インターン時代に僕は当時K製鉄と呼ばれていた大会社の社宅群内にあった左翼系の診療所で、大学病院には殆ど顔を出さず毎日アルバイトに励んでいた。
その頃すでに結婚していて稼がなくては生活ができなかったのである。
その診療所はSさんという若い事務員の指示ですべてが運営されているようだった。
何事も彼の指示どおりに働かされていたので、医学的に不合理だと思われることでも、従わざるを得ないことが多かった。
「いやなら、辞めていいよ。」
と面と向かって言われてしまうので、こちらは弱い立場だから受け入れるしかないのだ。
その一つに、臍帯(臍のお)移植治療というのがあった。
当時のソ連で流行していた治療法である。
出産のときの、赤ちゃんの臍のおを特殊な薬品中に保存し、それを人の胸部の皮下に埋没(埋め込む)手術する治療である。
これが喘息に効くという触れ込みだった。