涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  123. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<半村良、山本周五郎、

         遠藤周作>

 
 

388.「産霊山秘録」 泉鏡花賞

半村良
長編   尾崎秀樹:解説  早川文庫
 
 
――古へ山山へメグリテ神二仕フル人アリ。タダ日トノミ称フ。
 
――神統拾遺と呼ばれる古文書に記されている ”ヒ” 一族とは?
 
また歴史の脇役として活躍した、光秀、天海、竜馬らを結ぶ
秘められた奇しき糸とは……
 
大胆な仮説であらたな日本史を構築し
第一回泉鏡花文学賞に輝いた著者の代表作。
                     <ハヤカワ文庫解説目録より>
 
 
高校時代でしたか、友達に、
「今、何を読んでるん?」
と訊いたら、
「でんき小説」
と言うので、
「誰の?」
と続けて訊いたら、
「字が違う」
と言って、紹介してくれたのが、角田喜久雄の『髑髏銭』と
半村良さんのこの作品でした。
『石の血脈』と一緒に。
 
伝奇……①不思議なこと、珍しいことを伝え記したもの。「伝奇小説」。
      ②略。
                          <広辞苑 第三版より>
 
その後、角田喜久雄の<伝奇小説三部作>や国枝史郎あたりを
読んで、おおまかな特徴は摑んだと思います。
要するに、何でもありの時代小説という、
かなり乱暴なくくりで収めています。
 
 
時は永禄年間、ここから物語りは始まります。
将軍義輝が殺害され、室町時代が終焉を迎えようとしている頃。
茶人の今井宗久にとある高価な掛け軸を売り渡した人間がいました。
公家の山科言継です。
彼こそは ”ヒ”一族の司(つかさ)でした。
”ヒ”一族は世に太平をもたらすために策動し始めたのです――。
尾張の織田信長を盛り立てて、平和な世を作りだそうと。
 
 
これが序盤です。
御存知のように、信長は天下を取りますが、
その陰に、”ヒ”一族が絡んでいたと。
武田信玄も、”ヒ”一族によって呪殺されたと。
 
こんな感じで、日本正史に表われない、裏の歴史を想像力豊かに
紡ぎ、それを正史に関連づけていく――。
これこそが、『伝奇小説』の醍醐味の一つです。
 
無論、陰や裏のままで完結するものもありますが、
それはそれで面白い。
ある意味、そっちのほうが制約がないので、
ぶっとんでいるものもあります。
 
で、この作品に登場する歴史上の著名人として、
冒頭の今井宗久、織田信長、明智光秀(彼は”ヒ”です)、猿飛佐助、
天海、坂本龍馬(彼も”ヒ”です)などなど。
 
歴史上の人物、
講談などの創作上の人物、
いるにはいたが出自の判らない人物、
有名ではあるが本当にいたのかどうか怪しい人物、
彼らが入り乱れつつ、ちゃんと歴史に符号しながら
話は進んでゆきます。
 
非暴力、平和の象徴を皇室に見出し、それを支えてきたのは、
非、卑、などとさげすまされていた”ヒ”の一族であったという
きわめて異端の歴史観を打ち出して、日本史の影の力学を
鮮かに浮き彫りにした秀作である。
                               <権田萬治>
 
何せSFですから、”ヒ”一族の者たちはESP保持者ばかり。
最後は昭和の時代にも翔んできて、月にまで身を馳せています。
 
この ”ヒ”一族、のちの”嘘部”に繋がるような。
 
それから ”呪殺” って言えば、『帝都物語』のルーズベルトが
浮かんできます。
 
 
 
 
 

389.「五瓣の椿」

山本周五郎
長編   山田宗睦:解説  新潮文庫
 
婿養子の父親は懸命に働き、店の身代を大きくした。
淫蕩な母親は陰で不貞を繰り返した。
 
労咳に侵された父親の最期の日々、
娘の懸命の願いも聞かず母親は若い役者と遊び惚けた。
 
父親が死んだ夜、母親は娘に出生の秘密を明かす。
 
そして、娘は羅刹と化した……。
 
倒叙型のミステリー仕立てで描く法と人倫の境界をとらえた傑作。
                        <新潮社:書誌情報より>
 
父思いの娘が復讐の殺人鬼と化す
異色の周五郎時代長編。
倒叙ミステリーとしても傑作。
 
 
父の遺体があるにも拘らず、若い役者と酔いつぶれている母。
その家に火をつけ、おしのは姿をくらまします。
役者の焼死体が自分と取られるであろうことを見越して。
 
 
おしのは、おりう、おみの、お倫、およねと
名前を変え、母の相手だった五人の男を
次々に殺害していきますが――。
 
 
事件を追求する与力、青木千之助に対する複雑な感情は、
おしのがまだ二十歳前後の若い娘であるが故のことでしょう。
 
 
 
 

390.「白い人・黄色い人」 芥川賞受賞

 
長編  山本健吉:解説  新潮文庫
収録作品
 
1.白い人  (芥川賞受賞作)
2.黄色い人
 
フランス人でありながらナチのゲシュタポの手先となった主人公は、
ある日、旧友が同僚から拷問を受けているのを目にする。
神のため、苦痛に耐える友。
その姿を見て主人公は悪魔的、嗜虐的な行動を取り、
己の醜態に酔いしれる(「白い人」)。
 
神父を官憲に売り「キリスト」を試す若きクリスチャン(「黄色い人」)。
 
人間の悪魔性とは何か。
神は誰を、何を救いたもうのか。
芥川賞受賞。
                          <新潮社:書誌情報より>
 
ユダは誰だ。
人間の心に巣食う「悪」と「赦し」を描いた。
【芥川賞受賞作】
 
 
遠藤周作さんと言えば<狐狸庵先生>。
私たちの世代では、初代ネスカフェ・ゴールドブレンドのCMでも
お馴染みでした。
『違いの分かる男』の第一号。
エッセイのシリーズ名、<狐狸庵閑話>。
これは、”こりゃ、あかんわ” と読みます。
 
 
そうそう、竹中直人さんが ”顔マネ” してたな。
あの頃は、今みたいに<ビッグ>な役者になるなんて、
想像もできなかったな……。
 
てなことで、ギャップの激しい遠藤周作さんの
純文学作品。
 
『沈黙』に連なる、
キリスト教徒を主題にした深くて重い物語です。
 
 
以上。