涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  62.. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<この辺からおかしくなる>

 
 

196.「わがふるさとは黄泉の国」

半村良

短編集   早川文庫

収録作品

 

1.農閑期大作戦

2.庄ノ内民話考

3.誕生

4.わがふるさとは黄泉の国

 

 

マリー・セレスト号を扱った「誕生」以外は民話や神話、出稼ぎ話と、地方色の色濃いものを題材にしたSFというよりファンタジーに近い作品集です。


表題作の「わがふるさとは黄泉の国」がやはり、私の中では印象的でした。

 

”自殺村”出身とされた久子の遺骨を抱いて、啓一は、”自殺村”こと<湯津石村>へ向かいます。

岐阜と長野の県境にあると言うその村には様々な曰くがあるようで――。

 

もともと歴史や民俗学好きが嵩じて、古代の葬制とか原始信仰マニアと化していた啓一は、<湯津石村>に「古事記」に関連する名称の名残りを見つけ、よりその”遺骨運び”に拘っていたのです。

途中、近辺の人たちから情報を集め、いざその村に辿り着いて見ると――。

 

仕入れた情報通り、人っ子ひとりいませんでした。

 

ただ、久子の姉・明子に出会ったことで、この村のことを知り得ます。

 

村人は先祖代々、自ら死に急ぎ、現在死に絶えていました。

 

村は死者の国である黄泉の国と地形的につながっているからだと言います。

 

また啓一の亡父の旧姓がこの村出身であることを示していました。

 

啓一の血筋もまた村人の秘密につながっていたのです。

 

 

読んだ時は幻想的と言うよりも、どこか寂寞感に似たものを感じてしまいました。

死の国、”黄泉”には音が無いような気がしたからです。

 

この小説を通して、死が身近になったどころか、ますます遠のいていくようでもありました。

 

また、この作品には「古事記」の挿話がメインで出て来ますが、あいにく当時の私の知識にあったのは、東映アニメで観たスサノオと八岐大蛇ぐらいのものでした。

 

高校生だったんだから、「古事記」の概要ぐらい知っとかなきゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

197.「華やかな死体」  (乱歩賞)

佐賀潜

長編   春陽文庫

 

【千葉地検の少壮検事・城戸明の前に殺人事件の渦紋がうずまく!】

【日本橋で富士山食品株式会社を経営する実業家・柿本高信が、自宅応接間で、何者かの手によって殺されていた。】

【犯人はだれか?】

【女秘書・片岡綾子をはじめ女出入りの多かった柿本にたいする怨恨か?】

【はたまた莫大な金銭のうごきをめぐっての策謀か?】

【二十歳も年下の美人妻・柿本みゆきはなにを企んでいるのだろうか?】

【重要容疑者として元秘書の人見十郎が勾留されたが……。】

【はたして裁判の結果は?】

【迫真の法廷描写はイキもつかせぬ面白さ!】

【そして意外な結末は?】

【法曹界の豊富な知識を駆使する佐賀潜独壇場のミステリ巨編!】

【江戸川乱歩賞受賞作品!】

 

「HOW  TO」のところで紹介した『刑法入門』の著者、佐賀潜の代表作となる小説です。

 

ちなみに「佐賀潜」のペンネームは「探せん(さがせん)」から来ています。

 

で……。

 

この作品、一言でいえば、非情に向かっ腹のたった小説でした。

 

少壮と言う名の稚気にはやる検事が、百戦錬磨の弁護士に手玉に取られた挙句、敗訴する。

 

判決が出たあと、決定的ともいえる有罪の証拠を手に入れるが、<一事不再理>でどうしようもない。

 

「そんなバカなことがありますか。裁判なんて、いったい、何をさばくんですか。裁判不信だ。」

 

巡査部長の津田の悲痛な叫びで物語は終わります。

 

 

 

この、加害者・犯人に何の刑罰も加えられない、天罰さえも下されない、といったエンディングのミステリー……これがどういう訳か私の中で<社会派推理小説>と結びついてしまいました。

 

その偏見(?)を植え付けたのがこの「華やかな死体」でした。

 

……今思うと法廷モノであって、直接<社会派推理>とは関係がないのにね。

 

「赤かぶ検事」なんて、同じ法廷モノで、<名探偵>ものなのに。

 

 

とにかく後味の悪さ=<社会派推理小説>という方程式が、この作品をきっかけに生れたのは事実です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

198.「道鏡・狂人遺書」

坂口安吾

短編集   江口清・磯田光一:解説  角川文庫

収録作品

 

1.道鏡

2.梟雄

3.織田信長

4.狂人遺書

5.家康

6.イノチガケ

 

 

安吾の歴史もの。

 

「道鏡」と「イノチガケ」以外はなんとタイムリーなこと、大河ドラマ「麒麟がくる」と同時代のもの。

 

 

「梟雄」の斉藤道三はこの前討ち死にしたっけ。

これからは「織田信長」の時代で、次に「狂人遺書」の秀吉、「家康」と歴史は流れていく。

 

 

でもやっぱり「麒麟がくる」の母体になったのは司馬遼の、

 

「国盗り物語」の道三➡信長➡光秀のラインだから、大河ファンの方

 

はそちらをお読み下さい。

 

 

 

「道鏡」に関しては日本史でチラと習いました。

わずか数行の記述で、1ページにも満たない取り扱いだったと記憶しています。

 

しかし、どのクラスにもかならず一人や二人いる事情通が、吉川弘文館顔負けのこぼれ話的なものを披歴するのでした。

 

『道鏡の三本膝』は言うにおよばず、

その周辺で起こった『恵美押勝の乱』で、その姫が千人の兵士に犯され、千一人目の時に股が避けて死んだとか、どこでどう仕入れたのか判らないような情報をもたらしていました

 

あれ?『藤原広嗣の乱』だっけ。奥方を僧・玄昉に犯されて挙兵したのは?

 

まあいいや。

 

とにかく、教科書ではいきなり登場の感が否めなかった『道鏡』ですが、もとは

 

【道鏡は天智天皇の子、施基皇子の子供であり、天智天皇の皇孫だった。】

 

とあり、重祚した称徳天皇(もと孝謙天皇)の後をうけても何の支障もなかったはずですが。

 

この辺、まったく教科書には説明が無かったような――。

 

なんか巷間、”老いらくの恋” とかいろいろ取り沙汰されてますし、女帝を誑かし天皇に寇するする者として、矮小化されてしまったんでしょうね。

 

これは安吾の短編ですが、道鏡を描いた小説には、同じ河内にゆかりのある今東光和尚「弓削道鏡」(徳間文庫)という長編小説があります。

 

興味のある方はそちらをどうぞ。

 

 

 

 

「イノチガケ」は日本にやって来た宣教師の話で、

 

前篇:殉教の数々

 

後篇:ヨワン・シローテの殉教

 

の二部に分かれており、前篇は一五四七年一月から記述が始まり、ザビエルがトルレス神父、フェルナンデス法弟らと鹿児島へ上陸する一五四九年八月十五日の日本訪問から本格的な話の幕が切って落とされます。

 

その後、ルイス・フロイス、オルガンチノ、ロレンソ、ワリニヤーニ(信長に黒人奴隷を献上した)、コエリヨなどが続きます。

 

が、秀吉の怒りをかった一五九六年から弾圧が始まり、

家康のもとに三浦按針(ウィリアム・アダムス)が侍るようになってか

 

らは、オランダとイスパニアの代理戦争が日本国内で勃発します。

 

欧州各地で血を血を洗う争いを起こした、<旧教vs新教>が、日本に移植された形です。

 

ここから一六三七年の島原の乱まで弾圧は行われます。

 

磔、耳削ぎ、斬首、火あぶり、穴つるし、氷責め――。

 

 

【島原の乱の結果は鎖国が施行せられ、切支丹の迫害はまたその絶頂をきわめた。】

 

【かくて全国の切支丹は急速にその終滅に近づいたが、外国教師の潜入はなおつづいた。】

 

しかし一六四三年を最後に集団潜入は終わりを告げます。

 

しかも最後の潜入軍団は、全員、<ころび>ます。

 

彼らの最後の一人が一七〇〇年に永眠し、

 

【日本切支丹は全滅した。】

 

で、前篇は終わります。

 

 

『ヨワン・シローテの殉教』はそれから八年後、

 

一七〇八年シローテが日本に上陸し、翌年、江戸に移されてからの話がメインになります。

 

江戸表の小石川茗荷谷の切支丹屋敷に幽閉され、かの新井白石の訊問を受けます。

 

そのあたりの事は白石の著書、西洋紀聞(岩波文庫)で確かめて下さい、

 

シローテは<ころぶ>ことなく一七一五年十一月二十七日夜半に亡くなります。

 

断食による<殉教>であったろうとの事でした。

 

 

う~ん。

 

 

転び伴天連、切支丹屋敷と聞くと、

私は『沈黙』のモデルとされるジュゼッペ・キアラ(岡本三右衛門)

 

より、『眠狂四郎』の方を思い浮かべてしまいますねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

199.「忍者霧隠才蔵」

木屋進

長編   春陽文庫

 

<忍者もの>は虚実ないまぜの作品が多いから、この作品も設定そのものが私の聞き及んでいるものとは大分違っていました。

 

『霧隠才蔵』と言えば司馬遼の『風神の門』が一番メジャーな作品でしょうが、それともかなり違っています。

 

 

私の知識としては、

 

◯真田十勇士の一人である。

◯猿飛佐助の仲間である。

◯石川五右衛門の友人である。

◯甲賀ものである。

◯百地三太夫の弟子である。

 

大元である『立川文庫』を読んでいないので、多少の違いはあるでしょうが、おおよそこのラインに従っていると思われます。

 

 

 

【織田信長が天下を掌握した天正期、伊賀の国忍者として君臨していたのは、藤林長門と百地丹波の二人であった。】

 

【しかし、長門と丹波が実は同一人という秘密をさぐりだした男こそ、出羽月山の修験者・霧法師のせがれで、旅の忍者・霧隠才蔵であった。】

 

【百地忍党中で五本の指にかぞえられる手だれ、伊賀下忍・石川文吾(のちの五右エ門)のおそるべき殺刀が、才蔵にせまる!】

 

【いきをのむ驚天動地の忍者合戦!】

 

【伊賀のかくし砦とそれをとり巻く迷路の秘密を才蔵にうばわれた伊賀忍者の報復は、才蔵の新妻・淡雪をうばい去ることであった。】

 

【淡雪のうえにせまる妖しの忍法・夢殿しばり!】

 

【猿飛佐助も登場してくり広げる戦国忍者群像。】

 

【描くは新進気鋭時代小説のホープ・木屋進!】

                                              <ウラスジ>

 

 

 

才蔵と五右エ門が宿敵になっているのが目新しいところでしょうか。

 

あと、真田の元に馳せるのは猿飛佐助との忍術合戦に敗れたためではなく、三好清海に誘われてのことでした。

 

この清海入道は出羽月山の修験者ということになっているので、才蔵とは顔馴染みなのです。

 

妻・淡雪を亡くした才蔵はこうして真田の家来となります。

 

 

 

ここから先は歴史のままに――。

 

 

夏の陣のあと、才蔵は六条河原で斬首される国松と田中六右衛門を見ます。

 

自分が落ちのびさせたつもりだったのが、結局捕縛されてしまったのです。

 

 

 

虚しさにつつまれるなか、、才蔵は冬の陣までくノ一だった美舟に遭遇します。

 

彼女は大坂を去ったあと、京の嵯峨野にいる叔父御のもとに身を寄せていました。

 

そしていつか訪ねてきてほしいとも言っていました。

 

美舟が才蔵に、ほのかな恋心を抱いていたのは隠し様もありません。

 

 

 

美舟はどうやら才蔵が来るのを待っていた様子でした。

 

才蔵は美舟に、嵯峨へまいりましょう、と誘われます。

 

【つづいてくるものと信じきった足どりで、美舟は先に立って歩きだしていた。

 

瞬間、才蔵はじわっと大きな手で抱きとめられたような思いがした。無意識のうちに、足が彼女のあとを追っていた。

 

嵯峨へ行くことが、自分の運命をどんなふうに変えることになるのか、いまの才蔵にはわからない。が、そこから新しい生活がひらけそうな予感はあった。

 

(いまのわしは、もう忍者ではない!)

 

霧隠才蔵は、いつかしだいに、しっかりとした足どりで、美舟へ肩をならべていた。】

 

 

最後は東映時代劇のようですね。

 

橋蔵と大川恵子あたりで……。