涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  291. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<豊田穣、

菊村到、

三木卓>

 

883.「長良川」 直木賞受賞

豊田穣
連作短編集   小木曾新:解説  文春文庫
目次
 
1.白い訪問者
2.養老
3.灯台
4.長良川
5.伊吹山
6.石塔
 
 
幼い男の子二人を残し、
妻は自分の病名を知ることなく
ガンで逝った。
 
故郷にあずけた子らを想いながら
新聞記者生活をつづける主人公。
 
索漠とした日常に起こる再縁の話。
 
だがその彼を捉えてはなさないのは、
苛酷な空中戦の後に余儀なくされた
捕虜生活での苦い記憶であった。
 
――直木賞受賞の連作長篇ロマン。
                               <ウラスジ>
 
戦争中の話と戦後の話が交互に出てくるような、
いわゆる二重構造の仕掛けが施されているのですが、
その比率が徐々に変わっていくところが、
ごく自然に描かれています。
 
たとえば、最初の 『白い訪問者』 では
ガンとの闘いに苦しむ妻や
それを見守る子供たちの話に終始しています。
 
そして、次の 『養老』 では、
亡くなった妻に代わる後添いの話に移行していきますが、
その相手が軍隊時代の同期生の未亡人、となってくる。
 
三作目の 『灯台』 では、
主人公が子供たちを連れて列車にのるシーンから、
 
”私の脳裡に一つの記憶が甦った。”
 
として、主人公の思いは戦争中の話へと一挙に飛び立ちます。
 
そこからもう一度戦後に帰ってきたあと、
今度は捕虜収容所の光景、
そしてまた戦後、と展開していきます。
(目まぐるしくはありません)
 
で、表題作の 『長良川』 になると、
今度は戦時中の前の、
自分のルーツにまで話をさかのぼらせています。
 
 
多重構造へのいざない――。
 
恐ろしく判りやすい ”マジック・リアリズム”。
 
時代が跳ぶたびに、いちいち注釈が必要な
フォークナーの 『響きと怒り』 とは対局にあるような作品。
 
この判りやすさ、これぞ直木賞受賞作。
 
<自省>
しかし、何かと言えばすぐ 
”マジック・リアリアリズム”
という言葉を使いたがるのは、
我ながら考えものですね。
 
ちょっと前に中南米文学を集中して読んだので、
その<解説>の名残りかも。
 
過去と現在が交差する構成って、
昔からよく使われている小説作法ですものね。
 
ただし、『響きと怒り』 はブッ飛んだ。
 
 
<追記>
でもこの中の 『伊吹山』 って作品、
なんかフォークナーとおぼしき作品と被って来ちゃうんだよな……。
 
 
<余談 その一>
たまたまなのか、意識してなのか、
こっから ”戦争時代モノ” が続きます。
 
<余談 その二>
前述した通り、
芥川賞・直木賞の受賞作が続きます。
 
ゆえに、以前お話した、
”いちにんいっさつ (一人一冊)” 
の作家・文庫も数を増してくると思います。
 
残念ながら、
豊田穣さんも ”いちにんいっさつ” に入ってしまいました。
 
 
 
 
 

884.「硫黄島・あゝ江田島」 

芥川賞受賞作 『硫黄島』

菊村到
短編集   日沼倫太郎:解説  新潮文庫
収録作品
 
1.硫黄島  (芥川賞受賞作)
2.あゝ江田島
3.しかばね衛兵
4.奴隷たち
5.きれいな手
6.ある戦いの手記
 
 
ひそかに洞窟に生き残り、
戦後数年を経て硫黄島から帰還した
海軍上等兵 片桐は、
なぜ単身硫黄島に渡ったのか?
自殺に至る彼の異常な行動を、
新聞記者である ”私” の目を通して描く
芥川賞受賞作 『硫黄島』、
 
失われた青春への懐旧の思いが、
戦争末期の海軍兵学校における
青春群像への尽きせぬ
愛惜と共に語られる 『あゝ江田島』 など、
 
戦争の傷痕をえぐる作品6編を収める。
                                 <ウラスジ>
 
お兄さんは、
<小説・吉田学校>シリーズで有名な戸川猪佐武氏。
ついでに言っとくと、義兄は福田恆存氏。
 
一時期、
映画 『硫黄島からの手紙』 で、
またも注目された、”硫黄島” の名称。
南方ではなく、小笠原諸島を構成する日本の島。
 
私たちの子供の頃は、
沖縄と同じくアメリカのものだったので、
何かしらの感慨はある諸島名です。
 
なんか、場所や期間は違いますが、
戦後しばらくして帰還した元・日本兵と言うと、
横井正一さんや小野田寛郎さんを思い出します。
 
今思えば、
彼らお二人にも、”自殺する” という恐れがあったのかも知れません。
 
相当なケアが為されていたとしてもおかしくはないでしょう。
 
<追記>
『硫黄島』 『あゝ江田島』
ともに映画化されています。
私は観ておりません。
 
<余談>
この作品集は戦争を主題にしたものが集められています。
が、
解説で日沼倫太郎さんが指摘されておられるように、
菊村到氏は、<ストーリイ・テラー>と言われております。
ゆえに、
のちのミステリー作家としての礎は、
戦記物・純文学時代から備わっていたもの、
ということなんでしょう。
 
なんか、乱歩に薦められて、ミステリーを書きはじめたとか。
 
ここでも乱歩が絡んでる……。
 
 
 
 
 

885.「砲撃のあとで」 

芥川賞受賞作 『鶸』 所収

三木卓
短編集   中野孝次:解説  集英社文庫
収録作品 (目次)
 
1.朝
2.夜
3.帰館者
4.鶸  (芥川賞受賞作)
5.終局
6.砲撃のあとで
7.人
8.腕
9.曠野
10.竪笛
11.残留
12.流れのほとり
13.朝
 
 
「少年は疾走していた。
 木々の葉の間を縫って光は斜めに射し、
 放射する幕のなかで狂ったような霧が踊っていた」
 
敗戦で秩序の破壊された大陸で、
無法と死に追われる少年の目に、
飢と疫病に晒された世界が焼きつく。
 
芥川賞受賞作「鶸」をはじめ
「砲撃のあとで」「曠野」「竪笛」「流れのほとり」など、
戦争の生々しい傷あとを描く連鎖状作品を集める。
                                 <ウラスジ>
 
 
 
これは、まあ一言でいえば引揚者の小説である。
                           <中野孝次:解説より>
 
1973年だから、大阪にいた頃――
だとすれば取っていたのは朝日新聞――。
 
その一面の下の三分の一が、
芥川賞受賞作 『鶸』 の宣伝に使われていました。
 
主人公の少年の不機嫌で巨大な顔がでん、と描かれ、
無気味でインパクトのあるイラストとともに、
本の題名( 『砲撃のあとで』 )と、
作者の名前( 『三木卓』 )が並んでいたと思います。
 
文章も添えてあったと思います。
 
原文通りだったかどうかまでは憶えていませんが――。
 
 
堰を切ったように灼けた感情がやって来た。
少年はまぶたを震わせながら両足をつっぱり、
全身の力をこめて鶸を握り潰した。
                                  <原文>
 
 
”なぜそうしたのか?”
とかいうベタな問いかけもつけてあったような気がします。
 
 
<余談>
本来なら三木卓さんも、
”いちにんいっさつ” の
有力候補だったんですが、
なんの巡りあわせか、
計三冊も読むことになってしまいました。
 
しかも、
一番メジャーで映画にもなった作品、
『震える舌』
を除いてという始末。
 
<余談の余談>
 
……にしても若い頃の髪型はインパクトがあったなあ……。