当然、手術は先ず局所麻酔をしてから皮膚を切開することから始まるわけだが、これがまた見ていられない位の稚拙なやりかただった。
皮膚の麻酔は普通の皮下注射や筋肉注射などとは全く異なっているのだ。
どうも其れが判っていないようだった。
診療所長はチク、チクと細かく注射針を刺したり抜いたりしてほんの少しずつ麻酔液をいれているが、これでは麻酔の効果が上がらないばかりか、刺される側、つまり患者側からすれば痛いばかりでたまらない。
針を刺したのが判らない位にすることが理想だと教授が教えてくれたのを思い出した。
外科の技術は職人芸だ。
いくら理屈がうまく喋れても、どのように立派な理論を考えだしても、患者は満足しない。
できるだけ痛みが少なく、短時間で手術がおわり、危険が無く、良い結果がえられることが求められる。
外科医の仕事は、常に100%の安全性、確実性を満たさなくてはならない厳しいものなのである。