隣人の影 | 海に映る月

海に映る月

弱さを知ると、やさしくなれる。

東京に来て今の家に住む時、両隣は住んでいた。

右隣は若い男性、左隣は若い女性だった。

若い女性はわたしが引っ越してきた時に挨拶できて、大家さんはとても良い方ですよ、なんて教えてもらった。程なく彼女は退去した。



右隣の男性に挨拶できたのは、3ヶ月くらい経ってからだったか。

朝、家を出る時に重なり挨拶した。何度か会うことがあり普通に挨拶をかわしていた。

その男性も昨年11月ころに退去した。


左隣に新しい住人が入ったのは、右隣の男性が出る前くらいだと思う。多分女性だ。

未だに会ったことがない。



右隣は暫く空いていると解釈していた。

ある日、玄関前の傘かけにビニール傘があった。

私はまだ新しい人が住んでいるとは思っていなかったので、その傘を見た時


大家さんが置いていったのかな?


などと思った。

新しい住人が入っていないと思ったのは、ベランダ越しに見える隣の窓だ。

窓ではなく、雨戸が閉められているのだから。

次の日にはビニール傘は玄関には無かった。



ある夜、物音が聞こえてきた。

ドンドン、と力強く歩くような音に耳を澄ました。

隣はいないはずだから、下の階から聞こえているのだろうか?

3日後の夜、また聞こえてきた。

今度は思わず壁に耳を当てた。

下からではなく隣から聞こえてきたようなんだもの。

ドンドンの後に、物音が確認出来ない。やはり下の階からなのか?

隣の雨戸は閉められたまま。誰かが住んでいるとは思えなかった。



そうしているうち

夕方に雨が降った日があった。

帰宅すると、隣の玄関先には今度は黒い折りたたみ傘があった。




やはり隣には誰かが住んでいる?

ベランダ側から見てみる。

今日も雨戸は閉められている。

この寒い時期にエアコンの室外機の音も聞こえてこない。


その住人には会ったことがない。




まぁ、恐らく

長期出張中なんだろう。

暖かくなったら会うかもしれんね。