涼風文庫堂の「文庫おでっせい」8 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<モーリス・ルブラン>

 

 

 

 

やっとこさルパンに戻って来ました。

ルパン三世に触発されて、小説を読み出したのですから、

本来はこちらを先に読む、というのが常道でしょう。

 

しかるに、<おまけ>に弱い私は、

『ホームズ』 という特大の<おまけ>に魅かれて、

「ルパン対ホームズ」 に手を出してしまいました。

 

『ゴジラ』 単体より 『キングコング対ゴジラ』 のほうが 

”お得感” がありますよね。

……。

 

 

13「強盗紳士」

モーリス・ルブラン
短編集   堀口大学:訳  新潮文庫

収録作品

 

1.アルセーヌ・ルパンの逮捕

2.ルパン獄中の余技

3.アルセーヌ・ルパンの脱獄

4.不思議な旅行者

5.女王の首飾り

6.ハートの七

7.マダム・アンベールの金庫

8.黒真珠

9.遅かったりシャーロック・ホームズ

 

記念すべきルパンのデビュー作。

この本を購入するにあたって、

怪盗紳士リュパン」(創元推理文庫)と、

どちらを選ぶかはさほど迷いませんでした。

 

『リュパン』という表記に馴染めなかったからです。

 

いま思えばゴダールもベッソンも 

リュック” であって、”ルック” ではないのにね。

 

それにしてもデビュー作から、

<逮捕>➡<獄中>➡<脱獄>という流れを、

ルパン三世も踏襲していたんですね。

 

<ルパン三世颯爽登場>➡<脱獄>

 

モンキー・パンチ先生もこの辺は意識されていたんでしょう。

のちに三代目として対決するガニマールもさっそく登場しますし。

 

このデビュー作で、大まかなルパンの人物像が見えてきます。

 

子供時代から名もなき若い頃の話まであって、

ルパンの生い立ちや青春時代を綴っているところも窺えます。

 

彼が初めて盗みを働いたのは六歳の時だったとか。

 

そして、盗みに際しての予告状がいち早く現れ、

怪盗と探偵の両立を成し遂げるといった、

後々までの代名詞となる行動の萌芽も示されています。

 

が、何と言っても最後の一編でしょう。

 

ルパンとホームズの対決は三回に及びますが、

デビュー作でいきなり相まみえるとは。

 

が、が。

これから書く話はご存じの方もいらっしゃるでしょう。

 

この作品で勝手に『ホームズ』の名を使われたドイルは激怒し、

ルブランに猛抗議をします。

 

そこでルブランは

『Sherlock Holmes』のアナグラムで

『Herlock Sholmes』という別名を考え、

以降その名の人物をまたまた好き勝手に(?)使います。

 

”ヘルロック・ショルメス”、

フランス風に言うと 

”エルロック・ショルメ”になりますか。

 

本国や英国ではこう表記されているようですが、

日本ではずっと、”シャーロック・ホームズ” のままです。

 

ま、ドイルには申し訳ありませんが、

この方が通りが良いので。

 

で、ホームズが登場するルパンものを年代順に並べると、

こうなります。

 

「強盗紳士」 ➙ 「ルパン対ホームズ」 ⤵

 

14「奇岩城」

モーリス・ルブラン
長編   堀口大学:訳  新潮文庫
 

 

この小説の主人公は、

ボートルレと言う高校生だとばかり思っていました。

 

これを読んだ限りでは。

 

 

それは置いといて――。

ホームズ、最大の失策

先ほど名前を変えた事で、

ホームズ(ショルメス)を好き勝手に使い出した

挙句の果てがこの結末です。

 

ホームズ、ルパンの妻を誤って射殺!

 

そのあとルパンに体当たりされ、
縛り上げられ、猿轡をはめられ、草の中に転がされ――。
 
ルパンは亡くなった妻の身体を背負い、
乳母ヴィクトワールと悲し気にその場を去って行く――。
 

何だ、これは?

 

かつて「中一文庫」で読んだ「奇岩城」の結末は、

ガニマールの鼻先で潜水艦に乗り込み、

妻共々まんまと逃げ遂せるというものでしたが――。

 

ホームズも出て来なかったし、

妻レイモンドが死ぬ事もありませんでした。

 

いくら名前を変えたとは言え、ここまでやりますかね?

 

それまでの経緯を知らない人でも、

ヘルロック・ショルメスがシャーロック・ホームズであることは

自明の理でしょうに。

 

 

話は変わりますが、

 

同じ頃、同じく英国とフランスでやり合った二人の作家がいます。

 

ヴェルヌとウエルズです。

 

二人とも月へ行く話を書いていますが、

そのアプローチの違いから、互いにこんな事を言い合っています。

 

ヴェルヌ

「わたしたちは方法がちがっているのだ。

わたしは物理学を応用する。

ところが、かれは発明してしまうのだ。

かれは重力をゼロにする金属をこしらえた。

それも、いいだろう。

だが、その金属を、わたしに見せてもらいたい。

それを作ってもらいたい」

 

ウエルズ

「わたしの作品は、

ベルヌの ”科学的なように見せかけた” 小説とは、

まったくちがう。

わたしの書いたものを読めば、

そこには物語のおもしろさとか、

その芸術的な価値とはべつの、

新しい何かがあることに気づくはずだ――

新しい ”思想” 、そうよんでもいい」

 

「SF教室」 筒井康隆:編  ポプラ社より

 

ドイルとルブランの場合とは違いますが、

巨頭同士がドーバー海峡を挟んで論争してたんですね。

 

もひとつ、余談を。

 

英仏の話という事で、

河盛好蔵さんの名著「エスプリとユーモア」を繙いてみます。

 

アンドレ・モロアの講演から。

ユーモア(英国代表)とエスプリ(フランス代表)の定義について、

ある英国のレディの言葉。

 

「もしあたくしが 《あたしはでくの坊です》 といったら、

それがユーモアなんです。

またもしあたくしが 《あなたはでくのぼうです》 といったら、

それがエスプリなんです」

 

これがけっこう的を得た考えであることを、

モロアは認めています。

 

こういった気質が下地にあるとすれば、

ドイルとルブラン、ヴェルヌとウエルズのバトルも

腑に落ちない気はしません。

 

キック&ラッシュは守備的で、シャンパン・サッカーは攻撃的。

 

いずれにせよ、最初に仕掛けたのはフランス側ですから。