涼風文庫堂の「文庫おでっせい」194 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<エリュアール、

スティーヴンソン、

マクリーン>

 

613.「エリュアール詩集」

ポール・エリュアール
佐藤巌:訳   旺文社文庫
 
エリュアールは
ダダイズムやシュールレアリスムの洗礼に浴し、
つねに文学的前衛を歩んだ詩人である。
 
しかし彼が今世紀フランス最大の詩人のひとりであるのは、
スペイン戦争・第二次大戦を契機に書かれ
人間性の尊厳を高らかに歌い上げた抵抗詩や、
晩年まで枯渇することのなかった
みずみずしい感性に溢れる
数々の恋愛詩集によってであった。
                        <ウラスジ>
 
 
ちょっと長いんですが、エリュアールと言えば、コレなんで――。
 
 
          自由
 
 
ぼくの 小学生用の ノートの上に
ぼくの 生徒机や 樹々の上に
砂の上に 雪の上に
ぼくは おまえの名前を書く
 
   読み終えた すべての ページの上に
   白い すべての ページの上に
   石であれ 血であれ 紙であれ 灰であれ
   ぼくは おまえの名前を書く
 
        金色の 画像たちの上に
        戦士たちの 武器の上に
        王たちの 王冠の上に
        ぼくは おまえの名前を書く
 
            ジャングルと 砂漠の上に
            巣の上に 金雀枝(えにしだ)の上に
            ぼくの 幼い頃の こだまの上に
            ぼくは おまえの名前を書く
 
                夜々の 驚異の上に
                日々の 白いパンの上に
                婚約の行われた季節季節の上に
                ぼくは おまえの名前を書く
 
           ぼくの すべての空色の紙片の上に
           かびくさい 太陽である池の上に
           生きている月である湖の上に
           ぼくは おまえの名前を書く
 
        野原の上に 地平線の上に
        鳥の翼の上に
        そして 影の 粉挽き場の上に
        ぼくは おまえの名前を書く
 
夜明けの 一吹き一吹きの風の上に
海の上に 船の上に
気のくるった山の上に
ぼくは おまえの名前を書く
 
    泡立つ雲の上に
    雷雨の汗の上に
    篠つくような また 味気ない 雨の上に
    ぼくは おまえの名前を書く
 
        きらきら光る ものの形の上に
        色とりどりの 鐘の上に
        物理的な 真理の上に
        ぼくは おまえの名前を書く
 
             めざめた 小径 小径の上に
             繰り出された 道路の上に
             溢れ出る 広場 広場の上に
             ぼくは おまえの名前を書く
 
              点るランプの上に
              消えるランプの上に
              ぼくの 寄り集まった家々の上に
              ぼくは おまえの名前を書く
 
         鏡の そして ぼくの部屋の
         ふたつに切られたくだものの上に
         空の貝殻である ぼくの寝台(ベッド)の上に
         ぼくは おまえの名前を書く
 
       食いしん坊で やさしい ぼくの犬の上に
       ぴんと立った かれの耳の上に
       不器用な かれの足の上に
       ぼくは おまえの名前を書く
 
    ぼくの戸口の 踏台の上に
    慣れ親しんだ 品々の上に
    祝福された火の 尽きせぬ流れの上に
    ぼくは おまえの名前を書く
 
許し与えられる肉体の すべての上に
ぼくの 友人たちの ひたいの上に
互いに差しのべられる それぞれの手の上に
ぼくは おまえの名前を書く
 
    驚きの 窓硝子の上に
    注意深い 唇の上に
    沈黙の はるか上に
    ぼくは おまえの名前を書く
 
        破壊された ぼくの避難所の上に
        崩壊した ぼくの燈台の上に
        ぼくの倦怠の壁の上に
        ぼくは おまえの名前を書く
 
            欲望のない 不在の上に
            はだかの孤独の上に
            死の階段の上に
            ぼくは おまえの名前を書く
 
                回復した健康の上に
                消え失せた危険の上に
                思い出のない希望の上に
                ぼくは おまえの名前を書く
 
         そして あるひとつの言葉の力で
         ぼくはまた ぼくの人生をやり直す
         ぼくは生まれたのだ おまえを知るために
         おまえを名付けるために
 
          自由 と
 
 
* BGMはラヴェルの『ボレロ』がよろしいか、と。
* 基本、自分が持っている本を最後に紹介してきましたが、
  この旺文社文庫の『エリュアール詩集』が、
   どうしても出て来ませんでした。
* ですし、訳詩集でもあるので、現代詩文庫のラインナップから
   選択しました。
* もちろん、『自由』 も入っているようなので。
 
 
 
 
 
 
 
614.「ジーキル博士と
ハイド氏」
ロバート・ルイス・
スティーヴンソン
長編   田中西二郎:訳  新潮文庫
 
 
医学、法学の博士号を持つ
高潔な紳士ジーキルの家に、
いつのころからかハイドと名乗る
醜悪な容貌の小男が出入りするようになった。
 
ハイドは殺人事件まで引起す邪悪な性格の持主だったが、
実は彼は薬によって姿を変えたジーキル博士その人だった――。
 
人間の心にひそむ善と悪の闘いを二人の人物に象徴させ、
“二重人格" の代名詞として今なお名高い怪奇小説の傑作。
                        <ウラスジ>
 
ひとこと、言っておきます。
それは、多くの方がお気付きのことでもあろう事です。
 
<ウラスジ>にもある通り、
この作品は、”二重人格” の代名詞として名高い、
とありますが――。
 
実は厳密な意味では、
――特に精神医学の上では――
二重人格を扱ったものではないような
気がします。
 
薬を使って別人格を呼び寄せる――
これって、アル中とかヤク中に近い話ですよね。
 
本物の二重人格・多重人格となると、
『失われた私』 とか 『13人のビリー・ミリガン』 とか
ほとんど制御不能の出現頻度ですから。
 
まあ、それでも ”二重人格” と言えば、
 『ジキルとハイド』 という例えは、揺るぎようがないでしょうが。
 
 
 
 

 

615.「ナヴァロンの要塞」

アリステア・マクリーン

長編   平井イサク:訳  早川文庫

 
エーゲ海にそびえ立つ難攻不落のナチスの要塞ナヴァロン!
 
その巨砲が今までに葬り去った
連合軍の船舶や飛行機は数知れない。
 
そして今、近隣の小島ケロスにとどまる1200名の
連合軍将兵は、全滅の危機に瀕していた。
 
だが、ナヴァロンのある限り、彼らの救出は不可能。
 
遂に、世界的登山家でもあるマロリー大尉ら、
選りすぐりの精鋭5人に特命が下った――
 
ナヴァロンの巨砲を破壊せよ!
 
知力と体力の限りを尽くして、
ドイツ軍に立ち向かう不屈の男達の姿を描き、
本格冒険小説の王者としてのマクリーンの
地位を不動たらしめた記念碑的名作!
                        <ウラスジ>
 
 
1980年代初頭に、日本版 『PLAYBOY』 で内藤陳さんの
『読まずに死ねるか!』 の連載が始まりました。
 
<冒険小説>というジャンルが確立され、
メジャーになっていくきっかけとなった
第一歩でした。
 
それまで、ミステリーの範疇に入れられ、
鬼っ子のような扱いを受けていた<冒険小説>がようやく
表舞台に立ったのです。
 
やがて、
 
<冒険小説>
<海洋冒険小説>
<スパイ小説>
<謀略・情報小説>
 
などに整理整頓され、
比較的判りやすく親しみやすいジャンルとして
受け入れられるようになりました。
       <早川文庫:冒険・スパイ小説ハンドブック参照>
 
陳さんはジャック・ヒギンズがお気に入りのようでしたが、
それ以前の<ベテラン冒険小説作家>にも言及しておられました。
 
そこで出会ったのが、
ハモンド・イネス、
デズモンド・バグリイ、
そしてこの
アリステア・マクリーン
でした。
 
時代が冒険小説を欲していました。
この後、フォーサイスが現われ、ラドラムが現われ、
<冒険小説>という枠を飛び出して、その名を馳せました。
 
映像化も次々になされ、まさにこの世の花――でした。
 
でしたが……。
 
そっから先は<クランシー>の回に続きます。
 
 
 
 
【涼風映画堂の】
読んでからみるか、見てから読むか
 
今回はこの二本。

 

◎「ジキル博士とハイド氏」 
Dr.Jekyll And Mr.Hyde
1941年 (米) MGM
制作:ヴィクター・フレミング
 
監督:ヴィクター・フレミング
脚本:ジョン・リー・マヒン
撮影:ジョゼフ・ルッテンバーグ
音楽:フランツ・ワックスマン
原作:ロバート・ルイス・スティーヴンソン
出演
スペンサー・トレイシー
イングリッド・バーグマン
ラナ・ターナー
ドナルド・クリスプ
イアン・ハンター
 
* 『オズの魔法使い』に続く、
  ヴィクター・フレミング監督作品。
* ルッテンバーグのカメラとなると、
  やっぱりグリア・ガースンだよな。
* 名優スペンサー・トレイシーの主演だから、
   恐怖感やホラー感が薄い。
* そしてよく言われる、
  ”天下のミスキャスト”。
* バーグマンとラナ・ターナーの役柄が逆だろう、という事。
* 極端な例えでいうと、同じ映画の中で、
   マリリン・モンローが女王を演じ、
   グレイス・ケリーが街娼を演じるような感じ。
 
 
 
◎「ナバロンの要塞」 The Guns Of Navarone
1960年 (米) コロンビア
制作:カール・フォアマン
 
監督:J・リー・トンプソン
脚本:カール・フォアマン
撮影:オズワルド・モリス
音楽:ディミトリ・ティオムキン
原作:アリステア・マクリーン
出演
グレゴリー・ペック
デヴィッド・ニヴン
アンソニー・クィン
スタンリー・ベイカー
アンソニークエイル
ジェームズ・ダーレン
イレーネ・パパス
ジア・スカラ
 
* J・リー・トンプソンとグレゴリー・ペック。
* 他に、『恐怖の岬』、『マッケンナの黄金』、
  『0ゼロの決死圏』で組んでる。
* マロリー大尉役のペックはハマり役だった。
* 常に不満気なデヴィッド・ニヴンも、
  寡黙なアンソニー・クィンもいい味を出していた。
* …この辺、印象に(記憶に)間違いがあるかも。
* 脇役のジェームズ・ダーレンは、
  先にTVドラマ『タイムトンネル』の主役として認識していた。
 
 
* 油圧だかピストンだか知らないが、
   とにかくそれが縦方向に動いて何かに接触して――。
 
* どかあ~ん。
* ちゅどう~ん。
 
* このカタルシスや、最高です。