③【和牛流出現場から】遺伝資源管理、手探り。現場任せ、厳格化遠のく | 中谷良子の落書き帳

中谷良子の落書き帳

核武装・スパイ防止法の実現を

➁のつづき。読売新聞で連載されている和牛問題事件について緊急性があり、見逃せないものでしたので以下、ご意見先を載せていますので、農水省には今回の事例を受けて、刑事告発の基準を厳しくすることなどを念頭に、対策を強化するようご意見をお送りください。皆様のご協力を宜しくお願い致します。

【ご意見・抗議先】農林水産省総合窓口
https://www.contactus.maff.go.jp/voice/sogo.html


また、不正持ち出しを疑う事例や照会事項がありましたら、以下の連絡先までご連絡いただきますようお願いいたします。
農林水産省 消費・安全局 動物衛生課
TEL 03-3502-8295 (国際衛生対策室)
農林水産省 動物検疫所
TEL 045-751-5923(企画調整課)
045-751-5955(危機管理課)




★【和牛流出現場から】遺伝資源管理、手探り。現場任せ、厳格化遠のく★

その書類は「精液証明書」と呼ばれている。宮崎県川南町のJA尾鈴で5月、職員が、そこに印字されたバーコードをタブレット端末で読み込むと、即座に情報が表示された。

どの雄牛からいつ採取されたのか?生産者は?いつ誰が購入したのか?書類は。保管用ストローに入れられた精液の1本1本に必ず添付される。

宮崎県では、県内で採取されたすべての精液(ストロー約15万本)に番号を付け、データベースに登録。その番号をバーコード化し、証明書に印字し、精液とセットにすることで厳格な管理を可能にした。

情報は流通の過程で蓄積されていく。精液の採取や譲渡、授精などを担う畜産業者らが精液を買うなどした際、配布された端末でバーコードを読み取り、購入日や自身の名前、授精させた雄牛などを入力する。

県などは業者らがデータ通りに精液を保有するのか調査も実施する。「国内で最も先進的な管理システムだ。流出はほぼ起きないだろう」先のJA職員は胸を張る。

システムは、過去の失敗を教訓に生み出された。県畜産試験場で2006~07年、研修生らが約100本分の精液を盗み出し、北海道の畜産農家らに売却する事件が起きた。盗難はその後2カ月間、発覚せず、管理の甘さを露呈する結果となった。

大阪府警が3月に摘発した和牛受精卵などの流出事件も畜産農家という「身内」が関与した。徳島県吉野川市の畜産農家が流出させた受精卵などは、少なくとも4度にわたり中国に持ち出されていた。

「畜産県としての意識が高い宮崎でも、内部犯行による流出が起きた。遺伝資源は、管理を徹底しないと守れない。」宮崎県のシステム担当者は強調した。


適切な管理・流通体制をいかに構築するのか。今回の事件を受け、農林水産省が発足させた遺伝資源保護の有識者会議でも、その点が最大の焦点だ。会議では、宮崎県のシステムが報告されたが、委員からは否定的な意見が出た。全国で流通する精液は180万本にのぼり、端末の配備先も膨大となるからだ。

そもそも、遺伝資源の管理はこれまで現場任せで来た。

牛の受精卵と精液の採取や販売は、家畜改良増殖法に基づき、都道府県から許可を受けた「家畜人工授精所」や、畜産試験場など規定設備をもつ施設にしか認められていない。

販売記録の作成や保管などの義務はあるが、販売先に制限はない。授精所を畜産農家が兼ねることもあり、今回の事件で流出元となった畜産農家もそうだった。

鳥取県のある授精所は12年、精液と受精卵計約1400本を別の授精所に約50万円で売った。経営者の男性とその父親が死去し、廃業を余儀なくされたのだ。

販売先を探したのは、精液などの売買資格がない母親。「処分に困り、誰でも良かった」と振り返る。農水省が今年実施した調査では、1600の人工授精所のうち3割近くが、いつの間にか休廃業していた。そこで保管されていた遺伝資源がどうなったのかは、わからない。

徳島県は5月、遺伝資源の部外者への譲渡禁止や、詳細な譲渡記録の作成・管理を盛り込んだ制度をスタートさせ、鳥取県も保護へ向けた条例制定を目指す。今回の事件を受け、一部の自治体は対応にの乗り出したが、多くは「農水省の議論を見守りたい」と静観する。


遺伝資源の保護のあり方な詳しい東京理科大の生越(おごせ)由美教授(知的財産政策)は現状をこう話す。「流出を防ぐには、授精所や畜産農家などに、当事者意識を植え付け、厳格な管理を求めるしかない。しかし、担い手不足や海外との競争に苦しむ現場には、新たな負担になりかねず、難しい面もある。」

日本が築いてきた和牛ブランドをどう守るのか。議論はまだ始まったばかりだ。

(読売新聞・中西賢治、田中重人、東慶一郎、苅田円、水木智、行田航)