涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  189. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<安部公房、

小松左京、

宮沢賢治>

 
 

598.「他人の顔」

安部公房
長編   大江健三郎:解説  新潮文庫
 
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって
自分の顔を喪失してしまった男……
 
失われた妻の愛をとりもどすために、”他人の顔” をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき……。
 
特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、
”顔” というものに関わって生きている人間という存在の
不安定さ、あいまいさを描く長編。
                                <ウラスジ>
 
安部公房による、
<失踪三部作>
 
『砂の女』
『他人の顔』
『燃えつきた地図』
 
の2作目……らしい。
(後付け知識)
 
『砂の女』についてはこちらをどうぞ。
 

 

 

 

この三部作、全て勅使河原宏監督によって映像化されています。

 

 

 

包帯に覆われたその下にはどんな顔が存在するのか。

犬神助清と青沼静馬ならどちらの役割か。

 

『顔がぐちゃぐちゃにになった旦那さんが、整形して、

まったくの別人になって、奥さんを誘惑すんねん』

 

以前登場してもらった、倉田百三好きの喫茶店のおばちゃんが、

簡潔に言ってのけたのを覚えています。

 

 

 
 
 
 

599.「神への長い道」

小松左京
短編集   小原秀雄:解説  早川文庫
収録作品
 
1.宇宙鉱山
2.飢えた宇宙
3.宇宙に嫁ぐ
4.星殺し
5.再会
6.神への長い道
 
 
<ウラスジ>なし。
そこで ”反則ワザ” を。
 
途方もない浪費と試行錯誤を繰り返している
人類が行きつく先には、何があるのだろうか――? 
 
生きることに倦み、
精神のやすらぎを求めていた一組の男女が、
冷凍睡眠法により永く深い眠りについた。
 
56世紀になって再び眠りからさめた彼らに、
果たして精神のやすらぎは訪れたのか? 
 
どうにもならない精神的な袋小路に追い込まれた
現代人の宇宙空間的な未来史。
 
表題作の他、人類を、地球を、
そして宇宙を丸ごと描いた本格的なSF5編を収録した短編集。
 
生頼範義イラストと小松左京作品の変遷と関係性を
考察した解説付き。
 
……以上、角川文庫版の<ウラスジ>でした。
したがって、最後の二行は当てはまりません。
 
 
では、ざっくりと、この作品集に掲げられた、
<ハードSF>についてのもろもろを。
 
まず、小松さん御自身のあとがきから――。
 
今度の短篇集には、はじめの方に、SFマガジンに発表した、
比較的 ”ハード” な――この程度で ”ハード” などというと、
SF評論家伊藤典夫に、フフンと花で笑われそうな気がしますが――
作品をかためてもらいました。
 
私のような完全文系の輩にとって、
<ハードSF>という観念は、
理系の者以外を寄せ付けない、
物理・化学・地学などの用語や数式に彩られたもの――。
高い城壁に囲まれた巨大なモニュメントでもありました。
 
ただ、悪食の本読みということで、正門からではなく、
裏の御用聞きの木戸からこそこそと入っていきました。
 
そうしましたところ――。
 
”理論上こうなるであろう”、異星人や宇宙生物の造形が、
かつて粗製濫造されたBEM(昆虫の目玉を持った怪物)に、
再び寄ってきているような気がしました。
 
とりわけ、<ハードSF>の代表作、
ハル・クレメントの『重力の使命』がそんな感じでした。
 
その惑星は重力が大きすぎて、住人(?)は平べったい
ムカデみたいな形をしている――。
 
あと、<ハードSF>と銘打たれた作品には、
 『宇宙』 を舞台にしたものが多い、という感想も持ちました。
 
地球を舞台にしたものと言えば、
それこそ小松さんの『日本沈没』でしょうか。
 
世界的物理学者・竹内均さん(ラジオ講座でもお馴染み)とともに
いかに矛盾なく(?)、日本列島を沈めるかに腐心されたようです。
 
そういえば、小松さんの作品の解説には、
科学者の方がよく登場されています。
 
この『神への長い道』の解説も、動物学者の小原秀雄ですし、
前述した竹内均さんも当然、『日本沈没』に際して
コメントを寄せられています。
 
こんなアカデミックな人達の顔出しが、
小松さんや小松さんの作品に、
<ハードSF>の担い手としての
お墨付きを与えているような気がします。
 
宇宙よ……しっかりやれ!
 
『宇宙は神の卵』か!
 
 
これらの言葉と、解説の小原秀雄さん提示するところの
<ラマルクの進化論>との対比が興味深く受け取れます。
 
 
 
 
 

600.「宮沢賢治詩集」

宮沢賢治
草野心平:編集  新潮文庫
 
宮沢賢治が確立した独創性は、
自己の心眼と外界の万象との絶えざる交流と融合とによって、
歩きながら考える、移動しながら歌う、
という詩作の態度にある。
 
この姿勢が、
詩を密室の美学であることから、
野外の光あふれる世界へと解放した。
 
ここに、
『春と修羅』、『文語詩』、『疾中』、『手帳より』 
から代表作を厳選して、
一望のもとに彼の詩作の全生涯を俯瞰できるようにした。
                                <ウラスジ>
 
宮沢賢治と言えば、これ。
 
          (雨ニモマケズ)
 
     雨ニモマケズ
     風ニモマケズ
     雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
     丈夫ナカラダヲモチ
     慾ハナク
     決シテ瞋ラズ
     イツモシヅカニワラッテヰル
     一日ニ玄米四合ト
     味噌ト少シノ野菜ヲタベ
     アラユルコトヲ
     ジブンヲカンジョウニ入レズニ
     ヨクミキキシワカリ
     ソシテワスレズ
     野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
     小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ
     東ニ病気ノコドモアレバ
     行ッテ看病シテヤリ
     西ニツカレタ母アレバ
     行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ
     南ニ死ニサウナ人アレバ
     行ッテコハガラナクテモイイトイヒ
     北ニケンクヮヤソショウガアレバ
     ツマラナイカラヤメロトイヒ
     ヒデリノトキハナミダヲナガシ
     サムサノナツハオロオロアルキ
     ミンナニデクノボートヨバレ
     ホメラレモセズ
     クニモサレズ
     サウイフモノニ
     ワタシハナリタイ
 
 
”しっかりせよ、と抱き起し―”
みたいなフレーズは無かったようですね……。
 
それにしても、ここにきて、『はた』と気付いたことがあります。
 
宮沢賢治の詩って、これしか知らない。
 
幼稚園の時に<キンダーブック>で、
『オッペルと象』を読んで以来、
童話は多数知っているし、
絵が浮かんでくるほど馴染みが深い物もあります。
『銀河鉄道の夜』、『注文の多い料理店』、『風の又三郎』――。
 
で、翻って『詩作』となると……。
”春と修羅” ”永訣の朝” ”無声慟哭” 
詩集の題名も、詩そのものの題名も、聞いたことはあります。
 
しかし、知っているのは、<雨ニモマケズ>だけ。
 
これはいったいどういう作用が働いているのか?
 
結局は童話作家としての宮沢賢治に重きを置くうちに、
詩作の方にも触れていた気になっていたようです。
 
あと、同郷の先輩、石川啄木と重なっているのかも。
啄木は短歌で短いし、たくさんの有名歌を持っていますからね。