涼風文庫堂の「文庫おでっせい」312 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<福島正実、

平井和正、

モリエール>

 

945「S F の夜」

福島正実
 
短編集   あとがき  早川文庫
目次
 
1.薄闇
2.帰郷
3.過去をして過去を
4.ゴースト・プラネット
5.月C市民
6.J・J・J
7.転位
8.今は昔
9.百万に一度の偶然
10.凧
11.悲鳴
12.ふっと風が
13.ゴールデン・デリシャス
14.残像
15.予知
16.遭難
17.微笑
18.愛は惜しみなく
19.SFの夜
 
 
死んだはずの友人や恋人たちが、
現実の世界に生きている話 「ちがう」
 
白人の世界と黒人の世界とが、
ある時を境に、逆の立場になる 「J・J・J」
 
少年SFファン団がSF出版社を襲う表題作 「SFの夜」 他、
 
「百万に一度の偶然」 「月C市民」など、
SF界のリードオフマン福島正実の傑作短篇十九篇を収録!
 
           <1986ハヤカワ文庫解説目録>
 
 
ああ、大変だ。
<解説目録>で紹介されている 『ちがう』 という作品が、
どこにも見当たらない。
 
改題したのか?
文庫化に際して削られてしまったのか?
 
……実はこの手の<情報違い>、
初めての経験ではありません。
二度目の遭遇になります。
 
一度目は筒井康隆さんの 『東海道戦争』。
解説書のたぐいによると、
『トーチカ』 という作品が収められているはずなんですが、
これが丸っきりの行方不明。
 
のちに別の短編集 『笑うな』 に
収録されていることが解りましたが……。
 
なんか黎明期の日本SFの短編は、
こんな風に行方知れずになっているものが多かったと聞きます。
 
それはそれとして。
 
高校時代、SF小説を書いていた友人が、
『福島正実』 さんについて、こう語っていました。
 
「翻訳といい、アンソロジーの編纂といい、
日本のSFにとっての大恩人であることに間違いはないのだが、
実際に書く小説となると……」
 
ごにょごにょ。
 
”考えオチ” にまで行き着かない話というのは、ね。
 
むにゃむにゃ。
 
 
 
 
 
 
 

946「悪徳学園」

平井和正
短編集   荒巻義雄:解説  早川文庫
目次
 
1.悪徳学園
2.星新一の内的宇宙(インナー・スペース)
3.転生
4.エスパーお蘭
5.親殺し
あとがき
 
 
 
念爆者と超能力者たちの心の闘いをダイナミックに描く
「エスパーお蘭」
 
狼、それはこの世で、
もっとも高貴で、慈悲深く、気高い魂のもちぬし、
悪質で凶暴化した性悪な野犬とはちがうのだ!
 
人狼・犬神明が悪と非道に雄叫びあげて闘う
ウルフガイ・シリーズのプロトタイプ 「悪徳学園」 他、
五篇を収録。
 
           <1986ハヤカワ文庫解説目録>
 
 
『悪徳学園』
 
犬神明、初登場。
ん?
ちょっとした違和感は開始すぐに訪れました。
 
 
悪徳学園に新任の女教師がやってきた。
悪徳学園というのは、
おれの通学している東京の私立学校だ。
 
 
……学園が舞台だから少年のはずなんだけど、
なぜか一人称で物語が進んで行く……。
”おれ” ってのは、
<アダルト・ウルフガイ>の専売特許みたいなもんなんだけど。
 
 
 
作中の主人公、狼人間の犬神明は、
SF文庫版のウルフガイ・シリーズの少年犬神明、
別巻シリーズのアダルト犬神明とも異なる存在です。
 
性格的にはアダルト・ウルフガイに近似値を持つものの、
べつにあの脳天気をもって有名な
ルポライターの犬神明の少年時代という訳ではありません。
 
はじめは、この 「悪徳学園」 を皮切りとして
連作シリーズに発展させる下心があったのですけれども、
”狼の紋章” の下敷きに使用したため、
これは解消とあいなりました。
 
ウルフガイ・シリーズのの原型(プロトタイプ)というわけです。
 
               <平井和正:あとがきより>
 
あいかわらず、懇切丁寧なあとがき。
 
……ってことで、『狼の紋章』 を、どうぞ。
 
 
 
『星新一の内的宇宙(インナー・スペース)』
作者の平井和正、他、
星新一、小松左京、豊田有恒、筒井康隆、矢野徹、
伊東典夫、大伴昌司、SFマガジン編集長の森優……<敬称略>。
そうそうたる実在のSF作家が登場するこの短編。
 
話としては、
この世の中は、
”星新一さんが作った妄想” 
ではないのか、って話。
 
ゆえに、他のSF作家は、
星さんに妄想を続けてもらおうと必死になる。
なぜなら星さんが妄想をやめた時……。
 
ダンセイニの 『ペガーナの神々』 に
似たような話があったっけ。
 
この世の全ては、とある神の見ている夢にすぎず、
その神が目覚めた瞬間、この世界は消えてしまう、
っていうはなし。
 
 
『エスパーお蘭』
この響き、正調・平井和正節のひとつ。
 
『アンドロイドお雪』 (長編)
『サイボーグお鷹』 (短編)
 
と並ぶ、三大 ”人外女性”。
 
それはそれとして。
 
この作品のメイン・ディッシュ、
『念爆者(サイコ・ブラスター)』 の威力とは、
 
 
駆けてくる警官のひとりが、鋭い閃光につつまれた。
たちまち炎は無数の枝をひろげた。
<中略>
一瞬にして、警察の一団が火炎に包みこまれてしまう。
 
それは警官隊のみに収まらず、
 
数千人の群衆はそれぞれが火薬だった。
 
どっとひしめいて一時に出口に殺到する。
火炎が追いすがって、数百人をひとまとめに炎に変えた。
 
ぐわっと爆発的な勢いで成長を遂げる。
<中略>
念爆者(サイコ・ブラスター)は生きた科学兵器だ。
これ以上恐るべき生物はいない。
<中略>
数千人の人間をあっけなく灼き殺しておいて、
なんの証拠も残さず消えてしまう。
 
その前には何十万もすでに殺している。
超能力で原子力を自由に操る怪物。
まさに魔神だ。
                        <本編より>
 
この殺戮の規模、
『SPEC』 の世界観に近いですね。
これ、堤幸彦監督も読んでるのかなあ……。
 
ただ、
”念爆” ――”ねんばく” 
って響きからすると、
頭が爆発する、映画 『スキャナーズ』 のイメージの方が合う、
って気がするんだけど。
 
 
 
 
 
 
 
 

947「女学者・気で病む男」

モリエール
中編   内藤濯:訳  新潮文庫
目次
 
1.女学者
2.気で病む男
 
 
『女学者』 は17世紀フランス古典劇の
代表的作家モリエール後期の傑作。
上流サロンにおける教養を鼻にかけ、
とりすました女たちの姿を槍玉にあげ、
縦横に諷刺したこの作品が上演されると、
社交界の男女は色を失ったという。
 
『気で病む男』 は巨匠最後の作品で、
憂鬱症にとらわれた男の独り合点が引起す喜劇のうちに
医学と医者を諷刺しており、
巨匠一流の壮健な笑いの総決算ともいえる。
 
                        <ウラスジ>
 
 
モリエールについての基本情報はこちらから。
 

 

 

 

<いきなり余談>

モリエールの作品というと、

新潮文庫と岩波文庫の二つから出ていましたが、

それが絶妙に表題が違っていて、

同じ作品を二度買いしてしまったことは前回述べた通りです。

(『人間ぎらい』 と 『孤客』)。

 

本作品は比較的判りやすい差異に留まっているので、

間違いはしませんでしたが……。

 

でもこれは、『気で病む男』 よりも、

岩波文庫版の 『病は気から』 の方がいい表題だと思うんですが。