シーン31 クリーニング店、 ビアホールで
В химчистке. В пивной.
若い頃はパン工場で働いていたリューダは、今はクリーニング店の引き渡し係(リューダの後ろにвыдача(引き渡し)の文字が見えます。受け取りはприём)。
Женщина: Ой, девушка, пятно! Смотрите какое!
Люда: Эти пятна не отчищаются!
Аккуратней носить надо!
女性: あー、店員さん、シミが! ほら、見て!
リューダ: これらのシミは取れません!気を付けて着なくては!
この会話はソ連時代のすさまじいサービスの悪さを表していて秀逸です。
クリーニング済の洋服を受けった女性はシミпятно(単数)と、具体的にシミが落ちていないところを指してクレームを言っています。
それにリューダは堂々と「いろいろなシミがあるが、どのシミもクリーニングでは取れない」という意味で、シミを複数形пятнаで使っています。後の、「気を付けて」というフレーズは、「シミを付けたあんたが悪い!それをクリーニングで落としてもらおうなんて、それはないよ」という含みです。
以前にも書いたように、単数と複数の使い分けは難しいのですが、こんなふうに教えてもらうと、「なるほど!」と少しずつ分かっていけそうですね。
Слушай, Ёжик, я сейчас себе такие потрясающие туфли выписала и
сумку с большой пряжкой!
ね、ヨジク、わたしね、すばらしい靴と、大きなバックルのついたバックを、
取り置きにしたの!
様子の良い中年の軍人に昔のように思わせぶりなそぶりをするリューダ、そこにヒョコヒョコとユーモラスに軍人の妻が現れて、夫に言う会話です。
выписалаは、商品の注文を出したという意味で、お金を払うまで取り置きを頼んだのです。今はカードや電子マネーがあり、「商品のお取り置き」は死語でしょうか。全てが現金払いだった頃のソ連時代では、「商品の取り置き」は、だいたい1時間だったそうです。1時間たっても注文主が現れなかった時には商品はまた棚に戻されました。
Ёжик、ハリネズミちゃんというのは、珍しい愛称です。
この軍人はСергейという名前で、それがСерёжа→Рёж →Ёжикと、なったのかもしれません。
子供用の「音の出る絵本」、右のアルファベットを押すと、
「ヨーヂク」と声が出て、楽しいです!
ビアホールで
Мужчина: … По кружечке? ジョッキで?
Парень: А может, водочки? ウオッカも?
グーリンは朝からビアホールです。ソ連時代пивнаяは、ホワイトカラーは立ち寄らない安酒場、昼日中からアル中に近い人がたむろする場所というイメージだったそうです。
それで、北海道にたくさんあるビアガーデンは、пивнаяではなく、
пивной ресторанと言った方が良いと教わりました。
これに似たことで、話は飛ぶのですが、露天風呂は、ванна под открытым небом (野外の風呂)といいますね。ある時、若いロシア人たちがこれをуличная ваннаと呼ぶのを聞いて、「簡単でいいかな」と思ったのですが、уличная ваннаは、уличная женщина(売春婦)やуличный мальчик(浮浪児)を連想させるので使わないように注意を受けました。
ネィテヴが使っていると、なんでも真似してしまいがちですが、外国語を軽々しく扱ってはいけないと痛感しました。
ビアホールの男性たちは、本当にアルコールが好きなのですね、кружка大きなジョッキやводкаウオッカを、ジョッキちゃんкружечкаウオッカちゃんводочкаと指小形で読んでいます。
この飲み仲間は、口語でсобутыльникと言いますが、これもきれいな言葉ではなく、共犯者сообщникを連想させます。
男たちはビールにウオッカを加えます。ビアガーデンに案内すると、ロシア人からよく聞くフレーズが、
Пиво без водки – деньги на ветер.
ウオッカの入らないビールを飲むなど、お金を捨てるようなもの。
アルコール度が低く酔うこともできないような代物にお金を払うのは無駄、なのでしょう。
деньги на ветерは、「お金をドブに捨てるようなもの」というと、ぴったりきます。でも下水設備が整った現代は、「ドブ」も死語かもしれません。
ステキな軍人に窓越しに敬礼、相変わらずおしゃれなリューダ!