スリラーの主人公はできるだけ読者と密着させておきたいが、
一人称では書く上の制約が多いので、
フランスのアンチ・ロマン、
ミシェル・ビュトールの 『心変り』 にならい、
いわば実況放送スタイルにしたのだ、と作者は言っています。
<海渡英祐:解説より>
しまった。
ビュトールは 『時間割』 しか読んでない。
岩波文庫から出てたっけ。
<余談>
ということで、
わたくし的都筑道夫作品と、各文庫の比率配分について。
都筑作品については前述の森村誠一作品のように、
一社(一文庫)による選択が困難な状況にありました。
『悪魔はあくまで悪魔である』
『十七人目の死神』
以上 角川文庫
『猫の舌に釘をうて』
『三重露出』
『なめくじに聞いてみろ』
以上 講談社文庫
『やぶにらみの時計』
『誘拐作戦』
以上 中公文庫
この他にも、新潮文庫、集英社文庫、文春文庫、等々
名だたる文庫に、重なることなく拡散していて、
一つどころか二つの文庫でも収まり切れない
陣容を誇っていました。
結局私が早期に手にしたのは前述の三文庫でしたが、
その後も徳間文庫が加わり(退職刑事シリーズ)、
今は<なめくじ長屋シリーズ>を光文社文庫で
全巻揃えることを目標としています。
あとは
佐野洋さんとドンパチやりあったエッセイとか読みたいなあ。
いわゆる<名探偵論争>を。