涼風文庫堂の「文庫おでっせい」311 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<田中光二、

高斎正、

山野浩一>

 

942「幻覚の地平線」

田中光二
中編   伊東典夫:解説  早川文庫
目次
 
1.幻覚の地平線
2.閉ざされた水平線
 
 
”幻覚境” 
と呼ばれるヒッピーたちの楽園から
忽然と消え失せた人々。
 
その謎を調査するべく、
ロスはLSDの妖しい幻覚が支配する世界へと
足を踏み入れていく……
 
管理社会に反抗する人々を描く表題作他、
 
抹殺しあうことを宿命とされた人工受精児の話
「閉ざされた水平線」等、
俊英が描く二大中篇。
           
           <1986:ハヤカワ文庫解説目録
 
 
70年代から登場し始めた、
”SF作家第二世代” 
の先陣を切るのは、この人。
 
後になって知った、
あの 『オリンポスの果実』 の作者、
田中英光の息子さん。
 
そう、太宰の墓の前で自決した――。
 
それはともかく、このお話。
 
アメリカ全体がヒッピーの解放区、
「幻覚共和国」(サイケデリア)
となった時代。
ロス・グリーンフィールドは密輸の罪で挙げられ、
釈放の条件として「サイケデリア」に潜入することになる――。
 
ここから露わになる、超能力者やドラッグの存在。
そう、ディックの世界観と相似している。
 
サイケデリアの長たちは、
”トリップ” 
するのですが、
それが超能力によるものなのか、
幻覚キノコによる暗示によるものなのか。
 
で、ロスの報告以外にも、
いろいろな諜報作戦が並行していて、
最終的にはこのサイケデリアに
核が打ち込まれることになる――。
 
だがそこに残されたものは……。
 
旧世界と新世界の闘争は、
殺戮を伴わざるを得ないってことでしょうか。
 
ミュータント狩りなんかを大規模に扱うと、
こうならざるをえない。
『スラン』 とか 『さなぎ』 とか。
 
 
 
 

943「ムーン・バギー」

高斎正
短編集   豊田有恒:解説  早川文庫
目次
 
1.スポーツカー
2.三菱の亡霊
3.謎の山岳コース
4.五郎のサスペンション
5.メルセデスがレースに復帰するとき
6.巨星おちる日
7.ニュルブルクリンクに陽は落ちて
8.ムーン・バギー
9.自動操縦車時代
10.ル・マン一九五五
11.死のレース
12.馬は目ざめる
13.オリムポスの神々
 
 
未到の月面最長走行距離記録に
文字どおり生命を賭けて挑戦する孤独な男の姿を描く
タイトル・ストーリイ 「ムーン・バギー」 ほか、
「スポーツカー」 「オリムポスの神々」 など、
こよなく自動車を愛する著者が
余命いくばくもない二十世紀のシンボルである自動車に対して
二一世紀からの郷愁をつづって送る短篇十三篇。
 
           <1986:ハヤカワ文庫解説目録>
 
 
私の虎の巻、
【世界のSF文学・総解説】 には、
この短編集の中から、
『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』
がピックアップしてありました。
 
短いあらすじなので、例によって丸写しします。
 
夕暮れのドイツ、
ニュルブルクリンク・サーキットで、
憑かれたように銀色のメルセデスベンツW一九七を駆って
サーキットレコードに挑戦する主人公ハインツ。
ピットには彼を見守る恋人クララの姿もあった。
 
だが、本来なら、彼とスピードを競い、
勝利の栄光を奪い合うはずの
世界の強豪マシンの姿はどこにもない。
 
なぜなら、地上に生き残っているのは、
彼とクララの二人だけなのだから。
 
宣戦布告も告げず世界中を襲った細菌戦争によって、
人々は死に絶えたのだ。
 
そのため完成したばかりのW一九七は、
世界の一流マシンに一歩も劣らぬその秘めた性能を
一度も発揮することなく朽ち果てようとしていた。
 
ハインツはそれが耐えられなかった。
 
せめて由緒あるこのサーキットで
レコードを更新させてやりたかった。
 
      <安田均:『世界のSF文学・総解説』より>
 
 
”マンマシン” 
(人と機械の有機的で幸福な結婚)
のカリスマ、高斎正さんの短編の代表作。
 
で、この作品集にも収められている、
『○○が××に△△する時』
のシリーズが続きます。
 
◯ホンダがレースに復帰する時
◯ロータリーがインディーに吼える時 
◯ニッサンがルマンを制覇する時
◯ランサーがモンテを目指す時
◯トヨタが北米を席捲する時
◯レオーネが荒野を駆ける時
etc.
 
<余談 1>
インディー500,ル・マン、モンテカルロ――。
 
こうして見ると、
モンテカルロ、すなわち、
『モナコ・グランプリ』 なんだよなあ。
 
私の衝撃度と興奮がMAXになったあのグランプリ。
セナが<モナコ・マイスター>の名を
不動にした1992のレース。
 
アイルトン・セナとナイジェル・マンセルの
壮絶な一騎打ちがいまだに蘇ります。
 
スピードに劣るセナのマクラーレンが、
ウィリアムズのマンセルのピットインの隙をついて
トップに出たんですが――。
 
そこから先がまあ、歴史に残る凄い戦いで、
誰もがセナを応援したくなるような展開が続き――。
 
ああ、オンタイムで中継を見ることが出来て、
ほんとに幸せでした。
 
(多分)三宅アナの、
「ここはモナコ、絶対に抜けない!」
の絶叫に近い実況が今でも蘇ります。
 
 
<余談 2>
高斎正さんの作品に戻ると、
私個人としては、
アメリカのインディに、”日・独・伊” が揃ってしまうという、
『ロータリーがインディーに咆える時』
が一番興味深かったなあ……。
実際、佐藤琢磨選手が優勝しちゃったし。
 
でもこの辺になると、もはやSFではないような……。
 
 
<余談 3>
F-1ついでに。
メルセデスというとベンツ以外に、
”マクラーレン・メルセデス”
という名称がすぐに出てきます。
 
ホンダのあとフォード、プジョーと来てのメルセデス。
世代ですね。
 
セナはすでに故人となっていて、
ハッキネンの時代かな。
 
しかし往年の勢いは感じられず、
フェラーリのシューマッハ、ウィリアムズのヒル、
の後塵を拝していたような気がする……。
 
 
それにしても、F-1、
全然見なくなっちゃったなあ……。
 
 
 
 
 
 

944「X電車で行こう」

山野浩一
短編集   諏訪優:解説  早川文庫
目次
 
1.闇に星々
2.雪の降る時間
3.消えた街
4.赤い貨物列車
5.恐竜
6.列車
7.X電車で行こう
 
 
”口に出さなくても考えただけで” 
相手のすべてがわかってしまう超能力者ピート 「闇の星々」、
 
国鉄の待避線にドイツ連邦鉄道の特急 
”ラインゴルト” が停車する 「赤い貨物列車」、
 
驚くべき想像力と鉄道に関する
マニアカルな愛着をえがく傑作 「X電車で行こう」
 
ほか四篇を収録。
山野浩一の処女短篇集!
                  
           <1986:ハヤカワ文庫解説目録>
 
 
車の次は電車(列車)と来たもんだ。
 
田中光二、高斎正、とSF第二世代が続いた後に、
山野浩一も――
と、行きたいところですが、
この作品集は70年代ではなく、65年に上梓されたものです。
 
筒井さんの 『東海道戦争』 出版と同年。
だから世代的には第一世代にはいっていても
おかしくないのですが……。
 
山野浩一は昭和一四年生まれ。
処女作以来一貫して、
内的世界の幻想性を探求している。
同時に日本におけるニュー・ウェーブ運動の主唱者として、
精力的な創作・評論活動を続けている。
 
     <新戸正明:『世界のSF文学・総解説』より>
 
 
『X電車で行こう』
この表題が、
デューク・エリントンの 『A列車で行こう』
のモジりであることは言うまでもありません。
 
さて物語は、
”鉄道好き” の主人公が新聞の片隅に掲載された、
小さな記事を見つけるところから始まります。
 
 
幽霊列車?
東武鉄道野田線に出現
 
俺は何よりも 『幽霊列車』 というフレーズが気に入った。
 
しかし、日本中にこれだけ鉄道があって、
これだけ列車が走っていれば、
一列車ぐらいダイヤ通りに走らないものがあっていいはずだ。
 
『幽霊列車』 というものが存在すれば、
それは俺が考えていたあらゆる空想を超えた
鉄道の世界を実現するものだ。
                        <本編から>
 
 
やがて 『幽霊列車』 は 『X電車』 と名を改められ、
大々的に報じられることになっていきます。
 
X電車は鉄道を選ばず、
日本中のレールの上を走ることになる――。
 
X電車に魅入られた主人公は、
仕事がおろそかになって会社をクビになり、
X電車が現われるであろう場所を探す、
”X電車出現の予想屋”、
といわれるようになってきます。
 
その彼が立てた予想のなかには、
私の馴染み深い鉄道も含まれていました。
曰く、
 
天王寺ー梅田 (地下鉄一号線)
折尾ー博多 (鹿児島本線)
福岡ー大牟田 (西鉄本線)
 
ここにもX電車は通ったのでしょうか?
 
<余談 その1>
いまだに間違える、
デューク・エリントンの 『A列車で行こう』
と、
グレン・ミラーの 『イン・ザ・ムード』。
 
ジャズ愛好家からしたら、
「アホちゃうか」
と言われそうだけど。
 
<余談 その2>
『幽霊列車』
って言うと、
世代的に赤川次郎さんの名が勝手に浮かんできます。
 
土曜ワイド劇場で映像化されたことも
記憶の劣化に歯止めをかけているようです。
 
田中邦衛さんと浅茅陽子さんのコンビ。
最後、浅茅さんが、パッと裸になって――。
 
こんなシーンが記憶を塗り固めるんでしょうね。
 
<余談 その3>
戦後すぐにおきた ”国鉄三大ミステリー” のうち、
<三鷹事件>が重なるかな。
”無人列車の暴走” っていうやつ。
 
<余談 その4>
ついでに
<ゲゲゲの鬼太郎>に、
『まぼろしの汽車』 ってのもあった。
時間を逆走する、親の(子に対する)愛情が走らせる汽車。
目玉の親父さんが、吸血鬼と化した鬼太郎を救う。
 
<余談 その5>
中山千夏さんに
『とまらない汽車』 ってのがあった。
 
人生幸朗師匠のネタに、
”止まらない汽車に、どっから乗るんじゃい!”
っていうボヤキがあったっけ。