――ワタシは、永遠に待ち続ける――

 辺りにはちらほらと、まるで語られる天使が持っている羽のように軽く、石畳に白い雪が重なっている。
王国でも比較的に大きいために、寒さを防ぐ厚着をしながら、大勢の人間が行きかう街。
 かつては国境に近いという理由で奇襲の標的にされることもよくあることだった。

 しかし、思考を思考に重ね、思考を思考するワタシが認識する人間は誰一人としていない。
背にした壁に真新しい人間の血液が散らばり、その前でワタシがずっと、錆びついた一振りの剣を手に祈りを捧げているからだ。
 誰も認識しないほどに、何を祈るのか。
 非常に簡単なことだ。

 ――戦友(とも)が、早く帰ってきますように――

 戦友の無事。
 たった、たったそれだけなのだ。

 彼等彼女等はまだ、枯れ果て炎が飛び交う大地を踏みしめて、剣を、刃を、振っているのか。
 彼等彼女等はまだ、風が吹くことを止めた大地を駆け抜けて、力を、命を、振りかざすのか。
 彼等彼女等はもう、戦などとっくの昔に止めた世界を見つめ、散り、涙を世界の贐にするのか。

 待ち続けるワタシには、知る由もなく。
いつの間にか、視界に映るモノは色褪せていった。
人々はいるのに、何の音も響かなくなった。
少しずつ、感じていた風も吹かなくなった。

 青白い月が嘲笑うように空で輝く。
 ワタシの影を、映すことなどなく。
 月の青い光が映すのは、ただの闇。

 どうしてか、ワタシは動けない。
 いや正しくは……『動きたいと思えない』。
待ち続けて祈るだけなのなら、自ら動いて迎えに行けばいいはずだ。
けれどもそれを実行する気になれない。
どうしてかは、忘れてしまった。

 ――探して、待ち続けていた筈なのに、いつの間にか失っていた――

 いくら待てども、戦友はワタシの前に現れることはなく。
ワタシはただ、恋した彼に託された、この剣を手に祈るだけ。

 けど、あぁいつからかな。
気付いたよ、気付いてしまったよ。
視界に映るモノは色褪せているのではなく、ワタシの目が色を認識できなくなっているのだと。
音が響かないのではなく、ワタシの耳が音を拾うことができなくなっているのだと。
風が吹かないのではなく、ワタシ自身、もはや何も感じることができなくなっているのだと。

 この場から動きたいと思えないんじゃない。
 既にもう、この場から動くことは叶わない。

――ワタシは、思い出す――

 手を、左胸に当てる。

 わたしノ心臓ハ、モウ動カナイ。
 鼓動ナンテ、刻ムコトハナイノダ。

――そして、時は止まる――

 頬には柄じゃない涙が、つぅ、と伝う。
 声なんて、もう出る訳がない。
 というより、もう何も出来ることはない。
 たった一つだけ出来たのは、恋した彼の『形見』を、少しだけ強く握りしめることだけ。

 月は相も変わらず、ワタシの影を映すことない。

 
 やがてワタシは、何かを喪った。


――理由など、消え果た――

――彼女に、安らかな眠りを――



・あとがき
何があった。何かがあったんだ。
本当に久々の更新がコレだぜ……。
元ネタはボカロの曲、「時忘人」です。
多分死んだのはアウアじゃないかなーって思ってたり(