<筒井康隆、
丸山健二>
778.「狂気の沙汰も金次第」
筒井康隆
短編集 堀晃:解説 新潮文庫
収録作品
随筆/パチンコ/討論/電話/煙草/蒸発/カボチャ/保険/童話/
エノケン/受胎/大便/嫁姑/牧場/ヒロイン/検便/芝居/情痴/妊娠/
敬称/睾丸/捕物/パロディ/誤解/講演/躁病/痰壺/エプロン/連載/
手紙/エリート/家族/油絵/会話/狂気/コメント/浴場/自慢/批評/
着想/伝染/落語/調査/パーティ/浣腸/絶食/銀座/証拠/タクシー/
信用/偏見/スピーチ/家路/睡眠/国鉄/触覚/勅語/ドタバタ/子供/
匿名/水泳/金魚/雑草/悪食/喧嘩/カースト/土地/免許/願望/禁忌/
レジャー/選考/卒論/ボサノバ/寿司/香奠/蛆虫/ドライブ/見合/葬式/
悪口/万引/時間/恐怖/死刑/スランプ/水虫/世代/食料/人口/
フロイト/情報/食事/キャスト/化粧/乱交/麻雀/参観/ボーナス/漫画/
猥歌/職人/愛車/事故/射撃/金欲/ホステス/変身/ゴキブリ/奇病/
流言/整形/夫婦/転生/地球/バイブル/人間/終末
確固とした日常に支えられた
この地平を超えて遥か向うを眺めれば、
果しなく自由で華麗なる
狂気の世界が拡がる――
著者は、
あたかもささやかな身辺雑記を綴るかのごとく筆を進めながら、
実はあなたを
アイロニカルな現代批評と潜在的狂気の発掘へと
導いてくれるのです。
随筆のパロディとも言えるユニークなエッセイ118編は、
山藤章二の傑作イラストとコンビを組んでいます。
<ウラスジ>
『枕草子』の時代から、
随筆というものは短いものと相場が決まっています。
それにしても、118編ものエッセイを一纏めにするなんて。
またそれぞれの題名を全部書き写すなんて。
ああ、しんど。
エッセイストを名乗る人々の、
二倍以上はある本の分厚さ。
おまけに、ひょっとしたらエッセイにかこつけた
新作ショートショートかもしれない、なんて疑わせる
前科持ち(?)の著者ゆえに油断出来ない。
それで、<目次>を窺うと、
『調査』、『見合』、『参観』、
の三つにダッシュが付いている。
読み返してみても、
どうして<しるし>を付けたのか判らないぐらいの、
ドメスティックなお話。
あらためて読んで、
”ああ。筒井さんてお見合い結婚だったんだ”
などと思う始末。
いずれにせよ、
ちょっと前にやった『やつあたり文化論』に先立つ、
第一エッセイ集。
筒井康隆氏の<喧嘩屋稼業>はここから始まります。
……って、完全なデマゴーグじゃん。
そして――。
怒濤の<筒井康隆フェア>、
とりあえず一段落。
779.「穴 と 海」
丸山健二
短編集 利沢行夫:解説 角川文庫
収録作品
1.穴と海
2.誰もいない町
3.雁風呂
4.有望な日々
5.日曜日は休息を
6.十年後の一夜
海辺の村から静かな森を抜け、
新しい陽の光にあふれた草原の赤土の山の下に、
少年が自分の手で掘った横穴があった。
そこだけが彼の世界であり、
そこにある時間はすべて彼のものだった……。
幼い少年の無垢で孤独な心象を、
鋭敏な観察力と独自ノスタイルで鮮明に描出した好短篇「穴と海」。
他に「誰もいない町」「日曜日は休息を」等五篇を収録した、
著者二十代の半ばに発表された傑作短篇集。
<ウラスジ>
『穴と海』
自分で掘った穴の中で眠り込んでしまった少年。
起きてみると、外は昼間の様相とはまるで違う、暗黒の世界。
少年は帰るに帰れず、再び穴の中へ戻り、再び眠ってしまう。
そういうお話。
登場するのは、ほぼ少年一人。
その心象風景が自然体で綴られています。
ゆえに会話の妙などあろうはずもないけれど、
細かなことに気付かせてくれる描写があちこちに散在しています。
昼はなかった。
草原にもなかった。
空にも、崖の上にも、どこにも光はなかった。
泣いてみようか、と少年はふと考える。
だが、相手がいないので泣けない。
『穴と海』以外の作品は、
まだ会話を主軸とした作品が揃っています。
どちらかと言えば、そちらの方をメインとして読みました。
わたしが好きだった丸山健二の作品、
その骨格をなす会話主軸の文体は、
パラパラめくればすぐに解ります。
それは次の『明日への楽園』まで、続きますが……。
780.「明日への楽園」
丸山健二
短編集 利沢行夫:解説 角川文庫
収録作品
1.狭き魂の部屋
2.明日への楽園
3.谷底
見も知らぬ異国への旅に船出した乗客たち――
目的地で待つ夫との再会に想いを馳せながら、
青年と関係を結ぶ女。
新しい土地への夢と綿密な計画を抱いて、
乗船した一途な青年の挫折。
自らの人生哲学をもって二人を見つめる老船医。
――三人を軸に、
出航から到着までの日々に起こった移民船での出来事を描く
表題の中編秀作。
他二篇。
限られた空間の中での人間の意識と行為を、
緊密な構成と濃密なリアリティのある文体で綴る好短編集。
<ウラスジ>
これで見納め、丸山健二。
”会話の妙”、ということで注目される作家の登場は、
芥川賞受賞作 『父が消えた』 の尾辻克彦さんを待たねばなりません。
これは、少しテイストの違う、”会話の妙” ですが、
『なるほどなるほど』
と思ってしまうような会話の描写が
ふんだんに盛り込まれています。
<明日への楽園>
移民船と言うから、
石川達三の 『蒼氓』 みたいなのかと思ったら、
全然違ってた。
客船内における、
少々昔の知識人青年と、よろめく有閑マダムの<戯れの火遊び>。
なんか、俗っぽい言い方だけど、
クルーズ船なんかを舞台にした恋愛モノや不倫モノは、
それこそ枚挙にいとまがありませんから。
今だって、
誰かがそんなシチュエーションの小説を読んでいるかも。
ちょっと事情があって、
次からしばらく文庫以外の書籍が登場します。