・少女視点


 何だろ。変な位に、気分がいい。
こんな感じになったのはいつからだっけ? よく分かんないや。
とにかく気分がいいんだ。
今なら、ここから飛べそうな気すらする。 
 ここは、廃ビルの屋上。
縁に有るはずの柵は、所々壊れて無くなってる。ずっと前に建てられたみたいだ。
で、あたしが立っているのは、後一歩踏み出したら地面に堕ちる場所。つまり屋上の縁。

 ……もう一回思うけど、今なら、地面に堕ちずに飛べそうな気がする。ううん、飛べる。絶対飛べる。

 だから、飛んでみようかな?

 背に優しい風を感じる。暖かい。あぁ、後押ししてくれるんだ。
そのまま、あたしの翼になってくれるんだ。綺麗な色だと、いいなぁ。
視界の端に黒い髪。長くなったなぁ、なんて苦笑を浮かべてみる。
すぅ、と息を吸って。

 さぁ、息を止めて、一歩。

 蒼くて、綺麗な空に、飛ぶんだ---


「……ぃ、………おーい」
「………ぅん?」

 あれっ。
 目を開く。
……飛んで、ない。落ちて、ない。
廃ビル、じゃない?

「お前さん、大丈夫かー? 顔赤いぞー」
「ここ……どこ?」
「は?」

 降ってきた声に視線を上げると、苦笑いを浮かべる暗い茶髪の……

「……いくす?」
「あぁ、そうだが」

 ここまで確認して、違和感。
何で飛んでないんだろう。
何でイクスがいるんだろう。
 ふと、視線を下げて自分の様子を確認してみる。
……何故か木製の机に突っ伏してる。ついでに机の上には、薄い琥珀色の液体が入った透明なコップが置いてある。
他の所に視線を動かすと、見慣れた風景。

「………ここ、リビング?」
「そうだが……、さっきからどうした。寝ぼけてるのか?」
「ねぼけ……?」

 再び降ってくるイクスの声でようやく分かった。
 さっきの廃ビルから飛んだのって、夢だ。あたし、今まで寝てたんだ。
でも、気分がいいのは変わらない。頭はぐらぐらした感じだけど、別に何も感じない。何でだろ。
 
「お、おい、ルライト……?」

 ぼぉ、っとしていたからなのか、イクスが心配そうな声であたしの名前を呼ぶ。
なんでそこまで心配するんだろう。多分寝ぼけてただけなのに。

「だいじょうぶだよぉ、いくす。ひょっとねてた」
「…………おい?」
「どーしたの?」
「いや、おま……大丈夫か?」

 重い頭を上げてちょっと笑うと、イクスは訝しげにあたしの額に指先を付ける。
冷たくて気持ちいい。触れられた所から冷たさが身体中に伝わっていく感覚も気持ちよくて、そっと目を閉じる。
そのうち、イクスが指を離してしまって冷たくなくなった。残念だから、目を開く。

「お前、………熱あるぞ」
「………………んー」
「んー、じゃないぞ!?」

 イクスの言葉を右から左に流すと、何か慌てられた。そこまで心配しなくていいのになぁ。

「よしわかった、医務室逝くぞ」
「いくすー、ごじ」
「知ってるか? 誤字ってミステイクワーズとも言うんだ」
「しらない……」

 ちょっとだけメタフィクションな話のあと。

「立てるか?」
「たぶんー……。……う、わっ」
「ちょ、おいぃ!?」

 立とうとしたら、床がふにゃっと曲がった感覚がして、身体に力が入らないまま倒れる。
……かと思ったら、イクスが受け止めてくれた。
 あぁ、何時もと違って、イクスの体温が低くて冷たい。でも何だろう。やっぱり優しくて、冷たくても気持ちいい。
今度は離れて欲しくなくて、服の袖を掴む。
 不意に、上からため息が降ってきた。

「お前……、酒飲んだな?」

 おさけ?

「のんでないけど……」
「バレバレの嘘吐くな。思いっきり机に置いてあるだろ」

 上を見上げ、イクスの視線の先を見ると、薄い琥珀色の液体が入ったコップ。
……あれって。

「じゅーすじゃないの?」
「どう見ても違うだろ。つか呂律が回ってないぞ」
「そうなんだー……」

 同室のロコナがくれたのはお酒だったらしい。イクスに言おうかと思ったけど、どうでもよくなって止めた。
頭がぼんやりしてるのはそれの所為かな。

「よろしい、ならば医務室だ」
「いくすー、それってせんそうじゃないの?」
「何で知ってるんだよ」

 メタフィクションな話。イン二回目。
イクスもお酒飲んだんじゃないかって聞いてみたくなった。

「とにかく医務室だ。動けるか?」
「……むりー」
「だよなー、俺もそうだと思ったわ」

 じゃあ何で聞いたの、と突っ込む前にもう一度椅子に座らされる。で、一歩離れられる。
服を掴む手は、いつの間にか外されていた。
 置いて……いかれる? 
あ、そういえばイクスは今日お仕事だって聞いた。確かイクシオンから。

「……いくの?」
「は?」
「あたしを……おいて、おしごといくの?」

 言葉にしてなぞると、悲しくなってくる。
あんまり引き止めちゃいけないのは分かってるけど、やだなぁ。

「あ、い、いや……今日仕事ねーけど。いや、仕事あっても置いてはいかない」

 だからイクスのこの一言は、とても嬉しかった。

「ほんとう?」
「あぁ」

 一応、真偽確認。
多分本当みたいだ。

「さて、ルライト」
「なぁに?」
「今度こそ医務室逝くぞ」
「えー」
「えー、じゃない」
「いー」
「発音を変えればいいってもんじゃない」

 文句を言うと、苦笑いのような困り果てたような顔をされる。
だってお酒飲んじゃっただけなら、医務室行かなくったっていいじゃんか。
酔ってないんだし、ちょっと心配症過ぎるよ。

「べつによってなんかないもんぅ……」
「いや酔ってるから。普段の口調とか全部ログアウトしてるからな?」
「よってないもん……」
「酔っ払いは皆そう言うんだよ」
 
 やれやれ、とイクスは前置きして、何故か笑う。
 満足そう、よりは何か……吹っ切れた?

「ぎゅーでもすれば大人しく医務室行くか?」

 ………。
 こういうの、ちょっとズルい気がする。
あ、いいこと思い付いた。
 たまには、反撃だってしたい。ううん、してみたいから。

「ぎゅー? ……ちゅーじゃないの?」
「えっ」

 何だろ、自分でも何言ってるのか分かんなくなってきた。
あたし、何を思い付いたんだろう。もう勢いでもいいよね知らない。
 意味もなく机に手を付いて立って、何となく笑ってみる。

「ぎゅーよりちゅーがいい……な」
「………仕方ないお姫様だな」

 ………………え?
 はっとしてイクスの顔を見る。あ、珍しく照れてる。
 
 でもあの、顔、近付いてないですか?

「あの、ちょ、いくす、」
「お前が言い出したんだからな?」

 あ、やばい本気だ。
 そう思ったときには、ふわっと浮遊感。抱きかかえられてるみたいだ。
誰に、って、もちろんイクスに。

「お前を置いて【は】いかない」


 但し、攫って行きはするけどなっ! あと写真班うぜぇ!!


 イクスの爆弾発言と、そのままリビングの窓をブチ破って外に出たのは殆ど一緒だった気がする。
 あと、後ろから数名の残念そうな叫び声が聞こえたのは、無視したいですごめん。

「………まぁ、攫ったところで何もしないけどな」
「えっ、ちゅーは?」
「しねーよ。……やっぱ医務室逝くぞ」
「えーやだなぁ。いくすといっしょにいたい」
「じゃあいつもの川辺でも行くか」
「やったぁー!」

 いつもより低い体温のイクスに抱きかかえられたまま、川辺に行くことになった。
すっごい嬉しい。やっぱり、大好きだなぁ、なんて。

 こんな幸せが、何時までも続いて欲しい。ううん、続いてくれますように。

 そんなことを考えていたら無意識にイクスの服を強く掴んでいたらしく、「子供みたいだな」と言われた上でちょっと笑われた。

 でも、それでも、幸せです。





・あとがき

ごめん力尽きたわ(ぁ なっさんからクロさんお借りしましたー。
きっつい。あっまい。リア充爆ぜろ主に幼い方。補正で殺ろうにももう多すぎて設定矛盾起こすんだよ!!くっそ!!
あと写真班視点は……ごめん、だれか頼んだ。








クロさん風るーちゃんを描こうとしたら大変なことになった件。

誰かリメイク……してくんないかな(チラッ

 彼は、マズそうに皮の剥かれた林檎をかじる。

「つまらない」
「……何がだ」
「人生」

 そこがどこだったか。既に薄れてしまった記憶に残っていたのは、薄暗かったということだけだった。
琥珀のような色の長い髪を、ぞんざいに結わえた彼は動かない。
 己の喉元に、血塗れた刃が押し付けられていても、だ。

「……抵抗、しないのか」

 人を殺すことに慣れた筈の幼い黒髪の少女は、一瞬、刃を押し付けていることに抵抗を感じたが、言葉を絞り出すことで抵抗を薄れさせた。
彼女は今、短剣の刃を押し付けている彼を殺そうとしている。
 けれども、ただ殺すだけの対象に興味を持ったのはこれが最初で最後だったことを、彼女は知らない。

「死は平等な救いだ」

 林檎をかじるのを止め、問いには答えず彼は語り出す。

「生を全うしている間、人間はみな強欲になる。いっそ醜い位だ。……だが俺たちはその醜さを平然と受け入れている」

 語る彼の瞳がどんな色をしていたか、少女は覚えていない。

「人間なんぞそんなもんだ。だが、深層を知る俺にとっちゃ、『人生』なんぞ只のお飯事のしか見えねぇ。滑稽さに気付いたらはいお仕舞い、っていうのが出来ない分キッツイし醜いけどな」
「ま、そこを肯定という名の観て見ぬ振りで誤魔化すのが今の世界だ。……救済? くだらねぇ。世迷い言を信じられる位強くねーし」

 だが、言葉に酷いくらいの魅力を覚えたのはよく覚えていた。
頭が酩酊に襲われたかのようにくらくらし、思考が安定しない。短剣を握る手が緩み、刃を押し付ける力が弱まる。

「なぁ……どうだい、お嬢さん?」

 彼女は、彼に魅了されていた。
いつの間にか、青年が喉元に触れる短剣を力の抜けた少女の手から取り上げ、触れてしまうのではないかと錯覚するほどの間近に立っていた事に疑問を抱かない程に。

「……、な、にが」

 疑問はすぐに驚愕へと形を変え、結果として少女を後方へ飛び退かせる。
だが、それでも青年は語るのだ。

「キミの人生、楽しいか?」
「………は、」

 愚問だ。
 驚愕を押し殺した彼女は鼻で笑い、一蹴する言葉を叩きつけようとして、動作を止める。
 人生を楽しもうが、楽しまなかろうが関係ない。死ななければいい。
少女にとっては関係のない事。
しかし、青年の言葉に耳を貸してしまった彼女は思考してしまう。

(人生が只のお飯事なら、ワタシの人生は………)

 ワタシの人生は、何なんだ?


「答えは?」

 彼女が思考しているのを知ってか知らぬか、再び歩み寄って彼は促す。
はっとして少女が俯き気味になっていた顔を上げると、目前には取り上げられた短剣の刃の切っ先。
数ミリでも顔を動かせば、少女の顔に赤の塗料で線が引かれるだろう。
 彼女はそれを理解していない訳ではない。が、彼や人間を殺すためだけに存在する少女は、応えるための答を持ち合わせていなかった。

 数分に及ぶ沈黙。
破ったのは青年だった。

「……無いなら別にいいや」

 カラン、と彼は短剣を地面へ放り投げ背を向ける。
 その様を見て我に返った彼女は、まて、と声を上げた。

「『終末騙り(エンディング)』、お前の名前、何なんだ」
「は?」
「だから、二つ名じゃない方の名だ」

 彼らが属する組織、ルナヴィアース国家軍にはいくつもの暗黙の了解が存在する。
そのうちの一つ、『互いの名を詮索しないこと』を進んで破ろうとすることに対し怪訝そうな表情を浮かべるが、背を向けたままのために少女は気付かない。

「お前が先に言えよ。わざわざ暗殺しに来たんだからな」
「……『裏切り殺し』、アレス=ロスト」

 皮肉に動じず名乗った物騒な二つ名に「あぁ、なる程」と呟き、彼は己の名を語った。


「俺は『終末騙り(エンディング)』、グラッジ=ミットライトだ」


 じゃあな。
 あぁ、またどこかで。

 短く言葉を交わし、彼と彼女は背を向け、それぞれの方向へ歩き出す。
片方は逃げるため。
片方は任務の失敗を告げるため。


ーーーこれが恋だったことを、彼と彼女は知らないーーー




・あとがき
アウアが暗殺しようとしたら逆に惚れちゃった話(
授業中クオリティだぜひゃっはーう!
どうでもいいけど、自分らしいフラグワード探索なう、というか募集中(←