後悔 3



人間の乗った船というのは実は捕鯨船だったのだが、世間知らずのルピーはそれを単なる友好船だと思い込んでいた。なんとも、おめでたい限りである。



これまたとんでもないカン違いだった。



「うむ、なるほど。じゃが、だからと言ってジュディも同じようにお前に近づいてくるとは限らんぞ。だいたいクジラになったお前をどうやって見抜けばよいのじゃ」



「それは心配入りません。ジュディが近づいたところでボク独特の声で鳴けば、すぐにジュディはそれがボクだって分かるはずです」 



自分の都合のいいように言うルピーに神様は少々飽きれ気味だったが、念を押した上で今回もまたルピーの願い事を渋々承諾してくれたのだった。



「そこまでいうなら、仕方がない。よし、ここは不本意ながらお前の願いを叶えてしんぜよう」

「ほ、本当ですか!あ、ありがとうございます!」



ところが、ここで神様はただし……と言って、やはり前回同様条件を突きつけてきた。

「ただし、前回同様クジラの身体の1部を食いちぎって、わしのところに持ってくる必要がある。それが条件じゃ」



それを聞いてルピーは、ホッとした。サメと違ってクジラは大人しいから、その程度のことなら自分にもできると思って、ルピーは自信たっぷりだった。



ところが、神様の指定したのは、クジラの中でも王者といわれるマッコウクジラだったから、これがなかなか大変だった。



聞くところによると、マッコウクジラは少し獰猛なところがあって、普段はイカやタコ類を主食としているが、時にはサメや大王イカ(巨大イカ)なども襲って食べることがあるという。



だいたい標準のマッコウクジラで体長15メートル、体重が30トン以上もあるのだから、そういうことがあっても何の不思議もない。ルピーは少し不安になったものの、

「ボクだって今は凶暴なホオジロザメなんだから……!」



 と自分に言い聞かせて、早速海へ出てクジラ探しの旅に出た。



 2ヶ月後―。

ようやくルピーは1頭のマッコウクジラを発見した。やはり大きかった。いや、マッコウクジラの中でも最大級のクジラで、体長が約18メートル、体重が40トン以上もあった。



とはいえ、身体が大きいだけに動きがスローモーだったから、サメの時よりもはるかに接近しやすかった。

<この分なら簡単にやれるだろう。>

 

そう思って、ルピーは背後からクジラに接近していった。

案の定簡単にクジラの真うしろにつけることができた。間髪をいれずルピーは尾ひれに「ガブリ!」と食いついた。



ところが、ここでアクシデントが起きた。なんと、鋭くとがったルピーの歯がクジラの尾ヒレに引っかかって、取れなくなってしまったのだ。高をくくって、大口を開けて食らいついたのがいけなかった。



とにかく、いくら離そうと首を振っても、尾ひれに絡んでビクともしない。

ルピーはあせった。あせって、いっそう首を強く振りまわした。

 

そのうちにクジラがそれに気づいて、同じように尾ひれを強烈に振り始めた。勢い、ルピーの身体は木の葉のようにユラユラと水中を舞い始めた。

それが2、3分も続いたものだから、とうとうルピーは目が回って方向感覚を失ってしまった。

 だが、幸いなことに、次の瞬間、何かの拍子に引っかかった歯がうまい具合にスポンととれた。

「しめた! 」そう思ったのもつかの間。今度はクジラが向きを変えてルピーに猛然と襲い掛かってきた。



いや、襲い掛かってきたと言うよりも、クジラにしてみればうまい具合にエサが飛び込んできたと思って喜んだのかもしれない。いずれにしてもクジラは、直径2メートルほどもある大口を開けてルピーに襲い掛かってきた。



普通だったら難なくかわせるところだったが、なにせ目が回ってクラクラしていたから、容易にその場から逃げ出せなかった。

「ザバ~ッ!」たちまちルピーは水流と共に、クジラの口の中に呑み込まれてしまった。

<ま、まずい!早く逃げ出さないと大変なことになる!>



ルピーはなんとか逃れようと、鋭い歯を剥き出しにして口の中の突起物を手当たり次第に噛みついた。するとそれが効を奏したのか、クジラは苦し紛れにルピーをポロリと口の中から吐き出した。



「今だ!」ルピーは全速力で泳いで逃げた。



身体が大きすぎて追っても無駄だと思ったのか、幸いにもクジラの追撃はなかった。





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