と、いう訳でやるぜ!


『彼女の幸福世界(アヤノの幸福理論)』

思い出していくのは 空 家族の顔
「貴女はお姉ちゃんだから この子と未来 任せたよ」
白黒無色 小さな部屋の隅で
静かに書くよ 秘密と告白並べ
生まれ育った 妹の綺麗な笑顔
護り通してく 未来まで
震える指で 「あたし、化け物だから」
わたしは書くよ 「人殺しだからさ」って
「青白(あおじろ)印といずれ朽ちていくのならば、せめて笑顔でいたいんだ」
苦しいことを悩んでは
今日もいつも通りのフリ
「さぁ、行こうか」
両手の剣を背負い込み
「何してるの?」と言うよ

灯り色、みんな、話そうよ
欠けそうな「笑顔のフリ」だけど
「少しでも 泣かないように」と
今日も 歌っていよう
「幸せ」を願うよ、先にある世界にわたしがいなくてもさ
「みんなが幸せなら」
構うことなどないから

過去夢巡り 大人になれず世界は
不条理歪む わたしの願いみたいに
はじけて消えた 父さん母さんの命は
誰も助けられずに 散っていた
狂いきっていた 分かったら もう
キミにも 言えずに
「怖い、やめてよ。何も出来ない」
幸せが消える空が観えた

「白色と、紅色(あかいろ)。これ以上、
 彼らの 未来を奪わないで」
泣きながらまた、書き連ねる
言葉で隠していく
「『願うこと』、それがあたしなら
 キミの未来を 変えれるよね」
弱くて 泣き虫な
独りぼっちの魔法だ

わたしが居ない あの日々、あの場所のキミ
今も変わらず 過ごしているかな
きっと「あたし」に 怒っているかな だけど
ちゃんと「お姉ちゃん(あたし自身)」でいれたかな?

思い出せるかな あの好きでいる彼ら
「幸せ?」って聞きたい最期
みんなずっと幸せでいて



・あとがき
多分これるーちゃんの話。
きっと遺言書いてる途中な感じ(おい大丈夫か
やっぱ途中途中のメッセージはアウアとか彼氏さんに宛てたんだろうね、うん(
でも原曲泣ける……曲綺麗だし、あと解釈が……
「俺さ、ここで始まりにしようと思うんだ」

その人は、廃墟となった高い高い建物の屋上で、あたしに背を向けたまま楽しそうに呟いた。


――――――――――――――――


 嘘と真の位置が逆、と言えばいいのか。
普通なら嘘は言っていけない、または言わない方がいい。
 けれど、ここでは真を言ってはいけない。
真を言ってたらどうなるか。有無を言わさずに『殺される』。一瞬で、すっと。
実際、あたしも死に欠けたし、街で死んだ人も見た。
直視していないから死因は分からないけど、大量の血を見た。
 だから、死にたくなければ嘘を吐いて、同じように嘘を吐く相手の言葉を反転させないといけない。ここは、そういう世界なんだ。
 
 いつの間にかこの世界に連れてこられた。
 正直、今すぐにでも死んでしまいたい。
嘘を吐くのに疲れた。
嘘を吐くのが、苦しい。
一つ一つの言葉を疑いすぎて、嘘をうまく反転できない。
他人の言葉が理解できない。
他人の嘘を聞きたくない。

 だけど死にたくない。違う、死ねない。
いろいろ原因はあるけど、一番は死ぬが怖いから。

「……っ、」

 疲れた。
 言いたいけれど、真のことだから、言葉を吐きだし終わった瞬間に死ぬ。それだけは、イヤだ。
 
 はぁ、と溜め息を吐いて、視線を天井から外し、ベットから起き上がる。
あたしが勝手に過ごしているこの空き部屋、もとい空き小屋はテーブル、カーペット、ベットしかないけれど、生活するには十分だ。

――喉、乾いたな――

 近くに井戸があるから、そこで水を飲もうと思い、ベットの下に投げ出した靴を履く。
それから、唯一の外へつながるドアを開いて、片足を踏み出す。
ぐしゃっ。

「……ぐしゃっ?」

 先刻前まで振っていた雨で濡れた泥に似ていて、違う感覚に、踏み出した片足を見下ろす。
地面と靴――青色のシューズ――の間に、黒と白で何か描かれた紙がぐしゃぐしゃになって挟まってる。
足を除けて、しゃがんで、紙に付いた汚れを取ってから、拾う。……地図みたいだ。
建物を示す四角に、通りや道を示す線。その中に二つ、白でも黒でもない色がある。
一つは青。一つの四角――建物にぽつ、と小さな点が打ってある。
もう一つは赤。さっき踏んでしまった部分に描かれていた大きめの建物を囲うように丸が描いてある。
けど、どっちが上か下か、よく分からない。どうしよう。
 何かないか、と紙を見ると、右手で握っていた部分に、四角でもただの線でもない、文字が書いてあることに気付いた。
紙の向きを変えて、この世界の共通語で書かれた文字を読む。

『青色が現在地。丸で囲った建物まで来て欲しい ――クローディア』
「……イクス」

 声に出ていた。
 クローディア、というのは、まぁハッキリ言うと……、好きな人で恋人で大切な人。
このことを寮や他の世界の人に言うと、大抵爆ぜろと言われる。
腕くらいならいいけど、嫌だなぁ、なんて思う。むしろそっちが先に死んで下さい、とも思う。
 ……もう一度、文字を見る。
正直な話、クローディア……いや、イクスの文字なんて見たことが無い。
あったとしても、他人の文字か本人の文字かなんて見分けがつかない。

 誰かがあたしを罠に掛けようとしているのかもしれない、と疑った。
 何しろここは嘘を吐かないといけない世界。
紙に書いてあるのは嘘で、本当は『ここには絶対来るな』ということだと思う。
 言うとおりに行ったら罠にはまるかもしれない。最終的には殺されるかもしれない。
そんな考えが、頭を過る。でも、

「……行かなきゃ」

 何となく、そう何となく呟いた。
地図に書かれた文字通りに動くのが怖くない、と吐き出しても、嘘だから殺されることはない。
 じゃあ何で、赤い丸で囲まれた場所に行くのか。殺されるかもしれないのに。
理由を探して、確かな理由を見つける。

 それは、『イクスに逢いたい』という、案外単純な、本人にはとても言えない願いだった。


――――――――――――――――


 もしかしたら、俗に言う『方向音痴』に当てはまるのかもしれない。
青い点――現在あたしが暮らしている空き小屋――から、赤い丸の建物の距離は、地図で見る限り近かった。
だけど、やっとそれらしい建物を見つけたときには、太陽が空の頂点を少し通り過ぎていた。時間で言うと……二時くらい。
小屋を出たのが十一時過ぎくらいだったから、約三時間程掛かってる。
それで着いた場所が、小屋からまっすぐ行けば10分と掛からない場所にあったのに気付いたのはついさっきのことだ。
 さて、と、建物を見上げる。
そこはやっぱり廃墟で、高さはよく分からないけど、九、十階くらいはある。何だっけ……廃ビル、っていうんだっけ?あんまり覚えてない。
入り口は……開いてる。『おいで』って言うように、薄っぺらいドアが、ギイッ……と音を立てて、開いたり閉じたりを繰り返す。

――怖いけど……、行かないと――

 ここに来た理由――イクスに逢いたい――を確認して、廃ビルの中へ。
 中はただ広い、コンクリート(という素材?)で出来た空間が広がっていた。
見たことが無い工具がいくつか転がっていて、少し埃っぽいこと以外は何もない。
 ……いや、この空間の中央に、階段がある。上へ行く階段。
 気のせいか、階段だけ明るい。入り口のドアと同じく、『おいで』って言っているみたいだ。
 一歩、二歩、と足を動かす。怖いけど、それでも前へ。

 階段を上る。
螺旋みたいな階段で、ぐるぐる回りながら二階、三階は通り過ぎる。単純に、一階と似た風景で、イクスがいないから調べる気がない。
四階、五階、六階と通り過ぎていく。同じ風景が続く。
八階、九階、十階と通り過ぎていく。誰もいない。あたしの足音と息をする音しかしない。

 十一階。また同じ空間で、誰もいないのかと思ったら違う。
壁が無い。天井がない。だけど、床と空は存在している。つまり、屋上だ。
 視線を床から上げると、誰かの背中。
 元いた世界では見たことがない、他の世界では普通らしい、どこか色褪せた赤と黒の不思議な服。そして、昏い茶髪。
多分、間違いない。

「イクス?」
「………違う」

 背を向けたまま、その人は否定する。
一瞬、人違いかと思って、思い出す。ここは嘘を吐かないといけない世界で、真をいうと殺されることを。
つまり、今言われたのは否定じゃなくて肯定。
 この人は、紛れもなく、イクス。
 よかった。やっと会えた。
 そう、言いたいけど、言える筈もなく。

「……ごめんね、悲しい」
「俺は違う」

 ありがとう、嬉しい。
 俺もだ。
 
 こんな世界じゃなければ、きっとこんな会話なんだと思う。
けれど、この世界では、意味の分からない言葉になってしまう。
 ……あぁ、なんだろ。よく分からない感情が溢れそうになって、慌てて噛み殺す。
 イクスはまだ、あたしに背を向けたままだった。

「あ、あのさ、……地図と、メッセージ書いたの、イクス……じゃないよね」
「俺は書いていない」

 あたしの方を見てくれないのが不安で、地図のことを尋ねる。
 イクスはただ肯定するだけで、振り返ってはくれない。
ちゃんとイクスに逢えたのは嬉しいのだけれど、いつもと違う雰囲気が、何かが起こりそうで、怖い。
いつの間にか震える声で、聞く。

「どうして、あたしをここに呼んでいないの……?」

 ……言ってから、どのくらい経ったんだろう。ほんの数秒かもしれないし、数分経ったのかもしれない。
あたしがイクスに問いかけた途端、時間の感覚が麻痺してしまうほどの緊張感に襲われる。
それは、あたしが言葉を発したときから、イクスが纏う雰囲気を、ぞっとするくらい冷たいモノになったから。
 何度か息をしようとしたけど、吸っているようで吸えていない錯覚すらする。

「……俺さ」

 そしてイクスは緊張で重くなった沈黙を止め、振り向かないまま、言ったんだ。

「俺さ、ここで始まりにしようと思うんだ」

 冷たい雰囲気で、でも楽しそうにイクスは言う。
異常だ、と直感してしまう。いつもと本当に違う。
 だって、今の言葉を反転させると、「これで終わりにしようと思うんだ」って言っていることになるから。

「な、何を言って、いないの……?」
「そのままじゃないさ。……楽しいんだ、この世界が」
「え……?」

 初めて、イクスが振り向いた。
冷たい雰囲気なのに、昏い茶色の目や表情は、疲れ切ったような、困ったような、見下すような、夢を見ているような。
ごちゃごちゃになって、曖昧になった笑みを浮かべる。

「死なない程度だが、それでも中々愉しい。だが、俺に許容量ってもんはない。この最高な世界に丁度いいんだよ」
「………えと」

 イクスの言葉を理解しようと必死になる。
わかんない。言葉を反転させてもさせなくても、意味が理解できなくて、何も言えなくなった。
 言い返さないと、って思うのに、言葉が出てこない。

「なぁ、ルライト」

 イクスは言う。
 誰もが気付く生き方なんて、少ないんだよ。って。

「ど、どういう……?」
「別に。それだけだ」

 にやっ、と口角を吊り上げて、再びイクスはあたしに背を向け、一歩ずつあたしから離れていく。
 茫然として見ていると、イクスは屋上の縁の上に足を掛けていた。
 ……え?

「ま、まって!」
「………何が」

 訳が分からなくなって、声を上げる。
何が、って言われても明らかに危ない。

――だって、あと一歩踏み出したら、落ちて死んじゃう――

 ここまで思考が廻って、はっとする。
さっきまで、イクスが言っていた言葉の意味を、理解してしまう。
間違っていてほしいけど、あぁでも、屋上の縁に足を掛けているんだから、正しいんだろうな。


――イクス、ここで死ぬ気だ――


「……止めなくていい」

 引き留めるために駆け出そうとした途端、そんなことをイクスが言う。
その通りに走ろうとしたけど、止める。これは嘘だ。
 止めろ、とイクスは言っている。

「有益なんだよ、お前の行動は」

 イクスが、縁の上であたしの方を振り向く。
 さっきまでとは違う、はっきりとした穏やかな笑みだった。
けど……、壊れてるように見えてしまった。
 廻って廻って廻って擦り減ってしまった、歯車みたいな。
そんな風に見えてしまった。
 ……やっぱり、あたしは、

「……じゃあな」

 そしてイクスは、あたしの方を向いたまま、軽い調子で後ろの――何もない空へ、飛んだ。
 そしてあたしは、イクスが飛ぶ瞬間に、化け物と言われても仕方がない速さで、走った。
 時間の流れが遅く感じられた。いや、あたしが正常な時間の感覚を置き去りにした。


「イクスッ!!」


 すぐに屋上の縁まで来て、叫んで、飛ぶ。
え、と口を開いて、呆気にとられているイクスの片腕を掴んで、空中から屋上の方へ、投げ飛ばした。全力で。
投げられたイクスは、驚いたような表情を浮かべて、あたしから離れていく。これならちゃんと、屋上に足を付けることができると思う。
あたしはイクスの代わりに、落ちていく。当たり前のことだ。屋上から飛んだのだから。

「……ルライト!?」 
 
 イクスが、叫んだ。
多分、あたしがイクスの代わりに落ちていって、イクスは屋上の方に放り投げられたのに気付いたからだと思う。
本当に驚いているみたいで、目が大きく見開かれていた。

「何故だ!?」

 また、叫ぶ。
だけどあたしは答えなかった。
代わりに、体の内にありあまる魔力を使って、イクスの心に直接届くように。
届くようにして、あたしの想いを魔力に乗せた。
 嘘じゃない、想いを。
 真の想いくらい伝えさせてよ、神様。


――あたしは、イクスが死ぬところなんて見たくない――
――イクスを失うことに耐えられないんだ――
――自分勝手かもしれない。だけど飛び降りようとしたイクスだって、同じだ――

――前にさ、この世界で『自分なんて嫌いだ』って言った気がする――
――それに、重ねて言うよ――

――『救い』を助けられないあたしなんて、『願い』なんて、大っ嫌い――

――だからイクス――

     ――さよなら――

 想いを魔力に乗せ終えたあたしは、笑おうとした。
でも、ちゃんと笑えたかは分からないまま、イクスがどんな表情をしていたか確認できないまま。

 落下。
 落下。
 落下。
 落ちました。

視界が、アカ、ううん、クロ。
高いところから、重い物が落ちた音がした気がする。
頭と、体中が、あつ……




――――――――――――――――




 目を開けると、目の前のほとんどが空の蒼色だった。
 隅に、灰色の高い建物が見える。

――ここ、どこだろ――

 視線を動かそうとしたけれど、上手く動かなかった。
同じように身体を動かそうとしたけど、指先が少し動いた感覚しかしない。というか、全身が重い。若干眠たい。
何かあった気がするけど……思い出せない。けど、空が綺麗だ。だったらそれでいいかも。

 ……ぽたっ、と何かが頬に落ちた。
続けて、つぅっと流れる感覚。まるで水みたいだ。雨……じゃないよね。こんなに綺麗に晴れてるんだから。
 無理やり視線を動かすと、昏い茶髪の誰かが居る。思ったよりぼんやりして、表情がよく分からない。
 でも、この人は、昏い茶色の瞳から涙を流している。何でだろ。

「… ……」
「      」
「   」

 その人は何か言っている。ノイズみたいでよく聞こえない。
 でも、苦しそうで、辛そうだった。

――なかないで――

 そう、言ったつもりだった。
けれどあたしの喉で、ひゅう、と音が鳴るだけで、言葉にならなかった。
 手を伸ばす。
手を動かせることに後から気付いたけれど――手を伸ばして、その人の頬に触れた。
温かい、冷たい、ううん、温度がよく分からない。
 その人の涙が、頬に触れたあたしの手の上を流れる。
 あたしの手に誰かが触れた。少しして、気付く。


――この人、イクスだ――


 思い出す。

 ここが嘘を吐かないと殺される世界だということを。
 イクスが廃ビルの上から飛び降りて死のうとしたことを。
 あたしがそれに耐えられなかったことを。
 イクスを無理やり助けて、あたしが代わりに飛び降りたことを。
 今、ここが廃ビルのすぐ傍の地面だっていうことを。
 あたしは頭から大量に血を流して、転がっていることを。

 思い出して、イクスを見る。
 今、無表情で、イクスが、泣いている。

――どうして……?――

 ひゅうひゅう、と音はするけど言葉は出ない。
 そうだ、さっきまで聞こえていたノイズは、イクスの声だ。

――どうして、ないているの?――

 何故?
何で悲しむの?
キミは強いのだから、あたしが死に欠けてるだけで、そんな顔して泣く必要なんてないのに。
イクスが無事でいるのなら、それでいいのに。
 これじゃあまるで……あたしが傷つけて、苦しめているみたいじゃないか。

――ないているのは、あたしのせい……?――

「あぁ、最高なくらいに」

 ノイズが声に、よく聞いた声に変わる。あぁ、イクスの声だ。掠れているけど。
……でも、最高……じゃなくて、最低って、何が? 何か違和感がする。
 いや、それより、それよりも……

――なんで……?――
「……は?」

――なんで、わらってくれないの……?――

 どうしてか、そんな疑問が浮かぶ。どうして思ったのか、まったく分からなかったけど。

――キミはいきているんだから、ねぇ、わらって……――
「……、」

 笑って欲しかった。
生きている喜びに満ちた、あの疲れ切って壊れきったモノじゃない、笑顔が見たいのに、苦い顔で黙り込まれてしまった。
 ……ううん、違う。ぼそぼそって、何か言ってる。
 泣いてるのに、掠れてるのに、何か変だ。

「……、 う」
――きこえない……――
「こっの……、馬鹿野郎が!!!」

 きぃん、と耳が鳴る。
 大声で叫ばれたんだと思う。ただでさえくらくらする頭が、もっとくらくらする。

「どうして分かるんだ、お前は!!!!」
――な、にが……――

 心で尋ね返した矢先、体内からみしっ、と何か軋む音がした。
視線を上げると、イクスの頬に触れていた手が、鷲掴みにされてる。

 みしみしみしみしっ。
軋む音が連続で響く。

「よくもそんなことが言えるな!!!」

 バキボキバキャッ!!
いい音がしたのと同時に、イクスに鷲掴みにされた手の指が、骨が、曲がっちゃいけない方向へ、折れた。
多分、いや恐らく、イクスに折られたらしい。
痛くは無いけど、目の前に白い光が散った。
 白い光が散ったあと、不意に視界がはっきりする。
イクスは、目を吊り上げて怒ってる。それでまた、怒鳴る。

「こんなこと……こんなことで笑えるか!?」

 ボキッ。
また指の骨が折れた。痛くない。でも光が散る。

――どうして、おこってるの?――

 ふと、再び浮かんだ疑問を心に浮かべる。
怒っている理由が理解できない。指を折られたのは別にいいとして、それだけは分からない。
 イクスは、一回言葉をまとめるように大きく息を吐いて、吸って、また怒鳴る。

「お前のことが、嫌いだからに決まっているだろうが!!!」

 嫌い。
言葉が刺さる、けど反転させると……好き?
 あ、分かった。イクス、あたしのこと心配してるんだ。
 でもわかんないや。
何で心配されてるのか。
どうせもうすぐ死ぬんだから、心配したってどうにもならないのに。

 ……え? まって、あたし死ぬの?

 そうだ、よく考えたらそうじゃんか。
恐ろしいほどに思考が鈍っていたことを、やっと自覚する。
目をイクスから離して地面を見ると、これでもか、と言わんばかりの血溜り。
これだけ血を流したら、長くは生きていられないはずだ。

 じゃああたし、もう死んじゃうの?

 待って、待ってよ待って待って待って。
死にたいと思うさ、死にたいって少しは願う。
だけど今はまだ死にたくない。死にたくないよ。
やり残したこと一杯あるのに、まだ人を殺した罪を償い切れてないのに、アウアのこと心配なのに。
イクスだって、まだ笑ってくれてないのに。

「何で有益なことをしなかったんだよ!!! 他には無かっただろう!?」

 イクスの怒号を聞きながら、愕然とする。
どうしてこんな大事なことに気付かなかったんだ、あたし。
決まってる。イクスを助けたいのに必死で、自分が落ちたらどうなるかなんて想像してなかった。
あと、血を流しすぎて、考えるときに使う分が足りなくなったんだ。

 あぁ、イクスが泣いて、怒鳴っているのは――あたしが、死んじゃうから。
さっき、本人が言った通り、好きだからなのかな?
 ……場違いかもしれないけど、嬉しい、な。

「ルライト……? おい!? しっかりしろ!!」

 反応が無くなったからか、イクスが声を荒げてあたしの体を揺する。
必死だ。普段見られないくらいに必死だ。
怒ってる顔から、また泣きそうな、傷付ききった顔になってる。あぁ、そんな顔しないで。
 死ぬのは怖いけど、でも、キミが無事ならそれでいいのに。
 
 寮の人に、『自分を大事にしないと、相手を悲しませることになる』って言われていたことを思い出す。
正直、あんまり信じてなかった――正しくは信じられなかった――けど。
イクスがこんなに必死で泣きそう、というか泣いてるこの状況が『そうだ』と物語ってる。
もっとちゃんと聞いておけばよかった、って思うのは後悔なのかなぁ……。

「お前も、俺たちを残して逝かないっていうのか!!!」

 俺たち? あぁ、嘘か。この世界の法則に触れないように言ってるんだ。

「どうして俺を残して逝かないんだよ!!!」

 どうして俺を残して逝くんだ。
あぁ、また泣いてる。地面や血溜りに、ぽたぽたと涙が落ちていく。
手を伸ばして触れたいけど、折られた片手は、もう使えない。
全く関係ないけれど、眠たい。

「何故、我らばかりがこんな目に逢わねばならない!!!」

 イクスが、蒼い空を仰いで絶叫する。

「我らが一体何をしたというのだ!!!!」

 我らってなんだろう。
誰に対して言ってるんだろう。
空? この世界? よくイクスが口にしているステラ、という人?

「フェイト!! 獲る喜びだけを押し付けるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
乾いた声で、ひたすら苦しそうに。泣いてる。

 助けて、って聞こえた気がした。


――……イクス、――

 ひゅう、と喉で風の音が鳴る。
それで気付いたのか、はっとしたようにイクスがこっちを見た。

――伝えたい――

 思いをまとめて、なるべく早く、それでいて、心に届くように。

――あたしも、イクスのことが、――

 そのときだった。
 しゅーっと、あたしの身体から白い煙が上がったのは。

「……え?」

 イクスが呆気にとられている。
そうだ、思い出した。というか忘れてたよ。
うん、大量出血って危ないんだね。思考が鈍くて鈍足で。

 白い煙が上がっていると、段々身体の怠さがなくなる。
視界もはっきり。感覚もはっきり。音もはっきり。
折られた手は、時間を巻き戻したかのように元通りに。
血溜りはそのままだったけど、頭のくらくらする感覚はなくなる。
 煙が無くなる頃には、身体はすっかり『元通り』になった。

「……えい」

 軽くかけ声を掛けて、さっきまで力なく転がっていた腕に力を込め起き上がる。
呆気にとられていたイクスが呟いた。


「……これは、つまり?」
「………難しく死ぬみたいだよ、あたし」
 

――――――――――――――――


 強制治癒の呪い。
正式名称はいろいろあった気がするけど、あたしは通弁的にそう呼んでる。
 身体に、傷や損傷を負った場合、30分くらいの間であたしの魔力を食って『完全に治ってしまう』魔法が掛けられている。
あたしの意志では制御できない。ルナヴィアースに居る場合なら別だけど。
例外もあり、首が捥げたり魔力が無い場合は発動しないらしい。実際にその場面に遭遇したことはない。遭遇したくないけどさ。
とにかく、望むに望まないにしろ、あたしは『飛び降りたくらいで死なない』ようで。


『とりま、俺の涙を返せ』
『無茶言わないで下さい』


 さっき飛び降りた廃ビルの中で、イクスと並んで座って、会話をしている。
でも、話している内容、もとい言葉は嘘じゃない。
嘘じゃなければ殺されるのに、それでもあたしたちは死ぬことなく、そのままの意味の言葉を使って会話をしている。
 何故かというと、これは『筆談』だからだ。
イクス曰く、真のことを『言わなければ』いいらしい。つまり、紙に書く筆談なら、大丈夫だということ。もっと早く知りたかった。

『いや本当に返せ、水分無くて死ぬから』
『涙くらいで水分不足になるの?』
『知らん』
『魔法で水創ろうか? 攻撃魔法にしなきゃいいんだし』

 ちゃんと飲めるよ? って書き加える。
するとイクスは一度あたしの方に呆れたような視線を向けて、『冗談じゃない、止めてくれ』と書く。
本気だったのに……、酷い。

『つか何で忘れてたし』
『ホント不思議だよ、うん』

 あたしもイクスも、さっきまで強制治癒の呪いのことを忘れていた。
だからイクスは本気で誰か(今は怖くてとってもじゃないけど聞けない)を呪っていたし、あたしも死ぬと思った。
今回だけは、この呪いに感謝しないといけない。きっと今回きりだな。

『そうだイクス、聞きたいことがあるんだ』
『急にどうした』
『いや、何でさっきイクスがあたしの心読めたの?』
『は?』
『は? って何?』
『いやその通りだが』

 そうだ、さっき(死に欠けていたとき)何でイクスがあたしの心に思い浮かんだことに反応したのか分からない。
だからそれを聞こうとする。

『だってさっき、あたし一言も話してないのに、イクスと普通に意志疎通?してたじゃないか。何で?』
『……気付かずにやってたのか?』
『何を?』
『お前、普通に魔力でテレパシー的な感じで話してだろうに』
『……うそ』
『本当だ』

 どうやら、無意識に魔力に想いを乗せていたようです。
屋上から飛び降りたときみたいな感じで。

『……とりあえずさ、イクス』
『?』
『もう、飛び降りたりしないで。イクスはあたしみたいに身体が治る訳じゃないんだから』
『善良する』
『ふざけんな』
『冗談だ、さすがにお前の前ではやらない。つか言葉使い荒ぶってんぞ』

 若干の怒りを込めて書くと、言葉使いが変だと言われた。
これ、イクスのを真似しただけなのに……。

『あたしがいないところでもしないで。もしやって死んだら、あたしもイクスの後を追って死んで、イクスみたいに説教してやる』
『お前、説教出来んのか?』
『多分できない』
『まてーい』

 突っ込まれた。
って、話題逸らされてる。戻さないと……。

『とにかくお願いだよ、何かあったら言って。あと、死なないで』
『分かった分かった。そうだ、俺も言うぞ』
『うん』
『誰かを助けるための身代わりなんぞすんな』
『……それだけ?』
『あと、自分を大事にしろ。俺の寿命が終わる』
『善良します』
『ふざけろ』
『ごめんなさい』

 イクスと同じことをすると、また同じような流れになる。
紙から視線を上げてイクスを見ると、目があって、くすっと吹き出してしまう。
 なんだか、あまり平和なやり取りではないけど、嬉しい。
やっぱりあたしは、イクスのことが好きなんだって、今更ながらに再確認する。

『なぁイクス、やっぱりイクスのこと、大好きだ』
『そうか』
『……イクスは何か言ってくれないの?』
『言って欲しいのか?』

 ちらっとイクスを見ると、何だろ、意味ありげな笑みを浮かべている。
……笑顔、とまではいかないけど、笑みが見れて嬉しい。

『ダメ?』
『言わなくったって分かるだろうに』

 書いて、握っていたペンを置く。
ペンを置いて何をするのかなーとイクスを見ると、あたしの片手を掴んでる。
あ、まさか。

『折らないで!』

 慌てて書き殴って紙を見せるけど、見てない。
で、何をされるのか(危険なことはしないと……思う、きっと)分からなくて、目を閉じる。
 不意に、頬に痛みが走った。
驚いて目を開けると、イクスの顔が目の前にある。

 ちょっと、と言うより先に、額にキスされた。

 頬が熱くなる。イクスの顔が離れる。
ついでに頬が痛かったのは、イクスが頬を軽く抓ったから。
 あたふたしているあたしに満足したのか、イクスは紙を見る。

「ちょっ、おま……!!」

 大爆笑された。
お腹を抱えてケラケラと大爆笑してる。本当に。
 で、一段落着いたところで、イクスは再びペンを握った。

『折らないって、さすがにやらねーよ』
『いやでも、さっき折られたし……』
『スマン。加減が効かなかった』
『うん、そうだと思った』
『……で、分かったか?』
『何を?』
『さっきの答えだ』
『あ、うん……。でも、強引だ』
『何なら一度するか?』
『勘弁して下さい』

 何回もされたら、嬉しくて死にそうになるし……。

『あ、でも……』
『でも?』
『……頭、撫でて欲しい、かな』

 書いてて、ものすごく恥ずかしいことを書いてるような錯覚がした。
いや錯覚じゃない、本当に恥ずかしい。

『お安い御用だ、お嬢さん』

 でも、イクスも負けないくらいに、見ててこっちが恥ずかしくなるような言葉を書いて、頭を撫でてくれた。

『嬉しい』
『そうか』
『うん。 ねぇ』
『どうした』


『絶対に、元の世界に帰ろうね』
『そうだな』

 
 イクスはそう書いて、また額にキスする。
せっかくいいことを書いた気がするのに、何だろ、悔しい。


 負けたくないから、イクスの頬にキスしてみたら、顔を真っ赤にされました。
 ちょっとだけ、勝った気分だ。




――今回だけは、喜劇らしいです――


・あとがき
クロルラの嘘世界シリーズ第3弾! 毎度の如く、ナっさんからクローディアさんをお借りしました。
いやぁ、るーちゃんの疑似不死身設定、まさかここで役立つとは思わなかった。便利だわ。
初めは悲劇全開だったけど、↑の設定のお蔭でまさかの喜劇。リア充ぱない。
やっぱり嘘世界は楽しいねうん。えっ、外道? 私は鬱担当だよJK(←


 ――ワタシは、永遠に待ち続ける――

 辺りにはちらほらと、まるで語られる天使が持っている羽のように軽く、石畳に白い雪が重なっている。
王国でも比較的に大きいために、寒さを防ぐ厚着をしながら、大勢の人間が行きかう街。
 かつては国境に近いという理由で奇襲の標的にされることもよくあることだった。

 しかし、思考を思考に重ね、思考を思考するワタシが認識する人間は誰一人としていない。
背にした壁に真新しい人間の血液が散らばり、その前でワタシがずっと、錆びついた一振りの剣を手に祈りを捧げているからだ。
 誰も認識しないほどに、何を祈るのか。
 非常に簡単なことだ。

 ――戦友(とも)が、早く帰ってきますように――

 戦友の無事。
 たった、たったそれだけなのだ。

 彼等彼女等はまだ、枯れ果て炎が飛び交う大地を踏みしめて、剣を、刃を、振っているのか。
 彼等彼女等はまだ、風が吹くことを止めた大地を駆け抜けて、力を、命を、振りかざすのか。
 彼等彼女等はもう、戦などとっくの昔に止めた世界を見つめ、散り、涙を世界の贐にするのか。

 待ち続けるワタシには、知る由もなく。
いつの間にか、視界に映るモノは色褪せていった。
人々はいるのに、何の音も響かなくなった。
少しずつ、感じていた風も吹かなくなった。

 青白い月が嘲笑うように空で輝く。
 ワタシの影を、映すことなどなく。
 月の青い光が映すのは、ただの闇。

 どうしてか、ワタシは動けない。
 いや正しくは……『動きたいと思えない』。
待ち続けて祈るだけなのなら、自ら動いて迎えに行けばいいはずだ。
けれどもそれを実行する気になれない。
どうしてかは、忘れてしまった。

 ――探して、待ち続けていた筈なのに、いつの間にか失っていた――

 いくら待てども、戦友はワタシの前に現れることはなく。
ワタシはただ、恋した彼に託された、この剣を手に祈るだけ。

 けど、あぁいつからかな。
気付いたよ、気付いてしまったよ。
視界に映るモノは色褪せているのではなく、ワタシの目が色を認識できなくなっているのだと。
音が響かないのではなく、ワタシの耳が音を拾うことができなくなっているのだと。
風が吹かないのではなく、ワタシ自身、もはや何も感じることができなくなっているのだと。

 この場から動きたいと思えないんじゃない。
 既にもう、この場から動くことは叶わない。

――ワタシは、思い出す――

 手を、左胸に当てる。

 わたしノ心臓ハ、モウ動カナイ。
 鼓動ナンテ、刻ムコトハナイノダ。

――そして、時は止まる――

 頬には柄じゃない涙が、つぅ、と伝う。
 声なんて、もう出る訳がない。
 というより、もう何も出来ることはない。
 たった一つだけ出来たのは、恋した彼の『形見』を、少しだけ強く握りしめることだけ。

 月は相も変わらず、ワタシの影を映すことない。

 
 やがてワタシは、何かを喪った。


――理由など、消え果た――

――彼女に、安らかな眠りを――



・あとがき
何があった。何かがあったんだ。
本当に久々の更新がコレだぜ……。
元ネタはボカロの曲、「時忘人」です。
多分死んだのはアウアじゃないかなーって思ってたり(



異次元三滅亭物語

正月料理 碌滅帝による超次元羽根つき


「これから三滅亭による羽根つき大会をしようと思う」
「どういう訳だよ」
「というか僕達がいる時点で『三』滅亭じゃないと思いますよ」
「私もそう思うな」
「おまいら、もっとまとまった会話をする気はないのか」
「「「「ない」」」」

どうしてこうなった。
紅の髪に同じ色の眼を庭の片隅に向けながら、青年……ディスティルはマリアナ海溝よりも深いため息を吐きました。
吐きだされた息は白く色付き、今が冬であることを実感させます。実際に冬ですけどね。

彼が何故この場所にいるのか。それは至って簡単な理由でした。
彼の創造主が『逝ってきてー!』と放り出したからです。
他の五名もほぼ同じような理由でここにいます。彼ら彼女らはそんな存在の人々なのです。

「そんな存在とか言うな。塵になりたいのか」

すみません冗談です。

「レル……、たまに別の次元の奴と話すのは止めろ。抗い様がない」
「済まない」
「本当ですよ……」

先程私にツッコミを入れたのは、踝まで届くほど長く頭から一房だけ飛び出した白髪の彼女、レルヴァニカ。
そこにツッコミをねじ込んだのが、紅髪に同色の瞳でかなり中性的な青年、カプチリオ。
呆れた様子で眺めたのは、若草色の髪で背に矢筒を背負った少年、ルーフ。

「それより早く説明してほしいな」
「そうだそうだ、早くしろ」
「貴様ら……」

会話をぶった切って催促し始めたのは、ルビーがはめ込まれた星形の髪飾りが付いた跳ね気味の黒髪にエメラルドの瞳を揺らす少女、リィ。
彼女に便乗して声を上げたのは、黒の髪と目でどこかイケメンな青年、デウス。
彼らの目には「歓喜」と「興味」が混ざったようなヤバイ光が見えています。
正直、やばいです。その、すごく。

「……では、説明するぞ。何故羽根つき大会が行われるのかというのは、すでに分かりきっているであろうから省く」

急かされたレルヴァニカは、コホン、と咳をしてから羽根つき大会の所要を説明し始めました。
その内容は、以下のようなモノでした。


・三回打ち合って、二回玉を落とした方が負け。
・玉を打つのは羽子板ではなく、各自の武器で行う。
・移動速度等の時間系能力、自己強化は失格。だが、玉に技付属と相手を妨害するのはオッケー
・羽根つき用の玉で打ちあいをし、勝った方は負けた方の顔に思い切り墨で落書きが出来る。
・妨害の範囲は身体精神含め三分二殺しまで。殺すのは失格。
・サレンダー(降参)は認められる。


「ちょっと待ってもらおうか」

所要を完全に言い終わり、一息ついたレルヴァニカにカプリチオからのツッコミが入りました。

「……鎖でどうやって玉を打ち返すんだ!?」

そのツッコミは実にシンプルなモノでした。
そう、彼の武器は紅い紅い鎖なのです。
自由自在に扱えるとはいえ、それで玉を打ち返すというのは些か無茶です。
彼風に言えば、鬼畜&無理ゲーです。

「気合で打ち返せ」
「よかった……、サブで刀持っててよかった……!」
「もうどうでもいい……」
「何とかなるんじゃないかな?」
「だったらサレンダーすればいいじゃないですか」

が、碌滅帝の人々に『情け』という文字を、自分の辞書に書いている人はいませんでした。
『同情』という文字を書いている人は多いのですが。

「冗談だろ……?」

結局、カプリチオのツッコミという抗議はあっけなくスルーされてしまいました。
これぞ、三滅亭クオリティ。
対処法はただ一つ。

潔く、諦めましょう☆



かくして、三滅帝……もとい碌滅帝による羽根つき大会が始まりました。
対戦相手は、レルヴァニカが用意した、通称『くじ引きボックス』によって以下の通りとなりました。

・デウスvsルーフ
・レルヴァニカvsリィ
・カプリチオvsディスティル

ついでにジャンケンも行い、玉を始めに打つ人も決められました。
打ち始める人はデウス、リィ、ディスティルです。
では、まず一番上の戦いから見てみましょう。



・デウスvsルーフ戦

「よろしくお願いしますね」
「正々堂々やるぞ」

お互いに握手をしてからスポーツマンシップ溢れる台詞を吐いて、規定の位置につく二人。
デウスが構えたのは赤と黒の刀と、羽根つきの玉。
それに対して、ルーフは何も構えません。背に矢筒を背負ったまま、涼しげな顔をしています。

「……なぁ、ルーフの武器って何だ?」
「弓じゃなかったか? つーか寒い」
「焚き火はどう? 燃やす物はこれでいいわ」
「おい、始まるぞ。リィ、我の分体に火を付けるな熱い」
「残念ね、私はレイよ」

観戦している人々が口々に言い合いながら、デウスとルーフを見守ります。
問題発言が混じっていますが、気にしたら負けです。何に対して負けるのかは永遠の謎ですが。

「……ゆくぞ!」

ルーフが何も構えないのを訝しみながら、デウスは羽根つきの玉を高く放り投げ、刀の背で打ちこみました。
当然ながら、刀の力を受けたそれは一直線にルーフの元へ。

そして、ルーフの顔面に玉が叩きつけられる、と誰もが思った瞬間でした。


ヒュンっ、と風を切る音。

次の瞬間、デウスが打った玉は、デウス自身の後ろにあった料亭の壁にのめり込みました。

「……は!?」

恐らくこの場にいた者で一番驚いたのはデウスです。
何せ、自分が打ちこんだはずの玉が、一瞬後に自分の後ろの壁にめり込んでいるのですから。
さらに、違和感を抱いた頬に触れると、赤い血がタラリと垂れているのが分かります。

「意外と遅いですね、貴方」

ぎぎっ、と錆びついたような動きしかしない首を無理やり前へ戻すと、対戦相手のルーフは世にも恐ろしい黒い笑みを浮かべていました。
が、デウスを驚愕させたのは、それだけではありませんでした。

「何だその手!?」
「武器ですけど」

何を今更、といったふいんき(何故か変換できない)で聞き返すルーフ。
彼の手はいつの間にか、大木へと変化していたのです。
そう、ルーフはこの手でデウスが放った玉を打ちかえしたのでした。剛速球で。

「おい、あれはアリなのか!?」
「アリだ。アレで殺戮が出来るからな。そして熱い。誰か我の分体を焼くのを止めさせろ」
「くすくす……、本当は止める気なんてさらさらないのでしょう?」
「血が出ないのが残念だなー。そしたらもっと楽しいのに」
「誰か、影姫が来てることに突っ込んでくれ」

傍観していたカプリチオは慌ててレルヴァニカに尋ねます。
しかし返って来た答えは何だか微妙な上、観戦席となった場所がカオスなことになっていました。
状況は上記の会話から推測して下さい。
いつの間にか、艶な黒髪に美しい着物を着た和風美人の影姫が乱入している事しか説明できません。

「さぁ次のを打って下さい。僕も早く帰りたいんです」

ガタガタと震えるデウスを、蔑みの目で睨みつけたルーフ。
たとえ、初代三滅帝でも耐えがたい殺意と腹黒さを見せます。
一般人ではドMでない限り耐えられないでしょう。恐らく、多分。

「……分かった」

震えを止め、デウスは刀と羽根つきの玉を構えた、と観戦者全員が思ったときです。

「サレンダー! サレンダーするから勘弁してくれッ!!!」
「「「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」

ぽいっ、と構えたモノ全てを放り投げて、デウスは土下座をしました。
その様はどこかのクラン・ベルの四英雄の一人、三下狼娘を思い起こさせます。
彼は狼ではなく山羊ですが。


「分かればいいんですよ分かれば」


かくして、デウスvsルーフ戦は、デウスの降参によってルーフの勝ちとなりました。


「くすくす……。デウス、無様に負けちゃって。……後で覚悟しなさい?」


ちなみに、デウスの主人である影姫がこの場にいることに、本人はまったく気づいていないのでした。
合掌。



・レルヴァニカvsリィ戦

「レルって本当に本なのね」
「貴様……、よくも我の分体を……!」

先程の二名と違い、全く噛み合わない台詞を吐きながら、碌滅帝の紅二点は握手すらせず規定の位置に立ちます。
しかし、踝程もあったレルヴァニカの髪は肩口ほどまでになっている上、右腕の一部がまるで燃え尽きたかのように無くなっています。

何があったのでしょうか。
理由は簡単です。

デウスvsルーフの試合を見ている間、『寒いから』という理由でリィ……いや、彼女の裏人格の『レイ』がレルヴァニカの一部を燃やしてしまったのです。
正しくは一部ではなく、通称『黒ノート』と呼ばれる分体です。本体ではありません。
『黒ノート』というと、魔法学校のトラウマ量産工場と呼ばれる、茶髪の彼女を思い浮かべるでしょう。
しかし、彼女が使っているノートとはまた別の黒ノートです。あしからず。

「……あれっ、デウスさんはどこに逝ったんです?」
「ルーフ君無自覚にミステイクしてるから。デウスならさっき影姫に引っ張られて逝ったぞ」
「カプリチオまでミステイクしてるじゃねーか! ここにまともなツッコミはいないのか!?」
「「多分いない」」

そうなのか。ルーフはともかく、カプリチオ、お前もか。
ディスティルは悲しい気持ちになりながら、影姫が置いていった緑茶をすすります。
お、茶柱立った。今年くらいは良い年であって……欲しいな。無理そうだけど。
そんな複雑な心境を抱きながら、彼は湯呑を置き、紅二点の二人の方を向きました。

「アハハッ! どう!? 食らいな!!」
「一々うるさいぞ!!!」

カンッ、カキッ、ダンッ!
ディスティルが彼女らを見たときには、既に打ち合いが始まっていました。
レイの武器は身の丈ほどもある大鎌、レルヴァニカの武器は他の次元の文字が刻まれた短剣です。
武器を見るだけなら、幅も大きさもあるレイが有利です。
が、レルヴァニカは対等なスピードと威力で玉を打ち返しているので、五分五分といったところです。

「あっ!」
「よっし!」

まずは一回目。落としたのはレイでした。
手が滑り、鎌の切っ先が玉に届かなかったのです。

「最初の威勢の良さはどうした?ン?」
「やっかましいよ!」

そして、息を付く間もなく二回目の打ち合いが始まりました。

ザンッ!
「……チッ」

次に玉を落としたのは、レルヴァニカでした。
コレも理由は簡単です。
レイが玉を返す際、地面の草を同時に刈り取って巻き上げ、レルヴァニカの視界を封じたからです。

「小癪な……!」
「コレでイーブン! 血祭りに上げてやるわ!」

「……これ、もはやラスボス同士の闘いと化してないか?」
「何を言ってる。 実際私たちはラスボスじゃないか
「デスヨネー」

もう諦めた。早く終わってくれ。
ため息しか吐けなくなり始めたディスティルの思いをくみ取ったのか、三回目の打ち合いはすぐに終わってしまいました。

スカッ。ゴンッ!
「えっ……、おあっ!?」


レルヴァニカの短剣が空を切り、打ち損なった玉が、彼女の眉間に直撃したことによって。

「私の勝ちね!」
「って、レルーーーーーーー!?」
「……気絶してますね」
「だから無理はするなと言ったのに……」
「デウス……、お前さん、いつ戻ってきた。言ってないだろうに」
「バレたか」

碌滅帝が口々に言い合っていても、仰向けに倒れたレルヴァニカは起き上がりませんでした。
誰かが言った通り、完全に気絶しているようです。

「取り敢えず、私の勝ちよね。気絶してるから」
「そうだな。お疲れさん」

レルヴァニカvsリィ(レイ)戦は、一対二でリィ(レイ)の勝ちとなりました。



・カプリチオvsディスティル戦

「ついに私たちか……」
「悪い、オレは例え可哀相でも容赦しない」

規定の位置に立ち、碌滅帝最後の良心(片方暴走中)はため息混じりに吐き捨てました。
ディスティルが構えたのは玉と槍。そして、カプリチオが構えたのは例の鎖です。

「ねぇねぇ、アンタどっちに賭ける?」
「常識的に考えればディスさんでしょうね……」
「私は血が舞えば何でもいいわ」
「いや、案外カプちゃんかもしないぞ?」

気絶してしまったレルヴァニカを介抱しながらデウスはレイ、ルーフに呟きます。
こうして見ると、案外絵になっています。本人の耳に入れば、恐らく私はぶっ飛ばされるでしょう。物理的に。

「よし、逝くぞ」
「ディス、ついにお前さんもミステイクの仲間入りか」
「オレをディスと呼ぶなぁああああああああ!!」

スパンッ!と小気味のいい音を出しながら、ディスティルは玉を槍で打ち込みました。
素晴らしい剛速球です。

「不意打ち反則!!」
「ちょっ!? 打てたのか!?」

キィッ!と甲高い音を立てる鎖を振るい、カプリチオはギリギリのところで玉を打ちかえしました。
そのお陰で、「鎖で羽根つきが出来るはずがない」と内心でタカを括っていたディスティルは反応が遅れ、玉は彼の背後に落ちてしまったのでした。

「打てるんですね……鎖でも」
「やっと裏が……。って、すごいんだね」
「ほらな?」

さりげなくデウスがドヤ顔をしていますが、さりげなく裏人格から戻ったリィを含め、気にする者はいませんでした。
合掌。あまりにも可哀相なので追加しました。

「くっ……油断した……!」
「私だってやる時はやるんだ。それに落書きだけは嫌だ」
「それはオレもだ」

ディスティルは苦笑し、二回目の打ち合いが始まりました。
今度は油断することもなく、永い長い打ち合いが続きます。
カプリチオがフェイント交じりに玉を打てば、ディスティルは見切って打ち返し。
ディスティルが玉に技を付属して打てば、カプリチオも同じく技を付属して返す。

しかし、そんな打ち合いにも、やはり終わりが来ます。


(このままじゃ平行線だな……)

一瞬たりとも気の抜けない攻防の中、ディスティルは次の一発で決めようと決意します。
このままではただの持久戦となり、負ける確率が時間と比例して大きくなっていくからです。

(よし……!!)

玉をカプリチオに打ち返したあと、呼吸を整えます。
槍を構え直し、返って来た玉に神経を集中させ―――

ザンッ!
「ッ!?」

ようとした瞬間、彼の目の前を何かが横切りました。
敵か! と即座に判断し、思わずそちらに視線を向けます。
しかし、視線の先に合ったのは、一本の地面から生えた紅い鎖。

「何処を見ているんだ?」
「しまっ……!」

紅い鎖はカプリチオの武器だ。
ハッとしたとき、玉は無情にも彼の足元に転がっていました。
そう、カプリチオはディスティルが勝負に出ようとするのを感じとり、操る鎖の内の一本で彼の妨害をしたのでした。
目の前に何か横切れば、無意識に気を取られてしまう。
カプチリオは、そういった人間の形をした者の弱点を、最低限の動作で貫いたのでした。

「くっそぉ……」
「良い戦いだったな」
「……認めたくないけどな」

ディスティルはがっくりと肩を落とし、しょうがない、といった表情で言いました。


カプリチオvsディスティル戦は、見事カプリチオの勝利で終わりました。



・その後(負けちゃった組)

「おい……、レルヴァニカ、お前今なんて言った?」
「だから、今から25時間。この落書きは消えないと言った
「冗談だろ……!?」

三(碌)滅亭の一角にある洗面台の前で、男二名は絶句していました。
二名というのは、さっきの羽根つき大会で敗北してしまったデウスとディスティルです。
彼らの顔には、真っ黒で独特の香りを漂わせる墨によって、様々な落書きがされています。
落書きの内容は、あまりにも可哀相なので皆様の想像力にお任せします。

さて、何故彼らが絶句、もとい絶望しているのか。
それは、同じく顔に墨で落書きをされたレルヴァニカの突然の発言の所為でした。

「さらに言おう。我の人としての採点は0点だ」
「それは全く関係無いだろ!? しかも昨日やったやつ!!」
「……アハハッ」
「レルヴァニカ……、お前も現実逃避か」

笑い、どこか虚ろな目で明後日の方向を見るレルヴァニカは、珍しく泣きそうな顔をしていました。
デウスは哀れみと同情を抱きながら彼女を見ましたが、ディスティルは気にせず、「これじゃ帰れねーな…」と頭を抱えました。

「……来年は勝ちたい」
「俺は来年こそ、サレンダーしない」
「そうだな……って待て。来年もあるのか!?」
「気が向いたらやるらしい」
「うわぁ……。なら、呼ばれたくは無いが、もし呼ばれたら今度こそ勝ちたいな」
「頑張るか」
「あぁ、そうしよう」

こうして彼らは、三(碌)滅亭の一角にて、決意を新たにしていたのでした。



・その後(特に問題無し組)

「雑煮美味しいですね」
「おせちうまいな」
「本当?」

デウス、レルヴァニカ、ディスティルが決意を新たにしている頃、打ち合いに勝利したルーフ、リィ、カプリチオは、三(碌)滅亭のメインルームにて正月料理を食べていました。
ルーフは雑煮、カプリチオはおせち、リィはミカンです。
あれっ、一人だけ正月料理ではありませんね。

「今回の羽根つき、意外と楽しめたな」
「そうか?」

カプリチオが薦めたおせちをつつきながら、リィはぽつりと言いました。

「私としてはあれだな、デウスのサレンダーが傑作だった」
「そうですか? あれってただ情けないだけなんじゃ……」
「うーん……、でもカプリチオもいい戦いだったよ。よく鎖で打てたね」
「僕もそう思いました」
「結構必死だったぞ? ったく、レルのやつ。無茶振りしなければこんなに苦労しなかったのだが……」

はぁ、とカプリチオは重いため息を吐きました。

「諦めた方がいいのでは? どうせ今年もいろいろあるのでしょうし」
「そうだね。今年も絵をたくさん描けるといいな」
「私は……、コスプレはもういい
叶わなさそうな願いですね
「ルーフ君酷いぞ」
「とりあえず、今年もよろしくね」
「あぁ、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」


そうして彼らも、三(碌)滅亭のメインルームにて、今年への決意を新たにしていましたとさ。



皆さん、今年も良い年でありますように☆





・あとがき
やっと書き終わったよ!!
ナマコさんからカプさん、雪嘩さんからデウスさん、セレさんからディスさん、炬燵さんからリィ&レイさん、ラクスさんからルーフさんをお借りしました!
いやぁ、6名はキツイ。ほぼ台詞のみで申し訳ないです;;

今年もいろいろ頑張りたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!