涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  276. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<ディッシュ、

ザミャーチン、

ファーマー>

 
 

838.「人類皆殺し」

トーマス・マイクル・ディッシュ
長編   深町真理子:訳  早川文庫
 
 
町、農場、砂漠、ジャングル……
あますところなく地球は一面、緑のカーペットにおおわれた。
 
宇宙からの目に見えぬ播種者がまいた無数の微細な胞子は、
いま高さ六百フィートの大木に成長しつつあったのだ。
 
名づけようもない≪植物≫は草木を絶滅においやり、
人類から土地を剥奪し、ついには人の命を脅かし、
加速的に繁殖する!
 
世界は崩壊して、文明は滅び去った……。
 
広大無辺な宇宙に
人類の卑小さを冷徹な目で見つめるディッシュが、
従来の妥協的なパターンをまったく捨て去り、
一片の救いも光明も残さぬ
かつてない破滅テーマSFへ、迫真の筆をふるった野心長篇!
                                <ウラスジ>
 
 
しかし、いくら<破滅テーマSF>とは言え、
この、”ド直球” すぎる題名は、いかがなもんでしょう。
 
原題も、<THE GENOCIDES>、”大虐殺” で、
ほぼ意味は同じ。
 
ジェノサイドって言葉は映画 『昆虫大戦争』 で初めて聞いたような。
あと、最近(?)だと、高野和明さんの小説で、かな。
 
 
つい最近、NHKの『歴史秘話ヒストリア』で、
<仮面ライダー>を取り上げていました。
その中で、”平成仮面ライダー” 『鎧武』の敵は、
”ヘルヘイムの森” だとの紹介がありました。
 
仮面ライダーと言えば、本郷猛と一文字隼人の
”昭和仮面ライダー” しか知らない私にとって、
敵のあり方といい、全体のコンセプトといい、
目新しい情報ばかりでした。
 
敵はショッカーやデストロンといった完全なる悪の組織ではなく、
人間の闇や欲望を実体化させたような、
組織と言って良いのかどうか判らないもので、
ウエットな部分を多分に含んでいるらしい、とか。
 
で、この 『仮面ライダー鎧武』 では、
人類を ”侵食” する、
”ヘルヘイムの森” が敵である、と。
 
このネーミング、
知ってる人は知ってる、
北欧神話から名を借りたものであることは
疑いようもありません。
 
ロキの娘、ヘルが治める死者の国。
そして、英語の ”地獄” <HELL>の語源。
それが ”ヘルヘイム”。
 
北欧神話に興味のある方はこちらをどうぞ。
 
 
 
新潮社の書籍です。
あいにく、文庫化はされていません。
 
 
<閑話休題>
植物によって人類が滅亡する、という物語。
 
歩く人喰い植物を描いた 『トリフィド時代』。
植物に押し込められ、
小さく生き長らえる人類を描いた 『地球の長い午後』。
 
 
あと、第二期TV版 『ゲゲゲの鬼太郎』 に出て来た
『原始さん』 通称・エコロジーさんは、
人類を破滅させはしないが、活力を削いでいくとことで、
政治家や役人に攻撃される。
 
怪獣だと、
マンモスフラワー(ジュラン)、スフラン、グリーンモンス、ケロニア、
(ウルトラQとウルトラマンばかりだな)
あと、
『夜の声』 のマタンゴ。
キノコだから、多分、胞子植物なんだろうな。
 
グリーン・レクイエム、緑の想い、リトル・ショップ・オブ・ホラーズ……。
 
植物は夜になると二酸化炭素を排出するって、
結構、歳がいってから耳にしたっけ。
 
もとい。
本編へ戻ります。
で、
一度は、新しい力でなんとか助かりはするものの、
最後は題名に違わず、誰一人助からない事を暗示して、
この作品は幕を閉じます。
 
ほんと、かつてのアメリカのSF映画のような、
能天気で楽観的な予測は入り込む余地がありません。
 
 
あ~あ。
 
ある意味、
次の ”デストピア小説” に繋がるところもありますね。
 
<余談>
ディッシュの作品はこのあと、
『虚像のエコー』
『プリズナー』
と読んだあと、しばらく目に触れることはありませんでしたが、
2000年に入って、
『いさましいちびのトースター』
というSFメルヘン(?)が早川文庫から上梓されました。
 
まだ早川文庫に、”籍” は残っていたんだな……。
 
<ついでに……>
今度、
『DUNE 砂の惑星』
の映画がやってくるけど、
これの原作はさすがに残ってるか、
第一部の四巻ぐらいは。
 
<もひとつ、ついでに……>
『DUNE』 については言いたいことが色々あるんですが、
前回のデヴィッド・リンチ版の時と同じく、
これだけは言えると思っています。
 
映画的に、シリーズ化はありえない。
 
 
 
 
 
 

839.「 わ れ ら 」

エヴゲーニー・ザミャーチン
長編   川端香男里:訳  講談社文庫
 
 
打ち続く二百年戦争のあと、
理性が気まぐれな自由に打ちかち、
幸福な単一国が成立する。
 
それから千年後、
この国の科学技術者、数学者であるD-503号は、
一人の女性への愛にひかれて、
この国の反乱計画と関係を持つことになる……。
 
個人の自由を奪い計画化を推進する国家の前途を警告。
ソ連でも未刊行のSF小説。
                               <ウラスジ>
 
ザミャーチン(一八八四―一九三七)の代表作で,
一九二○年代初期の作。
 
ロシアの政治体制がこのまま進行し,
西欧のテクノロジーが
これに加わったらどうなるかという
未来図絵を描いてみせた、
アンチ・ユートピア小説である。
 
最も悪質な反ソ宣伝の書とされ,
長く文学史から抹殺されてきたが,
一九八八年に初めて本国でも公刊された。
                        <岩波文庫版のウラスジ>
 
『一九八四年』
『すばらしい新世界』
『われら』
 
これぞ<デストピア小説>の御三家。
 
今を去る一〇〇〇年前、
二〇〇年戦争に勝利した都市国家の<単一国>は、
混沌たる自然界と野蛮で無秩序な人間社会とに訣別し、
<緑の壁>にかこまれた数学的な完璧さに近づきつつある
理想国家を築いていた。
そこは、
私すなわち ”われら” である
全体主義社会であった。
                     <世界のSF文学総解説より>
 
 
”魂” という名の病気。
 
で、で、
<デストピア小説>であるがゆえの、
デッドエンドで終わります。
 
主人公のD-503号は捕えられたのち、
外科手術を受け、仲間だった反逆者たちを当局に売り渡します。
そのなかには、彼が愛した I-330号もいました。
 
彼は処刑室で拷問にかけられる彼女を見ながら、
こんなことを考えています。
 
”私は、われらが勝利することを確信している。
 なぜなら理性が勝利するはずだからである。”
 
このラストシーン、不気味です。
 
 
 
 
 

840.「 恋 人 た ち 」

フィリップ・ホセ・ファーマー
長編   伊藤典夫:訳  早川文庫
 
 
大きな茶色の瞳、
口紅を塗ったように赤くふくよかな唇、
そして低く魅力的な声……
 
地球から40光年余りも離れた
惑星オザゲンの調査におもむいたハル・ヤロウは、
そこで地球人そっくりの美しい娘ジャネットと恋におちた。
 
だが、前回の調査ではこの惑星にはバッタから進化した
昆虫生物ウォグしかいないはずだった……
 
彼女はいったい何者なのか?
すでに絶滅したはずのヒューマノイド型生物の生き残り?
それとも……?
 
厳格で禁欲的な社会に育った一青年と美しい異星人との恋を通し、
それまでタブーとされていた ”性” をテーマにとりあげ、
一大旋風を引き起した傑作。
                              <ウラスジ>
 
異類婚姻(恋愛)譚(?)の極み。
 
獣、鳥、魚、はありますが、”虫” となると……。
 
植物に近いのか。
寄生虫だとどうなる。
 
雌になることに特化した、
ヒューマノイド型インセクト(昆虫)。
 
もし相手がカマキリの遺伝子を持っていたら……
みたいなことを考えてはいけません。
 
とにかく、この手の話は、
”知らぬが花”
ということが大前提となります。
 
すべからくは、『夕鶴』 の、”おつう” のように。
 
 
 
 
 
 
これで840冊。