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★データ蓄積、被爆の評価覆る~原発事故「がん増の可能性低い」★
東京電力福島第一原子力発電所事故による被曝によって、福島の住民にがんなどの健康被害が将来増える可能性は低い。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会が3月に公表した報告書にこうした予測を盛り込んだ。
2013年版の前回報告書は被爆線量の高い子供達について甲状腺がんの発生率が高まる可能性があると予測していたが、事故後10年で積み上げられたデータや研究に基づき、覆る結果となった。
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●福島の風評払拭、期待
報告書がその根拠としているのは、国内外の研究者の論文や報告に加え、福島県が事故後に継続している県民健康調査だ。
調査は全県民約200万人の外部被爆線量を調べる「基本調査」のほか、早産や低出生体重児、先天奇形、先天異常の発生率を調べる「妊産婦調査」など6種類あり、国連科学委は現状を評価し、将来の予測も示した。
最初の報告書は13年版で、参考とされた論文などは353本だったが、今回の20年版では533本と約1.5倍となった。
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福島の住民が事故後1年間で全身に浴びたとする平均被爆線量の推計値は減少し、例えば大人では最大9.3ミリシーベルトに修正された。国連科学委は13年版当時、放射線の影響を過小評価しないよう、食べ物や水などによる被曝の影響を高めに見積もっていたとみられるが、時の経過とともにデータや研究量が増え、評価や予測が変わった。
海外では福島でがんが多発しているとのデマ情報が流れるなど、風評被害が依然としてある。福島大国際交流センターのウィリアム・マクマイケル副センター長は「海外で国連科学委への信頼は厚く、今回の報告書を通じて、福島の正しい姿を広く伝えるべきだ」と訴え、風評払拭に期待する。
●迅速な避難、評価
原発事故で懸念されるのは甲状腺がんの多発だ。とくに5歳以下で増えるとされ、1986年のチェルノブイリ原発事故では当時子供だった1万9000人超が甲状腺がんだと診断された。事故直後の食品規制が不十分で、子供達が牧草などを通じて汚染された牛乳を飲んだことでガン増加につながったとされる。
福島第一原発事故でも、13年版の報告書は被爆線量の高い子供達に関して「がん発生率が上昇する可能性がある」と予測していた。しかし20年版では、事故後1年間で住民が浴びた甲状腺の平均被爆線量の推計値が、1歳児では最大83ミリシーベルトから同30ミリシーベルトに、10歳児では58ミリシーベルトから同22ミリシーベルトに、それぞれ半分以下に減少した。
国連科学委は、福島では厳しい食品規制と迅速な避難が行われていたと評価。子供の甲状腺がんを含むすべ全ての健康への悪影響について「将来にわたって被爆を原因として増加する可能性は低い」と結論付けた。
東京医療保健大学の明石真言教授は「参考にされた論文はデータ量が増し、正確性も向上している」と分析。「今回の報告書が、福島の健康影響に関する評価の最終盤になるのではないか」と強調する。
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●過剰診断の弊害を指摘
報告書はまた、今後の課題についても指摘。
福島県では事故当時18歳以下だった住民らが「甲状腺検査」の対象となっており、これまで252人が「がん、またはがんの疑い」と診断され、うち203人が切除手術を受けている。
この結果について国連科学委は「被爆の結果ではない」とし、理由について「高感度の超音波機器による検査の結果」としたうえ、治療の必要のないがんを見つけてしまう「過剰診断」の可能性を指摘した。
がん細胞は増殖を繰り返すため、一般的に早期発見・治療が推奨されている。だが、りんくう総合医療センター(大阪府)の高野徹・甲状腺センター長は「子供や若者の甲状腺がんは、途中で増殖が止まることが多い」と指摘。過剰診断で症状を引き起こさないがんまで切除すれば不必要な傷をつけてしまい、人体に悪影響を及ぼすという。
この懸念から県の県民健康調査検討委員会は、20年度から甲状腺検査の受診者へ配る文書に「一生気付かずに過ごすかもしれない無害の甲状腺がんを診断・治療する可能性がある」と追記した。
さらに、検査が学校の授業中に行われていることに「同調圧力による受診者もいる」との指摘があるとして改善策を模索している。
福島県民健康調査・検討委員会
星北斗座長
福島県の県民健康調査検討委員会の星北斗座長に国連科学委の報告書について聞いた。
Q.どう受け止めたか?
「住民の健康被害がない」という我々の判断を裏書きしてもらったようだ。新しい知見が加わったわけではないが、県民にとって安心材料であり、朗報であることに間違いない。」
Q.甲状腺検査の過剰診断の可能性が指摘された。
「過剰診断はデメリットとして住民に伝えるべきだ。ただ、(検査開始時に計画した通り)甲状腺を30年間見守るという約束も果たさなければならない。学校での検査は任意性を担保しつつ、受診機会を妨げない方策を見つける必要がある。
現在は医師が(超音波機器)のプローブで検査しているが、将来はプローブを持たずに子供
に向き合い、不安を解消することが理想だ」
(読売新聞科学部・服部牧夫氏)
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